正直な話、
今までコンクールで緊張とかほとんどしたことなかった。真面目に。いや、不真面目かなこれ?
今まで控室の席に座ってたらあっという間に出番が来て、それから楽しく演奏してあとは晩ご飯のことを考えてたりしてたのに。

なのに、今日はめちゃめちゃ緊張している…!
数学のテストが悪くてお母さんにビームサーベルのごとき苛烈なお叱りが飛んでくる前より緊張している。
そのお母さんにもいつもはコンクールが終わった後に今日の晩ご飯の献立を聞くのに今日はここに来るまでの道中で聞いてしまった!
『随分と余裕だな』じゃないのよママーン!寧ろ余裕ないの!あと娘が頑張る日に嫌いな食べ物出すのやめてよ。


「疲れた……」

なんかピアノ弾くのがちょっと怖いって初めての経験だ。今までの自分はこの控室のこの席に座ってマジで何してたんだ。思い出せ……思い出せなまえ。

『あー大学生くらいのお姉さんやお兄さんに紛れてこんなヒラッヒラのドレス着ないといかんのかー』
『今日の晩ご飯何だろー』

うわどうでもいいことばっか思い出しちゃう。



すると突然私のスマホの通知音が鳴った。ていうか、たかが通知音でここまでテンション下げられるのをあたしゃ考えてなかったよ。

「あれ、切原くん?」

なんで?と思ってメッセージを開くと、

『先輩たちと会場ではぐれちゃったんすよ!みょうじ先輩会ったりしてません?』

知 る か !

いや普通にみんなと連絡取ればいいじゃん!
返事をすると『だって返事がないんですもん!既読も付かないし!』だと。いや、もっと知らんし……。聞けば、柳くんと柳生くんと、それから幸村くんと来ているらしい。そこに君がいるのが本当に不思議だよ。

『来てくれてありがとね』
『本当は他の先輩もくるはずだったんすけど用事で無理だったんすよね。それより知りません?』
『入ってすぐの自販機のとこにいるんじゃね?』

まあ適当を言っておいた。本番前の人間によくもまあ緊張感のないメッセージを寄越してくるんだから、それくらい許されるであろうよ。

それから続いてまたメッセージが。今度は不二くんだ。

『会場に来ています』

それからすぐに送られて来たのは写真。そこには、会場を背にしてタカさんと不二くんと、それから手塚くんが写ってる。
ぶっちゃけティーンズには見えない3人が自撮りしている姿を想像するだけで笑っちゃう。なんか手塚くんの顔こわばってるし。

『この通り手塚も連れてきたよ。頑張ってね』
『ありがとう!頑張る!』

ああ、この前タカさんと不二くんがチケットをもう一枚欲しがったのは手塚くんを連れてくるためだったのか。二人とも気が利いてるなぁ。そうだよ、これだよこれ。切原くんにスクショして送っとこ。

切原くんにスクショして送った直後に、次は忍足くんからメッセージが来た。

『みんなで来とるで』

また、同じように写真。
写真には、氷帝のみんなと……白石くんとちーちゃんたちも写ってる。頑張ってみんなでぎゅうぎゅうに詰まって写ろうとしている。若くんとかは恐らく脇で見てるんだろうね。跡部くんは、案の定いない。

『ちーちゃんたちもいるの?』
『跡部が連れてきてん』
『跡部くんが?それほんと?』
『まーだ仲直りしてへんのよな。まあ跡部の方も白石の口車に乗せられたっぽいところあるし』
『跡部くんも来てるのか』
『せやで。
みんなで観とるし頑張りーや。あ、このお礼はまた今度でもええで』

今までこんなに友達が応援しにきてくれたことはなかったから、めっちゃ嬉しい。通知音がまた来た。切原くんからだ。

『先輩スゲー!やっぱりエスパー?言ったらマジでいたからびっくりしたっす』

またもや自撮り写メが送られてきた。柳くん、柳生くん、幸村くんも写ってて……やはり切原くんが浮いてる。

『俺寝ちゃうかもしんねーけど先輩頑張ってくださいね』

この子は本当に正直だな。寝てたら、絶対出だし大きくしてやる。

それにしても、こんなに知り合いが来てるなんて初めての経験だ。みんなが私の演奏を聴きに来てくれてる……。あ、また通知音。

開くと、2日前に会った若くん。

『なまえさん』

『この前から余裕なくしてたし』

『どうせ初めての緊張でもしてるんでしょうね』

本番前まで容赦ないな。そんでもってその通りだし。

『俺は緊張してる貴女も見てみたいですが』

『結局いつも通りのなまえさんの方が好きです』

いつも通りの私。
結局いつも通りの私って、そっか。
ろくでもないことだけ考えてたわけじゃない。この控室でこの席に座って、どんな演奏するか考えていたんだった。

『ありがとう』

『若くんに楽しい演奏聴かせてあげるね!』


若くんに返信した直後にノックする音が聞こえた。


2016/9/18修正
この話を書くのが恥ずかしかった。
みんな出てなくて申し訳ない……。


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