「それは心霊写真ですか!?」
「ぎゃあああ!?若くんびっくりさせないでよね!」
「なまえさんと、手塚さん……ですか?ああ、昨日はぐれて助けられたんですっけ?貴方という人は全く……」
「次はお説教なの!?」

次は氷帝のみんなが帰るらしい。なんか、氷帝のみんなが帰るって言ってるのに私だけ残るの寂しいな。置いていかれるみたいで。

「さみCーよなまえちゃん!一緒に帰ろ?ね?」
「ううジローちゃん!私もさみC!」
「だったらなまえも一緒に帰ればいいじゃん」
「ピアノの練習あるししかも跡部くんとまだ喧嘩してるもん」
「そういえば跡部の部屋に剛田商店ってしょーもない張り紙したのやっぱりなまえちゃんやろ?」
「しょーもないとは何だしょーもないとは!?」
「しょーもないものはしょーもないやん」
「侑士がなまえに逆襲してる!?」
「さっき不二くんから貰った心霊写真の用途を理解した。きっとあの写真はこの時の為に生まれてきたのだ。そうに違いない」
「ちょっ、それ絶対マジのやつやろ?送るとか言わんといてや」
「おい!テメーらそこのドラえもんバカと口聞いてないでさっさと荷物を運べ!」

剛田商店の息子が私を横目で見ながらみんなに指示する。ドラえもんバカとは悪かったな!寧ろ光栄ですよ!……ってあっかんべーしたけど無視された。

「無益な争いはよした方がいいですよ!なまえさんと跡部さんには、やっぱり仲良くして欲しいです」
「ごめんね。私も本当は仲直りしたいんだよ?」
「仲直りしたい割にはあっかんべーとかよくやるぜ」
「だって挑発してくるんだもん」
「耐え性0かよ」

精神修行が……って言ってくる宍戸くん。そう考えるとやっぱり走り込みが不足していたんだろうか。だったらそこは走り込みを中断に追いやった乾くんが悪いよ。

バスのエンジンがかかってもチョタくんとジローちゃんが『一緒に帰ろう!』って粘ってた。後でいっぱいスタンプ送られてきそう。

二人がバス内に連れて行かれたちょうどその時に私のところに樺地くんが近づいてきた。

「みょうじ……さん」
「樺地くんともここで一旦お別れだね」
「みょうじさん。跡部……さんは……本当は……仲直りしたい……はず、です」
「大丈夫。それは私もだよ樺地くん」
「……ウス」

跡部くんの親友の樺地くんが言うなら、そうなんだろうな。でも、ちょっと時間がかかりそうだ。跡部くんが怒ってる理由はちょっとやそっとじゃ分かんないや。

「行くぞ、樺地」
「ウス」

私の目の前を跡部くんが通り過ぎ……ようとして、立ち止まった。跡部くんはどこからか、ビン、多分スプレー的なやつを取り出して私の顔面に向ける。それ何!?催涙スプレー!?

「えっえっえっ!?うぎゃあ!?」

プシュ、って音がして思わず目を瞑る。催涙スプレーなんかじゃなく、甘い芳香でそれが香水なんだって分かった。甘くてエキゾチックで、それと跡部くんがいつも同じ匂いをさせてたはず。

「……昨日からテメーの匂いが気に食わねぇんだよ。お前ら!すぐに出発だ!」

目を瞑っている間に不機嫌そうな声が聞こえた……気がする。それから額になんか張り紙された。私が慌てている間に、跡部くんは運転手に出発するように言って、あっという間に出て行ってしまった。

「一体何がしたかったんだ……」

張り紙を剥がしてみると、それは昨日私が跡部くんの部屋に貼った『剛田商店』の張り紙だった。
樺地くんよ、私は跡部くんと仲直りできるかやっぱり分からんわ。

それを見越してなのか、私のスマホにまたメッセージが入る。忍足くんが、一言。
『早う仲直りしーや』だと。分かりました分かりました!あれ?続けてまたメッセージが。

『練習頑張って下さいね。お兄さんと喧嘩するのもやめて下さい。
あと、コンクール観に行きますから』

「……若くんずるいなぁ」
「そういえば、日吉と仲直りしたんだったな。お前」
「もう驚かないぞ私は」
「すげぇ覚悟だけど、何の覚悟なんだそれ」

とうとう立海のみんなも出発するらしい。はぁ、これで合宿はよくも悪くも最後か。

「つーか何にニヤけてんだ気持ち悪ィ」
「ブン太、嫉妬は醜いぞ」
「おいジャッカルのくせに調子乗るな!みょうじ、今ジャッカルが言ったことは忘れ……」
「えっ。ブンちゃんも若くんの頑張れメール欲しかったの……?」
「ちげーよバカ!マジで、お前なぁ!ああもう俺キレるのも疲れた……」

ブンちゃんはカリカリしすぎだ。毎日あれだけお菓子を食べてまだストレスを溜めるのか。ああ、ストレス溜まってるからお菓子を摂取するのかね。可哀想だから私から二人に塩飴を奮発した。

「なまえちゃんを家に連れて帰りたかー」
「こら、仁王くん無理を言ってはいけませんよ」
「冗談じゃ冗談。家で飼うには無理がありそうじゃ」
「人をペット扱いして!」
「生霊まで出すしのう」
「そこまで言うんだったら連れて帰ってもよろしくてよ」

もういっそ仁王くんの家で生霊出してやろうか。私が仁王くんを威嚇していると、柳生くんがスマートに仲裁に入るのだった。

「みょうじさん、コンクール頑張って下さいね」
「ありがとう柳生くん!あああ柳生くんと一緒に帰りたかったなぁ……」
「マジで柳生先輩には態度違うっすよねー」
「切原くんも私のこと連れて帰る?」
「げっ」
「どうしたの?
まるで、お化けでも見たみたいな顔して」
「うわあああやめて下さいよ!」

トラウマを掘り返さないで!と切原くんは仁王くんと柳生くんの後ろに隠れる。昨日のアレだな。確か切原くんもいたんだっけ。こう怯えているのを見ると私は相当怖かったらしい。柳生くんと仁王くんはそんな切原くんを連れてバスに乗り込むのだった。

「俺もなまえちゃんの生霊見たかったなあ」
「みんな生霊って言うけど違うから……多分。真田くんは?興味ある?」
「幽霊などいるわけがなかろう」
「言うと思ったわ……」
「真田は幽霊が怖いんだよ」
「へぇー意外だ」
「違う!何でも馬鹿正直に信じるみょうじに嘘を吹き込むのはやめてくれ」
「私にだってメディアリテラシーくらい備わっとるわ!」
「冗談さ。真田の怖いものなんて一つだけだよ」
「流行とか?」
「ぐ!?やるな、みょうじ……」

真田くんは図星だったっぽい。幸村くんはおかしそうに笑ってる。幸村くんの一番は不動のようだ。

「でも、なまえちゃんの生霊かぁ」
「だから分かんないってば」
「俺は生霊でも愛せる自信があるよ?」
「!?」
「!?幸村、ゴホン!そろそろ出発だぞ!早く乗らんか!」
「それは真田もじゃないか。じゃあ、なまえちゃんまたね……なまえちゃんが僕のところまで来るのを待ってるよ」
「う、え……」
「さぁ、行こうか」

焦る真田くんと、それとは対照的に余裕な幸村くんがバスの中に入っていく。私の余裕は最後の最後で幸村くんに吸収されてしまった。

「幸村にまた何か言われたか?」
「柳くんのことだからなんて言われたか分かるんでしょ?」
「99%だがな。あえて言及するのはやめよう」
「幸村くんすごすぎるわ……」
「俺からすればみょうじの方がすごい。お前にはこの合宿の間に随分楽しませてもらった」
「それは何のことで?」
「色々だ」

柳くんはノートを閉じる。そのノートに私の個人情報がズラッと並んでると思うとゾッとする。数学の不名誉な点数とか点数とか点数とか。

「しかし、結局跡部とは仲直りしなかったか」
「予想通り?」
「いや。お前がここまで鈍いことを計算に入れていなかった。その香り、跡部にやられたのだろう?」
「あ、この匂い?さっき去り際に香水かけられた」
「分かりやすいな。そしてお前はやはり鈍いな」
「そんなの分かってますよーだ。そりゃあ考えることに関しては柳くんの方が一枚上手でしょ」
「鈍くて聡いのがお前の恐ろしいところだ。このままだとお前が直感したことが実現しそうだ」

『何となく、私や跡部くんより先に、待ってる柳くんが先に折れそう』
勘は勘のままでしかないのに、緻密な分析と高度な予測が売り(って資料にあった)で実際その通りの柳くんがそんなこと言うなんて。

「その鈍い部分も聡い部分も全て見透かしてみたいものだ。その点ではお前は俺より一歩先で俺を迷わせている…俺より一枚上手ということだ。では、みょうじも頑張れ」
「うん。ありがとう!バイバイ」

やっぱりバスを降りてきそうになってた幸村くんをみんなが止めて、立海のバスも合宿所から出て行ってしまった。バスが見えなくなったあとに、メッセージが1つ。差出人不明。

『俺の連絡先だ 柳』

えええやっぱり柳くんのが一枚上手じゃん……。
スマホを閉じて見回すととうとうバスの駐車場に、私と私のスーツケースだけ。
それを見ると、合宿も終わったんだなーって寂しくなる。
この合宿でいろんなことがあったけど、寂しく思えるのも、ピアノを頑張ろうと思えるのも手塚くんはもちろん合宿にいたみんなのおかげなんだ。あと、この合宿に連れてきてくれた跡部くんも。


「やっぱり跡部くんと仲直りしなくちゃな」


みんなもそうだけど、私も時間は残り少ない。
8月最後にコンクールに出る。
それからあっという間に来る9月に、
私はパリに出発だ。


2016/9/18修正

合宿終わりました!
長かった。とても長かった。
私の更新頻度が目も当てられなかったせいです。
合宿といえばテニプリ夢小説界恒例行事ですがやはり難しくて…とにかくキャラが多いので贔屓がかなり出てしまったと思います。
やりたかったこととしては、

1日吉くんと距離を縮めること
2跡部を嫉妬メラメラにさせること
3幸村に翻弄されること
4手塚に背中を押してもらうこと
5みんなとわちゃわちゃすること

でした!
全部達成できた…はず。

今後のサティですが、ここで言ってしまうとオチが決まってません。大体、うっすらですが、最近見えてきたなー!って感じではあります。これからも続きます。もう70話オーバーかー。
皆様、ここまでお付き合いありがとうございました!『まだまだ付き合ってやるよ!』という方がいらっしゃいましたら幸いです。よろしくお願いいたします!
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