昨晩の肝試しのことは心にしまっておこうと思う。手塚くんと色々あったことを中心に、なんか私の生霊が現れたことも。思い出にしてはよくできすぎてるくらい。
だから、朝のみんなとのお別れは寂しい。一番遠方から来てる四天宝寺のみんなはすぐに出発するらしく、バスが早く着いていた。

「なまえちゃんとお別れ辛い……」
「今生の別れみたいな感じの言い方だね」
「せやけど遠いやん!遠距離や遠距離!辛い。ほんま辛い。なまえちゃんも一緒に大阪行こ!」

別れを渋ってくれるのは嬉しいけどそんな泣くほどか白石くん。そんな白石くんを謙也くんや銀さんが頑張って宥めている。財前くんは興味なさそうだ。

「白石くん、連絡取るね。また会おう」
「聞いた!?今!なまえちゃんが俺に連絡取ってくれるって!?なぁ!今そう聞こえたやんな!?」
「分かった分かった」
「財前くんも今度ガンダム談義しよーね!絶対だよ!」
「ん。ヒマやったらすけど」
「絶対?今なまえちゃん絶対言うた?なぁ?財前には絶対て言うた?しかも心なしか財前内心嬉しそうやったろ?な?」
「おい!これ以上チーム内に火種を巻くな!」
「謙也くんは最後までツッコミごくろう」
「誰のせいだと思ってんねん!」
「なまえちゃん」

謙也くんたちに引きずられていく白石くんと入れ替わりにちーちゃんがバスから降りてきて、私の頭をくしゃくしゃ撫でた。

「なまえちゃん、またね。コンクールがんばらんといかんばい」
「当たり前ばい。がんばるに決まっとるたい」
「……なまえちゃん、ちょっと変わった」
「えっ?まさか身長が!?」
「いや、身長じゃなか」
「あっ、さいですか……」

身長のことじゃないのか。期待して損した。ちーちゃんは苦笑してもう一度私の頭を撫でた。その顔を見ると、なぜか寂しそうだ。

「ちーちゃんそぎゃん寂しそうな顔してどがんしたと?」
「なまえちゃんとのお別れはいつも寂しかたい……って金ちゃん!まだなまえちゃんとの話しが」
「千歳ぇーはよ帰ろうやー!ねーちゃん!またワイと遊んで!ユーレイは勘弁や!」
「いいぞナイスや金ちゃん!」
「いや蔵くんそれは大人気ないわよ」
「おいみょうじ!次会うときはレパートリー増やしとけよな!」
「次あった時はリベンジマッチだよ!」
「いやーん!なまえちゃん私ともリベンジマッチよ!」
「おい何のリベンジマッチや!?リベンジマッチって何や!?」
「何のリベンジマッチか分かんないけど!約束だよ!」

一氏くんと小春ちゃんとのリベンジマッチを約束して、また降りてきそうになった白石くんを頑張ってバスに押し込んで見送った。直後にスマホ(母から受け取った代替品)の通知音が鳴り出したから見れば誰かから膝をついて号泣するドラえもんのスタンプが私のLINEに送られてくる。今別れたばっかりなのにスタンプ連打しとるのか……すごいぞ白石くん。

「うわぁ、すごいね。それ白石かな?」
「うん、白石くん寂しがってくれるのは嬉しいけど……ってうぎゃああふっじくん!」
「昨日もこのやり取りあったね」
「神出鬼没なんだから……」

不二くんがやってきて、私のスマホを覗き込む。ということは、次は青学のみんなが帰るのか。
不二くんに続いて青学のみんながバス乗り場に次々やってくる。おい越前くんまだ私に怯えてるのか。ていうか海堂くんまで私に怯えてない?

「みょうじさんは帰らないのかい?」
「私はこのままおばあちゃんの家に帰るよ」
「もともとは跡部に巻き込まれたんだっけ?大変だったにゃー」
「数学75点でな」
「今すぐにそのデータを消去しようね!」

乾くんのノートを奪おうと躍起になっていたら、手塚くんが荷物を積み込むように声をかける。手塚くんの声にちょっとドキッとした。

「みょうじさん……本物っすよね?」
「海堂くんもマジで何言ってんの?私は私だよ、私以外私じゃないの!当然だけどね!」
「今のちょっと似てたっす」
「じゃあ次のレパートリーはこれだね」
「またモノマネ見せて下さいよ!貞子のモノマネとか!なっ、マムシ!越前!」
「げっ」
「ふざけんなやめろ!」
「伽耶子ならいける」
「うわっみょうじ先輩またね!」
「お疲れ様っす!」

3人は私の伽耶子を聞かないままバスに乗ってしまった。私の伽耶子は宍戸くんにも『似てるっていうか迫真が過剰』って言われるぐらい好評なのになぁ。肝試しでもやりたかったなー。

「じゃあなまえまたね。コンクールまた観に行くから」
「ありがとタカさん!またチケット送っておくね」
「あ、僕の分もできればお願い。是非聴きに行くよ」
「おお!嬉しい!じゃあタカさんと不二くんの分の2枚送るね」
「ダメだよなまえ。あと一枚」
「誰の分?おじさんの?」
「あはは、そりゃあね」
「もちろんさ」

タカさんと不二くんは笑い合っている。何が可笑しいんだろう?教えてくれる前に、後ろから手塚くんがやってきて、二人はやっぱり面白そうに『またね』とだけ言ってそそくさとバスに乗ってしまった。

「みょうじさん」
「あ、手塚くん。合宿中ありがとう。特に昨日は色々とお世話になったし……」
「いや、こちらこそ合宿中は色々と世話になった。感謝する。みょうじさんも気をつけてくれ」
「うん」

手塚くんと私はやっぱり繋ぐ言葉がなくて無言になっちゃう。それで昨日の夜が思い出されちゃって恥ずかしくなる。多分手塚くんも同じことを考えてるはずだ。

「ちょっと部長素っ気なさすぎじゃないっすか?」
「桃城!声がでかい!」
「照れてるんだよきっと」
「まだまだだね」
「手塚も可愛いところあるよね〜」
「英二、あんまり言うとほら、手塚の沽券にも関わるぞ」
「興味深いデータが取れた」

「ではまた」
「じゃあね!」

これは青学に到着した直後に走らされるに違いない。哀れな……。
手塚くんが最後に乗りこんで青学のバスは行ってしまった。そして、不二くんからメッセージが届く。白石くんのスタンプ連打の次は一体……って何この心霊写真は。



2016/9/17修正
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