それは、なまえちゃんと手塚が仲良く神社で願い事をするもう少し前のこと。

「ったく!誰だよあんな叫び声出した奴は!?」
「って言って向日さんすっごい勢いで飛び出してったじゃないすか!?」
「で、二人とも手塚くん置いてきちゃったんだ」
「うわぁ……部長かわいそ」
「クソクソ!うるせーな!生意気なんだよお前!」


神社前にやってきたのは越前チーム……と思いきやおまけが2人付いてきていたんだ。向日と切原。
話を聞いているとどうやらさっき上がった悲鳴で手塚を置いて二人で逃げてしまったらしい。
因みにさっきの悲鳴は、忍足2人が吊るした蒟蒻に驚いた英二のものだ。

「あーあー手塚くん大丈夫なのかなぁ?今すぐこの4人を神社に届けてすぐに手塚くんのところにいくね!」
「うわぁ薄情者!俺たちを見捨てるつもりなんすかみょうじ先輩!」
「盛大なブーメランじゃん」
「なあーねーちゃん!早くお願いや!お願いしよ!」

5人が神社の賽銭箱に近付いてくる。
そこには一つ罠があった。賽銭箱の所には仁王がバッチリメイクで隠れていたんだ。真田の格好して。

「貴様らぁあああ!」
「ぎゃああああああ副部長ー!」

驚いた切原が一番周りを驚かせていると言っても過言じゃない。その間に僕は5人の背後に回った。もちろん、特に驚いた様子もないなまえちゃんを驚かすためだ。

「ばあ」
「うん?」
「ぎゃああああああああ!!!」

なまえちゃんは一切驚く様子はない。驚いたのは真田(に変装した仁王)に驚いた時のテンションを引きずっている切原とその他だった。

「なまえちゃん全然驚かないんだね」
「そりゃあね。私が幽霊みたいなもんですからね」
「越前、何かなまえちゃんに言ったの?」
「魑魅魍魎っぽいとは言ったっすよ」
「ひどいのう、なまえちゃんが傷付くじゃろ」
「そ、その声は!?」
「俺じゃ、赤也」
「仁王先輩!」
「プリッ」

正体を現した仁王に切原はほっとしていた。隣の遠山は真田の顔の下から別人が出てきたことの衝撃で固まっていたけど。

「それより赤也、おまんのチームは手塚がおったろ?どうしたんじゃ」
「がっくんと切原くんは手塚くんを見捨てて逃げて来たんですぅーねぇ?二人とも?」
「手塚への贔屓が露骨だねなまえちゃん」

それでもまあ、手塚のことなら心配ないだろうと思った。手塚は出る前に携帯電話も持っていたし切原と向日は懐中電灯を持っていないから、きっと手塚が持っているんだろうって。実際、切原も向日もそう言っていた。

「手塚だぜ?大丈夫だろ。ここで待てばいいって」
「それもそうじゃのう」
「……ん?」

その時、突然越前の携帯が鳴り出した。画面にチラリと『部長』という字が見えた。どうやら手塚は越前にメールを寄越したらしかった。どうして越前なんだろう?と僕は近付いて、手塚のメールを読んだんだ。


『はぐれたみょうじさんと会った。一緒にゴールへ向かうことにしたのでみょうじさんを探しているならば危険もあるからやめてゴールに先に行け』

「……」
「んー?どうしたんやコシマエ」
「これ……」

全員が手塚からのメールを凝視する。
手塚は、今なまえちゃんと一緒にいる。
僕たちも、今なまえちゃんと一緒にいる。

「なまえ?は?だって今ここに」
「うっそ、ちょっ、みょうじ先輩?」

メールから目を放して、なまえちゃんを見た。
なまえちゃんはやっぱりそこにいた。
それで笑顔で言ったんだ。


「どうしたの?
まるで、お化けでも見たみたいな顔して」

据わった目は暗闇とはいえ必要以上に瞳孔が開いている。歯を見せてニヤリと笑った口端からはポタポタ溢れる血が、笑い声はまるでからくり人形のようにカタカタカタカタカタカタと音をたてていた……。



と、まぁその場からみんなで逃げ出して、泣きつく4人は仁王に任せて僕だけ戻ってきたら、ちょうどそこに手塚となまえちゃんがいたんだ。
二人は仲良く手を繋いでいたんだよ。本当に。
しかも、二人で神社にお願いした後に、内容を聞いたら『お互いの夢が叶いますように』とか言うんだよ?びっくりした。あの手塚が。僕にはなまえちゃんの謎のドッペルゲンガーよりこっちの方が驚きだったな。

「最後が本題なのにみんなの反応が薄いね」
「だって怖いんだもん!」
「とにかくその前のホラー話が怖すぎて……なぁ、越前、本当に見たのか?」
「もう二度と思い出したくない。早く忘れたい」
「これは重傷だ」

唐突に起こった肝試し中の本物(?)の登場に僕の部屋にショックを受けた越前を始めどうやら一人に耐えられないみんながやってきた。要は手塚以外。聞いた話によると氷帝も立海も恐怖して集まっているらしい。一人で寝られない人が多いなぁ。
みんなが謎のドッペルなまえちゃんに恐怖する中、タカさんだけが僕の本題に興味を示してくれた。

「別になまえの周りの怪奇現象なんて今に始まったことじゃないし俺は手塚とのことが気になるな」
「タカさんそれもどうなんすか?」
「桃もわかるよ。なまえと一週間ぐらい一緒にいればわかる」
「全然分かりたくないっす」
「ほう。それはぜひデータを取りたい」

乾にはできればなまえちゃんと手塚のデータを取ってほしいな。みんなももっと興味を持ってもいいと思うんだ。
二人きりの時に何があったんだろう。
やっぱり、手塚が肝試しに参加したのはなまえちゃんがいるからだろうか。なまえちゃんを見ている、といってもあそこまで見ているなんてね。

「じゃあタカさん、手塚となまえちゃんが手を繋いでる証拠写真見せてあげようか?」
「えっ、あるの?」
「もちろん」
「何それ!?見たい見たい!」
「不二先輩それ盗撮じゃないすか?」
「先輩早く早く!」
「興味深い」
「やるな不二!」
「俺は遠慮するっす……」
「君たちちゃっかりしてるよね」

今はなまえちゃんの顔を直視できないだろう越前以外のみんなに、僕がこっそり撮っておいた秘蔵の一枚を見せる。これをレフで撮れたら良かったんだけどなぁ。

「いや……マジすかコレ」
「さすがなまえだ…これがなまえだよ、桃」

みんなが写真を見て真っ青な顔になる。
スマホのカメラで撮影した写真は、最早中のなまえちゃんと手塚をほとんど視認できないほどに白い手形が付いていた。

「ほら、だから見ない方が良かったんすよ」

察した越前が枕に顔を埋めながら言うのだった。


2016/9/17修正
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