「うわぁ……すっごい不安なトリオだ」
「ねーちゃん飴ちゃん!飴ちゃんくれ!」
「それこっちのセリフだから」

くじ引きの結果、私はこの元気と生意気な年下男子と組むことになった。不安だ。

まずは金ちゃん。言わずもがな不安だ。我々のパーティが安全に肝試しをできるかは彼のコントロールにかかっている。
そして、越前くん。なんか不安だ。私は彼にいじめられたりしないだろうか。

あと地味に私が腕時計を忘れたのも不安要素の一つだ。まあでも二人とも可愛いんだからいいんだけどね。

「はぁい、じゃあ懐中電灯持って」
「越前くんが持って!私たち壊しそうなんだもん」
「はぁ……」
「この先にお社があって、そこにこのろうそくを立ててくるのよ。道標に沿って行けば必ず見つかるわ!」
「ああ、あのちっちゃい神社か」
「先輩知ってるの?」
「そりゃあ小さい頃から来てるし」
「意外に心強い」
「じゃあいってらっしゃい!気をつけてねん!」

小春ちゃんに見送られて、暗い暗い山道の中を出発する。聞こえるのは虫の声と風でざわつく木の葉の音だけだ。あと金ちゃんがガリガリ塩飴を噛む音。

「この先の神社ってね、心が通じ合って相性ピッタリの人と願い事をしたらその人たちの願いを必ず叶えてくれるんだって言われてるんだよ」
「へぇー」
「1回だけ」
「1回だけって……それ神社として良いの?」
「だから初詣に行く人も少ないんだよねぇ」
「じゃあ『叶える願い事の数増やしてー!』って神様にお願いしたらええやん!」
「きっ、金ちゃん頭良い!……とみせかけて残念でしたー!おばあちゃんがそれは反則って言ってましたー!」
「何やて!そんならワイたくさんお願いできへんやんけ!」
「……」

越前くんが呆れた目で我々を見ている。ほら!まだ中1なんだからそんなに大人びてないで我々と一緒に純真無垢な心を育てていこうよ!

「それよりみょうじ先輩は怖くないの?幽霊とか」
「幽霊?あんまり。もう信じることさえバカらしくなってきちゃったよ。だって夜の学校に泊まったり待ち伏せしてもあったことないし……」
「アンタ肝試す必要ないでしょ」
「スゲー!」

二人の後輩が尊敬の眼差しを私に向けてくれた。これだよこれ!この際学校に泊まってるのはテストに遅刻したくないからというのは黙っておこう。

「まあアンタが妖怪みたいなもんだし」
「えっ何それ……」
「コシマエの言うとおりや!ねーちゃんがおったら全然怖くあらへんな!」
「金ちゃん、その最初の同意要らないから。でも……」
「うわっ」

金ちゃんの認識を訂正しようとしていたら、越前くんが低いテンションで声を上げた。よく見ると越前くんの頭上に糸で吊るされたものがある。闇で何なのか全く判別がつかない。

「ヌルヌルするし生臭い」
「何それ?」

越前が懐中電灯で照らすと……そこにはそういえば肝試し必須アイテムだったこんにゃくが。ちょっと生臭い。

「こんにゃくっすね」
「こんにゃく!?」
「あっ!金ちゃん食べちゃダメだよ……ってもう食べてしまったか」

まさか肝試しの最中にこんにゃくを食べる人初めて見たよ。何の下処理もしてないこんにゃくは生臭くて美味しくないぞ。私も初めての肝試しでそれやって後悔したから分かる。

「うう……何やこれ!まっずい!うえっ」
「ほうれ言わんこっちゃない。生で食べて美味しいこんにゃくなんて、翻訳こんにゃくお味噌味しかないんだぞ」
「でもなんだかんだ食べきってる」 
「残したら神様からバチが当たるんやで!」

金ちゃん偉いな。金ちゃんが食べてしまってこんにゃくもなくなり、スーッとこんにゃくを吊るしていた糸は撤退していく。こんにゃくを吊り下げていた主は木に隠れて見えないものの、ヒソヒソ声が……漏れてる漏れてる。

「越前くんリアクション薄いね」
「アンタくらい肝が座ってる、ってことだから」
「でも何だか私、最初の不安が払拭されてきた!
この3人なら恐山でも行けそう!はい金ちゃん!口直しの飴!」
「おーきに!」

不安な一行から、強気の一行にレベルアップして、私と越前くんと金ちゃんは足を進めていく。
だんだんと道は狭くなって消えていく。もうほとんど森の中だ。よく来ていたといっても昼間だけだし夜だと見たことのない道に思える。

「あ、何かいる」
「おお、本当だ」
「ユーレイ!?」

越前くんが指し示す方向は道のはずれの茂み。何だかぼうっとした発光体が見える。宙に浮いてるし人魂っぽくも見える。人魂って正直これっぽっちも怖くないな。私が参加してたならもっと怖い仕掛けをするのに。私がバッチリ幽霊メイクして。

「……ん」
「でも、何か聞こえない?」
「うそ、聞こえる?」
「聞こえる」
「……ん……ん……」
「確かに」
「何や、何や!?一体何て言うとるん!?」

にわかに騒ぎ始めた金ちゃんに塩飴を渡して口を塞ぐ。金ちゃんが黙ったのを見計らって声に耳を澄ました。

「ガリガリガリガリッ」
「金ちゃん!塩飴はもっと味わって食べないとダメだよ!」

塩飴を噛むことの味をしめたな。改めて越前くんと耳を済ませる。

ん……ん……。
ちゃん……。
なまえ……ちゃん……。
なまえちゃん。


「私が呼ばれてる」
「呼ばれてる?」
「絶対ユーレイや!」
「幽霊だったら嬉しいんだけどな」
「そういう問題じゃないでしょ」
「見に行こうよ!」

そういうと越前くんと金ちゃんは全力で首を降っている。意外に越前くんも怖がっているみたいだ。

「じゃあ私ちょっとだけ見てくる。二人はここにいてよ」
「みょうじ先輩、それ本気なの?」
「ねーちゃんあかん!絶対あの世に連れて行かれる!」
「大丈夫だって!じゃあ二人ともここにいてよ。絶対おいていかないでね!」

二人に念押しして私は茂みの中に入っていく。
発光体はみるみる明るく、大きくなっていってる。比例して私の名前を呼ぶ声も大きくなる。なまえちゃん、なまえちゃんって……



「ぎゃっ!」



ぎゃっという情けない声がして視界からみょうじ先輩が消えた。どうやらコケたらしい。
それから、むくりと起き上がると人魂……らしい光を確認することもなく引き返してきた。その顔はむすっとしていた。

「もういいや。どうせ光も懐中電灯だよ」
「アンタちょっと躓いただけで投げやりになりすぎでしょ」
「だってさー、ほら、もうこんな時間だよ」

みょうじ先輩は左腕にしていたごつい腕時計を見せてくる。時間は経っていたらしい。

「さあ二人とも!早く終わらせちゃおう!」
「ワイ負けへんで!コシマエ!競争や!」
「いや、競争じゃないし。同じチームだから」
「まだまだだね」

みょうじ先輩が俺達に向かってそう言う。無駄にドヤ顔してるし。

「俺のセリフとらないでよね」
「そーゆーところもまだまだだね」

そう言うとみょうじ先輩はこけて頭打ったんじゃないかってくらい大人びていて不敵な笑顔をした。



2016/11/12修正

おわかりいただけただろうか(いつもの)
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