20:00から肝試しだと。本当は肝試しが終わってからお風呂を済ませたかったけども汗でベタベタだから一度入っておくことにした。
そういえば来る途中で小春ちゃんと一氏くんを見かけたけど、若くん達にすっごい剣幕で迫られていた。
もしかして……お化け役志望なの?えええ若くんはともかくあのチョタくんが脅かす役とか似合わんなぁ。

「なまえちゃんも肝試しに参加するんだってね?」
「ふっじくん!」
「ふっじくんって誰だい?」

お風呂に入る前に洗濯機を回していたら不二くんと偶然会って話しかけられた。不二くんもどうやら肝試しに参加するらしい。

「脅かさないでよね……参加するよ。不二くんはお化け役かな?」
「ご明察。どうして分かったのかな?」

不二くんはどう見ても人に脅かされる立場の人間じゃないもん。誰だってご明察できるわ。不二くんが『何か理由があるんだよね?』と微笑みながら言ってくるのがめっちゃ恐ろしくてとりあえずはぐらかすことにする。

「そっそんなことより手塚くんは!?参加するの?」
「手塚はそういうタイプじゃないからね。参加しないんじゃないのかな?」

ぐうっ!答えが見え透いていた質問だった。

「でもまあ……跡部はこういうの好きそうだし参加するんじゃないかな?誘えばの話だけど」
「跡部くん?」
「手塚は来ないだろうけど代わりに跡部を誘ってみたら。仲直りのきっかけになるかもしれないよ?」

突然出てきた名前にぎょっとしてしまった。理由をはぐらかしたことへの不二くんのちょっとした復讐なのかもしれないと勘ぐってみたけど、そういうわけじゃないらしい。

「……」
「なまえちゃんって意地っ張りだよね。
あまりそうやって気張るのはいけないよ、色々とね」
「……気張ってるかは自分でも分かんないけどちょっとぞっとした」
「僕以上にキミのことが見えている人もいるさ。多分ね……いや、この場合見ているという方が正しいのかもしれない」

その瞼の下に慧眼を隠しているのなら不二くんがますます恐ろしいよ。不二くんはクスクス笑いながら私に別れを告げて颯爽と去っていく。

「じゃあまた後で」



「……来てしまった」

結局不二くんに背中を押される形でここに来てしまった……。お風呂に入ってからすぐこの跡部くんの部屋に直行。跡部くんとの講和をはかるチャンスはとりあえず思いつくだけでも、かこつける形にはなってしまったものの結局この肝試ししかない。
ノックをしようと手を伸ばす。緊張しているのが自分でも分かる。深呼吸すると白石くんから貰ったカモミールのシャンプーの香りが肺を通って脳に行き着いて安心する……ええい御託はここまでだ腹を決めてノック!


「……」

しようとしてガチャリとドアが開いて跡部くんが出てきた。

「……」
「や、やぁ、こっこんばんはぁ」
「声が裏返ってるぞ」

何しに来た、と言わんばかりに跡部くんが私を睨んでくる。身長差があるから威力が上がっている気がする。

「あの……」
「風呂上がりか」
「あ、うん……」
「その匂いは何だ?」
「カモミール……」
「どこかで同じ匂いさせてる奴がいたな」
「多分白石くんだと思う」
「ほう?」

見える。私にも見えるぞ。
跡部くんの機嫌がどんどん斜めに傾斜をつけていってる。ここは、変に誤魔化したりせず正直に行った方がいい……かな?

「白石くんにシャンプー貰った」
「ハッ!だったら『多分白石くんだと思う』、じゃなくて間違いなく白石くんだな?」
「……」

落ち着けなまえ……揚げ足を取られた上に嘲笑されたからって逆上してはならない。ここは明鏡止水を心掛けよう。

「用はそれだけだな」
「えっ」

バタン!と私の目の前でドアが激しい音をたてて閉じる。
何で白石くんから貰ったシャンプー見せびらかすことだけが用になってんの。いかん、明鏡止水……なんて無理だ。くうううもう絶対許さん!

「跡部くんのバカ!補正なしジャイアン!店番でもしてろ!」

悔しさのあまりに跡部くんの部屋のドアに剛田商店と張り紙をしておいた。ちょっとだけすっきりした。




「なまえがやっと来た!遅いで!」
「……」
「お前なんでそんなに不機嫌なん?
ほら、クジ」

謙也くんが私にクジを差し出しながら聞いてくる。私はクジを豪快に掴み取って怒られてしまった。

「なまえちゃん、跡部とは……仲直りできなかったんだね」
「もういいもん!仲直りなんてしなくていいもん」
「何があったかは知らないけどますますこじれちゃったみたいだね」

せっかく不二くんには気を使ってもらったのに仲直りできなかったのは悪いと思ってるけど、今は跡部くんに怒りの導火線を着火されてしまった状態でイライラ。

「なまえちゃんに誘われたら絶対来ると思ったんだけどな。予想が外れたよ。乾みたいにはいかないね」
「乾くんみたいな不二くん嫌だよ」
「なまえちゃん!」

不二くんと話していたら、白石くんが手を振りながら近付いてきた。そういえば白石くん、若くんたちと一緒にすごい剣幕で何かを迫ってたけどあれうまく行ったんだろうか。

「なまえちゃん……あれ?もしかして俺のシャンプーつこうてくれたん?」
「そうそう、今日一日も使ってたんだよ。まだお風呂上がってすぐだから良い匂いするよね」
「つこうたら真っ先に俺に見せに来て言うたのに」
「ごめんすっかり忘れてた」
「なるほど」

いつも微笑んでいるといえばそうだけど不二くんは意味ありげに笑っている。

「白石、マーキングは大成功したみたいだよ」
「やっぱり?因みに聞くと相手は跡部くんやろ?」
「分かっててやったんだ」
「跡部くん……絶対許さん」
「ほら、この通り」
「なまえちゃん、これからもそのシャンプーつこうてな」
「もちろん」
「もちろん……!?」

貰ったんだし、と言う前に白石くんはなぜか悦に入っている。前々から思ってるけど白石くんは喜びに沸くポイントがよく分かんないね。
不二くんは気にするなって言ってたから気にしないことにする。そう決めたときに、ちょうど小春ちゃんから呼ばれた。ナイスタイミンッ!

「なまえちゃんクジ見せて〜」
「はーい!」



「不二先輩」
「あれ、越前……と手塚じゃないか」
「肝試し会場はここか」

肝試しに参加する越前はともかく、その越前と一緒に手塚がやって来た。しかも肝試し会場は?と言っている。

「越前、どうして手塚がいるんだい?」
「なんか部長も参加するみたいっすよ。飛び入りいけるって聞いたみたいで」
「……」

正直驚きだ。どういう風の吹き回しなんだろう。越前も熱や夏風邪の類を疑っている。
僕も疑うよ。手塚の顔をした別の誰かじゃないかとすら思う。立海の仁王とか。でも驚かす側で仁王も柳生もいる。
跡部のことといい、僕の予想はつくづく外れる。

「なまえちゃん、すごいなぁ」
「みょうじさんがどうかしたのか?」

外したのはなまえちゃんのせいだと思いたい。



2016/9/17修正

目を閉じてるキャラは慧眼持ちという勝手なイメージ。いや、柳くんも不二くんも絶対そうだ。
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