「肝試し?」
「合宿最後の夜だからせっかくだし、って話になったのよ!参加者募ってるの。なまえちゃん、こういうの好きでしょ?」
「小春の誘いを断るわけあらへんよなぁ?」
「おう好きか嫌いかと聞かれたら大好きですね」
「やっぱりぃ〜!」
「もちろん脅かす側でエントリー!」
「ダメよ」
「えっ」
「絶対アカン」
「何の権限があってっ!」
「主催者の権限よ!」
「くうううう!」

金色と一氏の剣幕に圧されたり食って掛かったりして、交渉の結果しぶしぶなまえは肝試しに参加することになってしまった。裏で何かしらの力が働いているに違いないと悪態を突きつつも推察のしようもないので、なまえは特に引きずることもなく仕事やピアノの練習をしていた。

そして、何かしらの力の一人である白石は浮かれていた。

「なまえちゃんと肝試しやー!」
「白石がこれ以上にないくらい活き活きしとる」
「これが活き活きせずにいられるわけないやろ!なまえちゃんと肝試し!肝試しやぞ!」
「分かった分かった!」

肝試し。古典的ながら気になる異性との距離を縮めるのに持ってこいのイベントである。
白石もなまえが肝試しに参加するにあたって脳内でばっちりベターな予想図を描いていた。

「紛れもなく崩れますね」
「全くだ」
「キミたち俺まだ話してすらおらんで」
「ちゅーか日吉に鳳!お前らここで何してんねん!?」
「それはともかくとして」
「お、おう」
「何流されとんのや謙也!」

謙也は日吉の冷静すぎる態度に流されてしまった。日吉は白石を『まだまだだね』という表情で見ている。鳳もそうだ。同情寄りの表情だが。

「どうせなまえさんが幽霊に怖がったのに乗じてあんなことやこんなことをしようと不埒な妄想をしているんでしょうが」
「俺の恋心の5割と1厘はプラトニックやで!」
「1厘分しか邪な下心に勝ってへんぞ!」
「調子により上下するんや」
「どこのバッターやお前は!」
「話を聞いてください」

日吉がつくづく財前と近い人種であると白石と謙也は思い知ったのだった。

「いつからなまえさんが幽霊が苦手ってことになってるんですか?」
「えっ」
「えっ、なまえちゃん……ちゃうの?」
「やだなぁ、なまえさんは幽霊なんて平気ですよ」

白石の脳内で未来予想図が瓦解していく。
すっかり忘れていたのだった。なまえ自体が魑魅魍魎の類であるということを。

「もともと夜の学校を宿泊施設とか思っているような人ですし。あの人には暗闇に対する恐怖とかの本能が備わってませんし」
「人類が誕生してから培ってきた本能すら欠落しとんのか!?」
「欠落してます」
「それ人間かも怪しいやん」
「じゃ、じゃあなまえちゃんって…!?
まさかやっぱりラムちゃん…!?」
「はぁ?」
「白石……ほんまお前のこと尊敬する」
「おーい」
「はっ!?なまえちゃん!?」

なまえが魑魅魍魎だろうが宇宙人だろうが白石には全く関係はないらしい。
やってきたなまえのもとにまるでテレポートしたように接近して肝試しの話題を始めた。

「なまえちゃんも肝試し参加するんやて?」
「そうだよ。本当は脅かす側が良かったんだけどね……小春ちゃんがガリガリ君くれるっていうから」
「買収されてるやんけ」
「俺も参加するねん!」
「俺もですなまえさん!」
「不本意ですが俺もです」
「うん、若くんは絶対参加するって知ってた。
でも楽しみだねー」

なまえは無邪気な笑顔でいい放った。

「誰とペアになるのかな……って何その険しい顔?」

忘れていたことはもう1つ。
ついなまえが参加する=自分とペアになると結びつけてしまっていた。完全に浮かれてしまっていた。
そもそもペア決めはほぼ間違いなくくじ引き、参加者が増えれば増えるほどなまえと組める確率は低くなる。なまえは幽霊が苦手じゃない…とか言っている場合じゃない。

「……あかん!!!」

第一声をあげた白石が先陣を切り、日吉と鳳は走り去ってしまった。

「ねぇ謙也くん。あの三人どうしたの?」
「各所に根回しと不正を働きに行ったんや…」
「何それ……謙也くん、何か頭良さそうなこと言って誤魔化そうとしてんの?」
「これはホンマや!」

何しろ自分が一瞬主催者である金色と一氏のところに行こうとしたのだから当たっているに違いないのだった。


2016/9/17修正
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