ハーゲンダッツを食べたせいでお昼をあんまり食べれなかった。これは反省。
それからなかなか忙しなく動いて、
ギラつく日差しの中、汗びっしょりになって、休憩がてらシャワーを浴びに行った。
それからピアノの練習をして、またみんなのお手伝いをしにいく。
気付けばもう16時になろうとしていた。

学生という身分についていることに慢心して、夏休みはほぼ毎日、ピアノを弾く以外はダラダラしている自分にはちょうどいいね。


「もう洗濯機は見ないぞ!」

ドラム式洗濯機から学んだこと。
回転に惑わされないことである。
洗濯機を見たい欲望を抑えて先に乾燥機に放り込んでおいた洗濯物をたたむ。昼前はあんなに暑くて私もフィギュアスケートをするインド風のおじさんの幻を見たらしいくらいなのに、夕方近くの今は不安定な曇り空になってきた。夕立でも来るんじゃないかな?

「やあ、なまえちゃん。お疲れさん」
「白石くん、お疲れ様。どうしたの?」

声をかけてきたのは白石くんだった。肩には白いタオルをかけている。なんとなくふんわりシャンプーの香りがした。

「これから一雨きそうやし室内練習になったんや。その前にシャワー浴びよう思て浴びて出てきたらなまえちゃんがおった」
「あ、やっぱり雨降りそう?」
「ああ。結構降りそうやで」

雷が鳴りませんように。
窓の隙間から曇り空を眺めてお祈りしていると、白石くんが「ちょっと失礼」と私にずいっと近付いてくる。

「あー、やっぱりええ匂いや」
「私もさっきお風呂入ったもん」

白石くんが言ってるのがシャンプーのことだと分かる。
備え付けのシャンプーを使った。いかにも高級感溢れる外装のシャンプーで、ローズの香りがする。流石跡部くん、あれ絶対超高級品だよ。

「その香り、跡部くんが使うてるのと一緒やで」
「跡部くん?」
「男子の備え付けのとちゃう香りやわ」
「へー」

言われてみればそんな気がする。私は納得したんだけど、白石くんは拍子抜けしたような表情になったのでちょっとびっくり。

「私何か変なこと言った?」
「いや、跡部くんには妬けるって思とったけどそうでもあらへんみたいで安心した」

跡部くんにやける?

怪訝に思って、多分しかめっ面になってる私に白石くんは気にせんでええよと言ってくれるので考えるのはやめた。多分考えたところで正確な答えは出せないもん。

「あ、そうそう。シャンプーなら白石くんだってすごくいい匂いするよ!」
「ほんまに?おおきに」
「何の香り?」
「当ててみ」
「絶対当てる!しゃがんで!」

白石くんにしゃがんでもらって(悔しいが白石くんは背がかなり高い)、サラサラの髪の匂いを嗅がせてもらった。ふんわりとしたちょっとフルーティーな香りがする。これ……どこかで。

「はっ!ブンちゃん……」
「丸井くんが?どうかしたん?」
「ブンちゃんの噛んでたガムと似た香りがする」
「その例えは反応し辛いわ」
「グリーンアップルだっけ?」
「お、確かにグリーンアップルに近いって言われるな」
「何だろう?」
「ヒントあげようか?キク科の植物でハーブティーとしてよう使われとる」
「ハーブティーか、あ!カモミールとか?」
「おお!一発で当てるなんて大したもんや」
「あはは、思いついたのがそれしかなかっただけだよ」

カモミールって青リンゴの香りと似てるのか。
ほんのり甘くて爽やかな芳香は白石くんに相応しい。

「うん、やっぱりこの香り好きだな」
「せや、なまえちゃんが気に入ったなら今これ開けたばっかりやし、あげるで」
「えっ、いいの?」
「寧ろ俺がなまえちゃんに使うて欲しいねん。あ、女の子の髪にも優しいオーガニックやから安心して使うてな」

それと予備は持ってるからお気遣いなく。
そう付け加える白石くん、気前良いし準備良いし、本当に完璧な人だ。
でも白石くんのシャンプーの香り、結構どストライクだから本当に嬉しい。素直にお礼を告げると白石くんも嬉しそうに笑った。

「なぁ、なまえちゃん」
「何?」
「俺って自分でも考えたことあらへんかったけど結構独占欲強いのかもしれへんわ」
「え?やっぱりシャンプーあげたくないとか?」
「ははは!そうやない」

白石くんが私の髪を撫でた。指が髪を梳くと、まだ乾かしたばかりだからローズの芳香がはじける。

「なまえちゃん、そういう男ってすぐ自分のものを他の男にも誇示できるようにすんねん」
「ほう……よく分からん」
「ええよ。分からん方が俺には返って好都合や」

好都合?
私の思考に噛み合わない白石くんの言葉に困惑する。でも白石くんはそんな私を見て相変わらず嬉しそうで、持っていたシャンプーとコンディショナーを私に渡すと練習に行くと言って颯爽と去ろうとする。

「なまえちゃん、それ使うたら真っ先に俺に会いに来てな!」
「う、うん!分かった!」

固く約束させられた私は、白石くんを見送るともう一度洗濯物を畳みにかかる。
畳むタオルの芳香よりも、まだ甘酸っぱいカモミールの香りが色濃く残っていた。



2016/9/17修正

テーマ、白石と可愛い青春。
書いてて非常に恥ずかしかった。
多分一番恥ずかしかった。

[ ]