「キレ芸くんってモノマネ得意ってほんと?」

四天宝寺の練習するコートにやってきたなまえは一氏にドリンクを手渡しながら金色から聞いた話をそのまま疑問としてぶつけた。

「キレ芸くんて何やねん!俺は一氏や!
「ごめんごめん一氏くん。それでモノマネ得意ってほんと?」
「せやで。この日本で俺の右に出る奴はおらんな」
「じゃあドラえもんやって」
「おい何やその態度は!お前に見せるモノマネなんてないわ」
「アンタ相方が昨日みょうじ先輩にベタベタしてたからって冷たすぎちゃいます?」
「私からしたら貴方もとんでもなく冷たいけどね」

金色は金色で合宿所唯一の女子であるなまえと一氏そっちのけで仲良くしていた。それが一氏には相当気に入らなかったらしく妙になまえにつっかかる。

「いいじゃんよ。モノマネやってよ」
「誰がするかボケ!」
「ふーん……ふぅーん……ふぅうううん?」
「な、何や?」

なまえは意味深な……腕を組んで仁王立ちしつつ一氏をあざ笑う。

「そんなんじゃだめだぞ一氏くん!もっとみんなの期待に応えられるよう努力しなくちゃ!」
「なッ……!」

こ、こいつ!めっちゃドラえもんのマネ上手い!
のび太を叱る親心、深い友情・愛情までもそのモノマネの中に内包することに成功しとる!高度!洗練された表現力や!

一氏に衝撃が走る。こいつ、できる!と。

「へー。ドラえもん巧いんすね」
「ふふふふふふふ〜!」
「一体どっから声出てんすか」
「みょうじ……!ええやんか!やってやろうやないか!」

みょうじのハイレベルなドラえもんのモノマネは一氏の闘争心に着火してしまったらしい。一氏はなまえの前に仁王立ちし返すと不敵に笑う。その視線はなまえを見下ろしている。

「のび太君!君の方こそ調子に乗ってちゃいけない!続けて努力しなくちゃ!」
「ぐぬぬ……目測でも10cmは一氏くんが高い!」
「身長差のバトルちゃうでしょ」

こ、こいつ……めっちゃドラえもんのマネ上手い!
旧ドラえもんのハスキー具合とか初期を彷彿とさせるやや陽気な声のトーン!高度!洗練された技術力……!

内心同じようになまえにも衝撃が走っていた。それと身長差も悔しがっていた。
こいつ、只者じゃない!と拳を握り締める。

「おうみみょうじ!いくで!」
「いくぞ!一氏くん!デュエルスタンバイ!」
「おいデュエルちゃうわ!モノマネスタンバイや!」
「何してんのこいつら」


「俺様の美技に酔いな」
「日本中が君のレベルに落ちたらこの世の終わりだ!」
「てめーは俺を怒らせた」
「ソソソーナンス!」
「ニャー!ソーナンス!出しゃばるニャー!」
「ロケット団!ピカチュウを返せー!」
「そんなやつ!修正してやる!」
「それはエゴだよ!」
「油断せずに行こう」
「あとで。今なんかだるい」
「僕に勝つのはまだ早い」
「ソソソソーナンス!ソーナンス〜?」
「まだまだだね」
「根性で10万ボルトだッ!」

「……ってお前レパートリー少なッ!」

一氏のど突きがなまえの頭にクリーンヒットする。なまえは本日二度目の頭への叩きによろめいた。

「何するんだー!」
「ドラえもんとソーナンスとサトシとアムロだけでこの世の中生きていけるとでも思っとんのか!」
「私は量より質なんだもん!」
「俺は量も質もお前より勝っとるわボケ!」
「な、何を〜!」

言い争いをしている中でもなまえは常にドラえもんのままである。ドラえもんには自信があるものの、先ほどの勝負で自分が敗北しているのには薄々認めていた。が、どうしてもなまえは負けを認めたくなかった。こういう本業以外の所でなまえは筋金入りの負けず嫌いだった。

「もういっぺん出直してくるんやな!」
「ぐぬぬぬぬ!」

しかしながら颯爽と去っていく一氏の背中を見送りつつなまえは拳を握り締めた。一氏は強かったのだ。

「せやけどみょうじ、お、お前のドラえもんも悪くないと思うで……」

一氏は吃りつつもなまえの健闘を讃えて去っていった。本当にドラえもんは上手かったのだ。ドラえもんは。

「……」
「何いきってんのやあの人」
「め、めちゃめちゃかっこいいッ……!」
「はぁ?アンタほんまに分からんわ」

なまえが一氏の格好良さに痺れているのを横目に財前は呆れかえっていた。

「ちゅーかいつまでドラえもんなんすか」
「えっ、ドラえもん?」
「ドラえもんのマネ」
「あっ」

なまえは冷や汗をかいて沈黙してしまった。目が忙しなく泳いでいる。

「……」
「……」
「あ、あの、私どんな声してたっけ?」

財前はこの日未知の生き物(なお知能は低いらしい)と遭遇したことをブログに綴ったのであった……。



2016/09/17修正
名前変換されていないところを修正。
pcで作った時のデータのまんまでした。

ユウジ可愛い。
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