みょうじ部屋の前には【体調不良の為立ち入り禁止】という張り紙がされている。
昨晩このみょうじの部屋では乱闘が起きたらしい。
俺には全くわけがわからんのだが……。

更にみょうじは昨日はタックル、波動球、化学兵器、洗濯機の猛攻を受けてさすがに倒れたという。とどめが洗濯機とはたるんどるのかもしれんが化学兵器を食らっていたのを見るとそうなのかもよくわからん。

「おはようなまえちゃん」

挨拶と共に俺の隣にいる幸村が【体調不良の為立ち入り禁止】という張り紙を破り捨てた。

「幸村……みょうじは疲れているのだからやめた方がいいのではないか?」
「大丈夫だよ。跡部もなまえちゃんならそろそろ回復してるはずだ、って言っていたし」

みょうじを起こしに行こうとした跡部からその役を奪ったのは誰だったか……。

「うーん、なまえちゃんの返事がないなぁ。鍵もかかってるみたいだし」
「もう起きたのだろう。さぁ幸村、食堂に戻ろう……!?」

幸村も諦めて食堂に戻るかと思えばドアノブをガチャガチャと回し始めた。
おい、もし中にみょうじがいたらやたら回るドアノブは恐怖でしかないだろう!

「いけそう」
「な、何だ?何をするつもりだ!?」
「入るんだよ」
「!?」
「なまえちゃん入るよー」

バァン!ガシャ!ドン!

扉を開ける際に絶対に鳴るはずのない音がしてドアが開いた……というよりドアが消滅した。幸村が手にしていたドアノブを放り投げて部屋に侵入する。

「あれ?いないね」
「幸村…」
「真田も棒立ちしてないで捜してよ」
「これは立派な器物損壊だぞ!」
「ドアの建て付けが悪かったんだ」
「建て付け!?粉砕したぞ!」
「建て付けが悪かった、そうだよね?」
「……」
「……じゃあなまえちゃんを探そう」


みょうじには苦労をかける……。


幸村はみょうじの名前を呼びながら部屋を物色する。部屋には白い昇竜のスーツケースが一つとテーブルの上には楽譜が散乱している。女子だろう、片付けをせんか。

「やはりみょうじは既に部屋を出たのだろう。入れ違いだ」
「うーん。そうなのかな?俺にはこの部屋に居るような気がしてならないんだが……」

幸村は風呂場のドアを開けて入っていった。いくらなんでもそれはまずいと俺は止めようと幸村を追おうとした瞬間。

何かに足を掴まれた。

ベッドの下から足首をがっちり掴む白い手。

「キエエエエエエエ!」
「真田くん静かに!うるさいよ!」

ベッドの下から顔を出したのはみょうじであった。必死な顔で静かにするよう俺にジェスチャーをしている。そこで何をしているんだお前は!

「何?どうしたの真田?」
「す、すまない。取り乱した。ゴホン……ゴキブリがいたのだ」
「真田も案外情けないんだね。やっぱりなまえちゃんはいないみたいだ。
ていうか見てよ、この可愛いおもちゃ」
「アヒルのおもちゃか……」
「油性ペンでわざわざ片目を眼帯にしてるよ。なまえちゃんってば可愛いね。他にもたくさんあるんだよ」

そう言っておもちゃを漁るため、幸村がバスルームの扉を閉めた。幸村、器物損壊の次は不法侵入にプライバシーの侵害だぞ。幸村が再びバスルームに入ったのを確認すると俺はしゃがみこんでベッドの下を覗く。

「みょうじ、そこで何をしているんだ」

みょうじは俺を随分冷めた目で見ている。

「何してるんだ……って?ハッ!
私はゴキブリなのでベッドの下に潜んでいます」
「……咄嗟に吐いた嘘だ。すまなかった。俺はお前をゴキブリだとは思っていないぞ」
「カサカサカサカサカサ」
「本当にすまなかったと思っている!」

俺を許したのかみょうじはベッドの下からふて腐れた顔をやめて小声のまま応えてくる。

「幸村くんにビビって思わず隠れた」
「やはりか。ここは出てきた方がいいぞ」
「でも怖いもん。だってドアノブガチャガチャされたら怖いじゃん?殺人鬼来たって思うじゃん?」
「みょうじ……お前の部屋の扉がどうなったか分かってるのか?」
「知らない。入ってくる前に隠れたもん。すごい音して思わず耳塞いじゃったけどどうなったの?」
「扉なら既に粉微塵になったぞ」
「何……だと……」
「分かったのならさっさと出てこんか……なっ!?みょうじ!たるんどるぞ!」

ベッド下の奥深くに引っ込もうとするみょうじの手を掴む。こうなれば強硬手段に出るしかあるまい!

「わ、放してよ!私幸村くんのおもちゃはヤダ!ここに残る!」
「埃塗れになるより外の方が良いだろう!」
「埃塗れになっても女性としての誇りは守るのです!」
「『今ちょっと良いこと言った!』みたいな顔をするんじゃない!自分の状況を考えろ、ベッドの下だぞ!」

俺も渾身の力で引っ張っているはずだがみょうじは……動かざること山の如し。
女といえど孫子の兵法の心得があるとは…やるな!みょうじ!

「くっそ負けるかァアア!」
「負けてはならんのだ!たとえ草試合だろうと!それが立海大付属だ!」


「二人とも随分楽しそうだね」

俺が驚きで手を放した瞬間、横から滑り込んできた幸村の手がみょうじの手を掴み、ベッドから本体を引きずり出した。

「あ、はははは……おはよう幸村くん」
「おはようなまえちゃん。とっても斬新で面白い登場だね」
「あ、はははは……」

みょうじは幸村を見上げ引き攣った表情で笑っている。幸村はいつもの穏やかな笑みを浮かべると、掴んでいたみょうじの手首を見た。

「でも……痕が残っちゃったね」

落ち着くのだ、真田弦一郎。
これはみょうじがなかなか出てこない為につい本気を出してしまっただけなのだ、不可抗力なのだ。これはたるんどるみょうじに対する当然の措置だったのだ。
しかし、みょうじ、ゴキブリではなくゴリラかと見紛う程の力だったぞ……。


「なまえちゃんに真田の痕が残ってしまったじゃないか」
「幸村くん、そういう誤解を招く表現はちょっと」
「確かに、みょうじに不適切なことをしたのは事実として受け入れなければならないな……」
「幸村くんの方が不適切なことしてたよ」

俺はみょうじの手を取る。やや埃っぽいがそれも俺の責任として負うことにする。

「俺が責任を取って娶る!」
「何でそうなるの」

幸村の手刀が俺の首を直撃した。
幸村の体調がここまで回復したのは嬉しい……が、微粒子レベルで破壊されたドアといい元気が過ぎるんじゃないか?

それとみょうじには嫁に来たら片付けできるように徹底させるぞ!覚悟しておけ!


2016/9/16修正

真田可愛いよ真田

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