私の部屋にちーちゃんが遊びに来たので冷蔵庫に入っていたオレンジジュースを注いで持って行こうとしたら思いっきりジュースを頭からひっかけてしまった。
ほっとくといけないのでちーちゃんから服を奪い(下は大丈夫でした)、自分の服も一緒に洗濯する。

「まわるまわるよ ドラムはまわる〜
すすぎ脱水繰り返し」

ドラム式の洗濯機の前にしゃがみこんで、ぐるぐるまわる洗濯物を見つめる。
こんなに回るところを見てると暗示にかかりそうな気がしてくる。何の暗示?といえばそれは分からない。

「今日は汚れた洋服たちーも
強力洗剤でしろくなーるよ…」

メーターにはあと30分の文字。
お急ぎなんだからあともう少し早くしてくれないかなぁ……とぼんやり思う。


「今日は汚れた洋服たちーも
強力洗剤でしろくなーるよ」

洗濯場を通りかかったら氷帝の臨時マネのみょうじさんが有名な曲で替え歌をしてた。
結構変わった人だとは思っていたがやっぱりその認識は間違っていなかった。
みょうじさんは歌いながらドラム式洗濯機でぐるぐる回転している洗濯物を凝視している。

「海堂、ここで何してる?」
「!?日吉と鳳か……驚かせるんじゃねェ」

背後から声をかけられて振り返ると、日吉と鳳が立っていた。
鳳が洗濯場を覗くと声をあげた。

「あれ、なまえさんじゃないか」
「お前なんでこんな所でなまえさんを見てるんだ?もしかしてお前……」
「な、別に他意があって見てたわけじゃねぇ!ただ……」

「洗濯続ける洋服はいつか白くなれる日を
たとえ油性で汚れてもきっと信じて洗われる」


「ずっとあんな調子だ……それに俺の存在にも全く気付かねーし」
「ああ、それはとっても集中してるってことだから。なまえさんは一度楽しいことや好きなことに夢中になると周囲が気にならなくなっちゃう人だからね」
「替え歌はまだしも……洗濯機見つめるのってそんなに楽しいか?」

日吉と鳳はほぼ同じタイミングで首を横に振った。

「常識の範囲内でなまえさんを捉えようとすると混乱するぞ」
「海堂って、まだまだだね」

俺も乾さんと組んでからその行動パターンを読めるようにはなってきたがやはり世界は広いようだ。ベクトルは360°、どこへでも向くということだな。
しかし鳳はなぜ今越前になった!?

「めぐるめぐるよドラムはめぐる
すすぎと脱水をくり返し
今日は 100%オレンジジュースも
生まれ変わって飲まれるよ 」

「なぜ突然オレンジジュースなんだ……」
「もしかしてオレンジジュースを零したんじゃないのかな?」
「それで汚れた服を洗濯している……なるほど。辻褄は合うな」
「俺には超理論にしか聞こえてねーぞ!」

タイトル(仮)「ドラム」歌い終わったみょうじさんは未だ俺たちの存在に気付いていないようだ。

「……」

「ついには無言か」
「……」
「……」

「……」

みょうじさんはいたって真剣な眼差しでドラム式洗濯機を見つめている。
泡と洗濯物が回っている様子を5分間ずっと見つめているみょうじさんを後ろから俺たちも見つめていたが、俺の隣で「チッ!」という凶悪な舌打ちをする奴がいた。

「あいついつまで洗濯機と見つめ合ってるんだ」

日吉の奴もみょうじさんの謎行動にそろそろ飽きてきたようだ。鳳の方も珍しく面白くないというような顔をしている。

「なまえさん、俺たちより洗濯機の方が良いのかな……」

飽きてきたというよりはみょうじさんの意識が洗濯機に向いてるのが気に食わなくなってきたようだ。
お前らみょうじさん大好きだな。

「……うっ」

「!?」

みょうじさんが突然顔を手で覆う。

「つ、ついに洗濯の回転に感動して泣き出すところまで!?」
「くっ洗濯機の分際で!あの奇行種を涙せしめるとは!」
「ちょ、ちょっと待て!あれはどうみても……」


みょうじさんは肩をブルブル震わせていた。
そしてちょうどすすぎを始めたドラム式洗濯機に背を向ける。

「おえ……きもちわるっ!」

「絶対酔ってるだけだぞ」


日吉と鳳が俺を「こ、こいつ……!やれる!」みたいな顔で見てきたが少しも誇らしくねぇ。


2016/9/16修正

ドラム式洗濯機の黄金回転!
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