みょうじが泊まってる部屋のドアを開けたら千歳が大あくびをしながら出てきた。しかも半裸で。それを見たら部屋の前で争っていた中学生達は想像を膨らますのをやめられない。

「何ばしょっと?」
「みょうじさんはいるのか?」
「手塚……君、怖いもの知らずだね」
「一体何の話だ?」

その中学生に手塚は含まれなかったようだ。
千歳は「何ね?なまえちゃんに用事あると?」と言って、眠そうな目で明りの灯っていない薄暗い部屋に向き直った。

その場にいるほとんどが『え?ちょっマジなの?部屋にいるの?』と思い……そして石仏の様に固まった。

「なまえちゃーん、お客さんばい。起きん…」
「ちょい待たんかい千歳ェ!」

浪速のスピードスターが目にも止まらぬ速さでドアをバタンと閉めて部屋にも疑惑にも蓋をした。そうしなければ自分の隣の聖書が今に精神崩壊を起こしかねないような気がしたのである。自分よりもはるかに大きい千歳を渾身の力で引っ張って、白石達から距離を取る。

「急に何ばすっとね?」
「お、おまっ、いくらなんでも合宿所で不純異性交遊は……ちゅーか相手はみょうじて!お前らただの幼なじみちゃうんかい……」
「謙也さん、マジ泣きとかやっぱあの変人のこと好きやんけ……」
「ほら、そんな大したことじゃなかけん泣かんでいいたい。こば貸してやるけん泣き止みなっせ」
「大したことないって!?合宿所で【自主規制】や【自主規制】が大したことあらへんと!?」

掴みかかりたいのに千歳は半裸で掴む襟元もない。わなわな行き場なく震える手は今にも握られ千歳の右頬にストレート!しそうだ。
それを察したのか千歳は貸してやると言っていたタオルを謙也に握らせる。

「タオルなんかいら……」

握らされたのはドラえもんのタオルだった。
精神崩壊したのは謙也の方だった。
茫然自失で座り込む謙也に財前は手を合わせる。

「南無……」
「はは、ちょっとからかいすぎたばい」
「ヘタレ童貞にこの冗談はキツすぎますわ。で?何でそんな半裸で部屋から出てきたんすか?」
「それは……」
「ねえねえ!なまえちゃん部屋にいないよ?どこ行っちゃったの?」

芥川がなまえの部屋から首を出している。
宍戸は後に躊躇いもなく部屋に押し入った白石や仁王、芥川についてこう語る。「あいつらみょうじがもし部屋にいたらどうしたんだ…」と。



「何しているんですか皆さん。なまえさんならここにいますが」
「うっぷ……」
「あー!みょうじ先輩!」

日吉と鳳、海堂である。鳳の背中には顔を真っ青にした不純異性交遊疑惑のかかるなまえが背負われていた。海堂から背中をさすってもらっている。


「おぇ……ぎもぢわる…ずぐぞごまでオムライスが上がっでぎでるぅ…」
「しっかりして下さいよ。そこで戻したら鳳が散々なことになります」
「もう部屋につきましたから、ゆっくり休みましょう」
「みょうじ先輩どうしたんすか!?」

心配そうな切原に、鳳の背中で死にそうななまえが、涙で潤んだ瞳を向けて答える。


「ん……つわり」

「え!つわり!?つわりだったんですか!?」
「くだらない冗談はやめろバカ女」
「う、若きゅんひどい…この」 
「洗濯機を見つめてたら目を回しただけでしょうが」
「いや、これは間違いない。絶対乾汁の効果が続いてるんだ……新作は遅効性なのか!絶対飲みたくねェ!」

「おい、お前ら」
「はい宍戸さん!」

宍戸に声を掛けられて、鳳がキラキラと輝く笑顔で返事する。対して宍戸の顔は引きつっている。宍戸の隣には愉快そうに遠くを見ている仁王と、仏頂面ながらやや困惑を滲ませる手塚しかいない。

「お前達、早く誤解を解いた方がいいぞ」


遠くには襲われる千歳がいたが既に意識が危ういなまえには見えていなかった。


2016/9/16修正

わあああ!久々に更新できた…!

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