「そろそろ家に帰りたいんだけど」

日も沈んできたし、兄貴も反省してる頃だろうし。跡部くんに話しかけるとチラリと私を見て、ちょ、なんで向き直るの?

「樺地、ジローを背負って食堂に行け」
「ウス」
「そろそろ家に帰りたいんだけど」
「おい岳人!その納豆どこから出した!もうディナーの時間だぞ!食べながら歩くな」
「そろそろ家に帰りたいんだけど」
「忍足、四天宝寺に知らせてこい。日吉、お前は青学だ」
「分かりました」
「はいはい」
「そろそろ家に帰りたいんだけど」
「みょうじ、つべこべ言ってないで立海の奴らを呼んでこい」

人のお願いをつべこべだと!?
こ、この男、私の話をまるで聞いていない!

「ちょっと!無視しないで!そろそろ帰りたいんだけど!」
「善処するから早く呼んで来い」
「いいね!約束だかんね!」

跡部くんに約束を取り付け、私は立海の人たちを呼びに行くことにする。正直心のどこかで跡部くんを疑っているんだけど、まさか非情な人ではないし……ジャイアンタイプは根は良い奴と相場は決まってる。


「みょうじはこれからどうするんだ?」
「そりゃあもちろん家に帰る」
「それは残念だ」
「柳くんに言われるともうちょっといてもいいかなってなるね」

立海のみんなを呼びに行ったら、柳くんに帰宅を残念がられて大変嬉しい。切原くんも「もっといてくれたっていいじゃないっすか!」といってくれるし、なんか今日一日楽しかったかもなあーって思えるよ。

「でも私は帰る」
「えー!何で帰っちゃうんすか!?」
「そりゃあ……こういう仁王くんみたいなのもいるし。ほら離れてよ!」
「え−!なまえちゃん帰っちゃうん?」
「それ可愛いとでも思ってるの?」
「仁王くんやめたまえ。みょうじさんが困っているでしょう」
「えー!なまえちゃん帰っちゃうの?」
「うん帰るよ」
「絶対許さないよ」
「!?」

何気なく返事したら幸村くんだった。幸村くんは私を見下げて笑顔で続ける。この人の威圧感、とても同い年に見えない。隣で冷や汗かいてる真田くんもある意味で中学生に見えないけど。

「せっかくだから泊まっていきなよ。俺としてはもうちょっと君とお話したいな」
「私帰ってドラえもん観なくちゃいけないから」
「今日は木曜日だから明日だね」
「ぐっ!ポケモン!ポケモン観なくちゃだから」
「ここ田舎だから放送日は日曜朝だね」
「ぐぬぬ……!」

東京住まいですっかり忘れてた時差ネット!ほんっとに熊本に住んでるときの唯一の不満だったよ。

「でも!私のお母さんが絶対許してくんないしさ!」
「へえ、みょうじの母ちゃんって結構厳しいんだな」

そう、私には保護者というとっておきの切り札があるのだ。

「厳しいとかいう次元じゃないから」
「もしかして女版副部長……?」
「おいやめろ変な想像しただろぃ!」
「お前達……」
「お、俺は悪くないと思うぞ……」
「そういうフォローはいらん!」
「ジャッカルくん健気すぎるよ」

お母さんの格好をしている真田くんは正直想像できたものではないのでお母さんに真田くんの格好をさせてみたけど結構いけるな。

「でもうちのお母さんは怖いからなあ」
「副部長も怖いっす」
「一体何者なんじゃ」
「多分キュベレイに乗ったりコロニー落としたりゼダンの門にアクシズをぶつけたりしてる」
「お前の母ちゃんハマーン・カーンなの!?」
「うちのママーンはリアル口癖『俗物が!』だかんね」
「そういう女性層や若年層に分かりにくいネタはやめた方がいいぞ」

もう魁男塾とかガンダムとか色々ネタに走ってるから今更だね。とにかくお母さんは私が勝手にどこかに行くとか絶対許さないのできっと私を連れ戻してくれるに違いない。



「ということで跡部くん立海の皆様をお連れしたので私帰るね!」
「マジで帰る気満々だな。身体だけ出口の方を向いてんじゃねーの」

跡部くんに高々と宣言して帰ろうとしたところを思いっきり首根っこを掴まれた。跡部くんに持ち上げられて最早親ライオンに運ばれるライオンの子状態だ。

「放してよ!神の子Tシャツが伸びる!」
「そこは『帰りたい』じゃねーのかよ……樺地」
「ウス」

樺地くんが何やら荷物を持ってる?
そのキャリーバッグ、まさか。

「何やすごいキャリーバッグやな。白地に昇り龍とか……」
「みょうじのだ」
「えっ」
「このアホ面女のだ。お前……スゲーセンスしてるんだな」

私はここでプッツンした。

「何ね!何か不満でもあるとね!?龍かっこよかたい!ていうか何で私の荷物がこがんとこにあっとね!」
「あー!うるせぇな!みょうじ家から許可もらって持ってきたに決まってんだろ」
「は?え?」

こいつ何を言ってるだ?
だってみょうじ家には宇宙世紀最強の女、ママーン・カーンがいるのに……。

「因みに言伝を預かったぞ。
『焼肉無料券を引き込むためには、人質に出すのに兄だろうが妹だろうが関係ない。お前には期待しているぞ』だとよ」
「焼肉で買収したな!」
「買収じゃねぇ、取引だ。つーかお前の母親、俺様も一瞬たじろいだが随分強気な性格なんだな」
「今はそんなことどーでもいいわい!」

裏切られた悲しみと悔しさのせいかお母さんの高笑いの幻聴が聞こえる。更には私の目の前にしてやったり顏の跡部くん。
は?イケメンにドキドキ?
嘘だね怒気怒気だわこっちは!


2016/9/16修正

ハマーンカーンのことが知りたい方は是非ね、ラジオで探してみてください。
かつてかの某有名声優を二度振った宇宙世紀最強の女性です。
中の人はクシャナ殿下とかされてます。
サイコパスの映画を全然知識とかない状態で行ったら出てらっしゃってね、もうそこが私のクライマックスでしたね。
ちな好きな女性声優はこの方と田中敦子さんと松本梨香さんです。
男性声優は古島清孝さんです。
[ ]