近くを通っただけだった。女子生徒の声が聞こえただけだった。「はいご飯だよ〜」と聞こえるから動物を餌付けしているんだろうとは思った。

無責任に犬猫に餌付けするのは良くねえと思っただけで、それで覗いただけだ。
たまたま。

「最近のハンティングはどう?」

いつか忍足が「校舎裏で野良猫を可愛がってる女子は可愛い」とか言ってやがった気がする。
そんなあいつに見せてやりてぇ、この光景を。

女子の目の前にはハヤブサがいた。

俺様とした事が……最初は堂々と出て行ったにも関わらず、ハヤブサと目が合って反射的に物陰に身を隠してしまった。
これじゃ完全に覗きじゃねーか!つーか校舎裏で猛禽類と戯れる女子って何なんだ!?俺様の思考が全くついていかねぇ!
女子の様子を伺いつつ、頭の中の生徒名簿を捲る…‥そうだ、あいつは宍戸とジローと同じクラスの女だ。
名前はみょうじなまえ。

俺様は見てはいけないものを見てしまった気になりながらその場を去った。
くそ、こういう時に樺地がいたら俺様のこの困惑を共有できるというのに……!

しかし……とりあえずあの変な女のことを宍戸とジローに聞いてみるか。



放課後になって数学の藤田先生に呼ばれた。
そう、理由は分かっている。
数学の小テストを五線譜に作り替えて即興で猫踏んじゃったのアレンジを書いて提出したからだ。
宍戸くんに「褒められるかな?うふふ」と言うと全力で否定された。
何を言うか、私が今までやってきた猫踏んじゃったの中で自信があるんだからと言ってやって藤田先生のところに行った。

「くそおおおお宍戸くんもっと私を引き止めてくれたら良かったのにぃぃぃ!」

キィィィと旦那をどこぞの女狐に取られた昼ドラの妻の様にヒステリックに叫んでみる。

藤田先生にはめちゃくちゃ怒られた。
そして、大量の演習問題を出されて現在逃亡している所である。
だから嫌いなんだ藤田ァ!滅多に名前なんて覚えられないのにお前の名前は覚えたぞ藤田!

「みょうじー!何処に行ったー!?」

放課後の喧騒の中、藤田の野太い声が聞こえる。
耳を澄ますと、奴の足音がこちらに近づいてくる。
まずい!この先は行き止まり!
このままだと袋のネズミだ!
とりあえず何処かの教室に入ってやり過ごすしかないぜ!


「失礼します!突然ですが匿って!」

2016/08/27修正

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