「ぜーっはーっぜーっはーっ」
「無理しない方がいいッスよ」
「無理っ、しないっ、てっ、もうっ、してるっ!」
「まだまだだね」
「うるっ、さいっ!ひーっはーっ!」
「ははは!芸人みたいになってるッスよ!」
「くっそ笑いやがってんげほ!げほっ!」

グラウンドを何周したかそろそろ数え切れなくなった所で私の呼吸器官は限界を通り越してきた。
そんな私の隣には、私を嘲笑の目で見る、俺様大注目印の越前くんと一人どツボにはまって大爆笑している桃城くん。この二人の優しさはペースを合わせて走ってるとこだけだ。

それに比べて私を心配そうに見てる海堂くんは天使。

「きみっ、たちっ、はっ、何でっ、はーっ……んげほっ!走って、るのっ?」
「この二人の喧嘩に巻き込まれた」
「だいたいアレはマムシの野郎が」
「何だとコラァ!」

越前くんと私を挟み口論を始めた二人。何だよ……君たちも体力はあっても精神力は無いんじゃないのさ。

「あと15周だぞ3人とも。みょうじさんは5周だな」
「!?あと5周!?んげほ!ごほっ!」
「あんた喋りすぎ……」

監視役らしい乾くんがカウントをする。数えなくなった……ってあと5周もあるのかよ。絶対無理。私このままだと精神力どころか精神だけの存在になっちゃう。

「しかしみょうじさんは心肺機能が既にオーバーヒートしているだろうから一旦休憩だ」
「あっ、ちょっズルイっすよ!」
「はははは!ざまぁ!うっ……かはっ」
「走っている最中に喋らない方が良い確率100%」
「うぷ……気持ち悪……」

私は乾くんの隣に座り込んで、乾くんからドリンクを受け取る。私ここに何しに来たんだったかな。これ立場逆転してないかな。

「跡部に何を言われたのか知らないが、海堂の言う通り無理はしない方がいいぞ」
「跡部くんには諭されたっていうか命令されたんですぅー。なんか精神力つけろだってさ。あーあ、神の子Tシャツも汗でベタベタになっちゃったなぁ」
「精神力か。君は精神力がないというより精神自体が無くて返って強そうだ」
「それって私が無神経ってことかな?」

乾くん知的メガネですごい好きなんだけど何か不思議な人だ。食えないメガネっていうか謎メガネっていうか。横目で乾くんを見つつドリンクに手をつける。

「ところでみょうじさん、そのドリンクの味はどうだ?」
「へ?ドリンク?」
「俺の新作ドリンクなんだが」
「……乾くんの手作りなの?すごいね」

口では褒める。
……さっきから気になってはいたが、不審な臭いがする。私はボトルのキャップを開けてみた。見た瞬間に血圧が急激に下がった気がしてふらついた。

「ボトル内の環境が汚染されてる!ドブ川でももっとマシな色してるよ!?」
「不二でももう少しオブラートに包むぞ」
「ドリンクに住む妖精たちが自分たちの安息の地を追われて泣いてるよ」
「君の脳内に妖精が住み着いている確率100%」

つんと刺激臭がする明らかな劇物に蓋をした。多分目の前でワイワイ言いながら走ってる3人にも飲ませるつもりだったな。

「あの3人が助かって本当に良かったよ。このドリンクの効能なんて知りたくないし……」
「そうだな。あまり良い効果は得られないようだ」

乾くんはノートに何やらメモしている。
そもそも、彼はこの劇物を試したのだろうか?作った本人は案外大丈夫なのかな?だったら乾くん絶対宇宙人だろ。

「乾くんは試したの?」
「いや、目の前に被験者が一人」
「は?」

乾くんの逆光メガネに映ってるのは口端から一筋の血を流すアホ面の女。

……あれ?これ私じゃね?

「ぎゃああああああ」

「今みょうじ先輩が叫んだのかぁ?」
「どう考えても乾汁のせいっすね」


2016/9/16修正

ファンブックに乾汁実飲のコーナーがありましたね。鰯水が一番やばそうでしたね。
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