こんなの思ってもみなかった。
だって私は確かに日吉くんを怒らせた……と思う。原因も分からないまま謝ることが日吉くんの炎に油を注ぐ形になるのは分かってた。
だからこそずっと考えてたんだ。

その思考の海に沈んでいた私を引っ張り上げるように、私の手首をがっちりと掴んだ人がいた。

「みょうじ……人にドリンク渡しながら何考えてんだ?アーン?」
「……跡部くん」

掴んだ私の手からドリンクを取りながら不敵に笑う跡部くん。

「その顔は……誰か男のことを考えてる顔だな」
「……っ」

茶化すような視線に私は顔を背ける。図星かと鼻を鳴らして、跡部くんは私に追い討ちをかける。

「俺様を目の前に他の男のことを考えるのはナシだぜ?」

「お前は忍足か!」

当然跡部くんの手を払った。

「冗談が通じねー奴だな。誰が忍足だ!」
「キングはご冗談が下手ね。急に忍足るご冗談なんてドン引きですわよ」
「おしたるって何だ」
「忍足る……ラ行五段活用の動詞。意味は『忍足侑士のように振る舞うこと』」

レクチャーしてあげると跡部くんは眉根に皺を寄せて随分と不快そうな顔をした。

「チッ……俺様をあんな変態と一緒にしやがって」
「俺に対する熱い風評被害な」
「あながち間違ってないだろ!」
「岳人……お前までなまえちゃんや跡部に感化されてどないするねん」

忍足くんががっくんの変貌ぶりに驚愕しているのを尻目に跡部くんは私を指して言う。

「みょうじ!お前には精神力が足りねえ!」

バーン!

今の跡部くんにオノマトペを付けるとしたらこんなんだろうかね。

「精神力あると思うんだけどな。忍足くんのセクハラに低乱数2発で耐える」
「基本的に1発でやられるんじゃねーか」
「そこは運命力でカバー!」
「なまえちゃん、跡部はポケモン知らんで」
「そそそソーナンス!?」

びっくりしすぎてソーナンスになってしまった。なお忍足くんは苦笑いしている。スベったとかそういうのじゃないからな!ただびっくりしすぎただけなんだ!


「お前の心の迷いも煽り耐性の無さも全て精神力が足りないのが原因だ」

跡部くんは腕組みしながら淡々と、だが偉そうに続ける。

「へー」
「そんな精神力で大舞台に挑めるのか?俺様のようにメンタルを鍛えることもプレイヤーやアーティストには必要不可欠なことだ」
「はー」
「頭も精神力も豆腐じゃ話にならねえ。本当にどうしようもねえ女だ」
「うーん」
「……なまえちゃん煽り耐性あるやん」
「煽り耐性も運命力でカバー」
「なまえちゃんの人生は運ゲーやな」

運命力で今までの人生を乗り越えてきたわけだけど、今回の日吉くんとのことに関してはそれだけではどうしようもない気がする。
ちょっと偉そうでムカつくが跡部くんの話に乗ってみようか。

「……どうやって鍛えるの?」
「はっ!そんなの決まってるだろ」

跡部くんは再びかっこ良くポーズを決める。麗しきかんばせに手をかざして……あれ?これジョジョ立ち?

「走り込みだ!」

ズギャァ〜ン!

……と、どんなにかっこ良く走り込みと言ったって、そんなの体力を付けるとかそんな次元の話にしか聞こえない。その体力もないんだけどね!

「いいか、走り込みはな……テクニック以外の全てのステータスを上げることができる」
「最強チームを結成せよってか!」
「そういうことだみょうじ」
「そういうことってどういうこと?全ステータスFランの私で手塚くんに勝つの?下剋上なの?」
「つまり……
グラウンド10周だ!あーん?」
「え……何それ冗談キツい」


私は……跡部くんと絡むと本当にロクな目に合わない。

2016/9/16修正

遅くなってすみません。

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