そんなこんなで40話目なのだが、私は合宿のお手伝いを本格的に始めたのだった。
あ、さっきタマゴ……大石くんに世界観を崩壊させるなって言われてたっけ。反省。
お手伝いは結構楽しい。何がって、文化活動委員長が言ってた『あれはテニスと思しき格闘技だ』ってやつ。あれが本当だったことだ。しかも体当たりで受けたタカさんの球、あれがいわゆる波動球だったらしい。

「みょうじ、河村の波動球にぶつかったらしいな」

氷帝のみんなが練習しているコートに戻ってくると、跡部くんがやってきて開口1番それである。

「タカさん昔から素手でも強かった気がするけど道具持たせると全部凶器になるよ、アレ」
「どこに当たった?」
「うーん、お腹の上の辺り……って!何すんの!?セクハラやめてよ!」
「セクハラじゃねーよ。具合を見るだけだ」
「そういって乱暴するつもりなんでしょ!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!」
「誰がてめーみてぇな奇行女に乱暴するか!忍足と一緒にすんな」
「聞き捨てならんこと言うたな跡部」

忍足くんが反論するものの跡部くんは無視。
神の子Tシャツをまくしあげて私のお腹を見た。

「……波動球食らって痣一つないのか」
「なまえちゃんサイボーグなん?あんなん食らったらひとたまりもないやろ……」
「体力はないけど丈夫だからね」

上腹部には痣もなく健康そのものである。大体今日は金ちゃんからも攻撃を受けているし、その上タカさんの食らってもこれなんだから大丈夫だと思う。

「……忍足くん何でしゃがんでるの?」

忍足くんがしゃがみこんで手を顎に添えて真剣に見ていた。眼鏡越しに目を細めて、ってなんかめっちゃキモいんだけど。

「いやぁ……なまえちゃんどういう『仕組み』で出来とるんかなって」
「私サイボーグじゃないし」
「さっきのは冗談やって」
「……」
「……」
「……」
「!?」

跡部くんの手を振り払い神の子Tシャツを下ろすと、変態忍足は残念そうに立ち上がった。

「見たな!」
「何のことやろか?」
「とぼけんな!跡部くん!こいつ!こいつどうにかしてよ!私に安全な職場環境を提供してよ!」

いつもなら私に『そんなこと知ったことじゃない』みたいな態度を取る跡部くんだが今回ばかりは私と忍足くんの間に立った。いいぞ!やれ跡部様!

「おい忍足……趣味が悪いぞ。相手は選べ」
「跡部くん、最後に余計な文言がついてない?」

跡部くんは決して全面的に私の味方をしないのだった。私は跡部くんから離れて2人から距離を取る。忍足くんからは更に遠くへ。

「趣味も悪いも俺は何も変なことしてへんし」
「いつか忍足の忍足をかつら剥きにしてやる」
「女の子がそういう下ネタはあかん!」

忍足くんと口論を続けていると遠くからこっちへ猛ダッシュしてくる誰かがいた。

「白石くん……!」
「なまえちゃん!見とったで!跡部くんと忍足くんに……一体何されたんや!?」
「…それは」

突然やってきた白石くんに肩を掴まれ聞かれるものの、はたまたそれが本気で心配してるのか関西人的なノリなのかよく分からなかった。

「部長急ぎすぎっすよ」
「なあ……なまえちゃん。俺に話してみ?」
「あかん、自分の世界や」

あとからやってきたピアスくんが結構適当なノリだったから、白石くんも多分後者、関西人的なノリなんだろう。てか、ピアスくん名前わかんないや。あとで資料漁ろう。
「じ、実は……2人に乱暴されそうになったの!エロ同人みたいに!」
「エロ同人みたいに……やと!」
「忍足くんにはブラジャー見られた……」
「なまえちゃんのブラやて……!」


「何なんあいつら?バカ?いやバカや」
「財前、自分とこの部長やろ」
「それを言うたらあの先輩、アンタのとこの臨時マネっすよね」
「バカなのは前からだ」

白石くんの悪ノリに付き合ったところ、白石くんは憤怒の顔で跡部くんと忍足くんのとこに向かってった。

「見損なったで!跡部くんは…もう少し堂々した男やと思っとった。せやのに!忍足くんもや!変態といえども女の子を汚すのは脳内だけちゃうんか?」
「あいつの冗談を本気にしてんのか白石?
つーかお前なんでみょうじ知ってんだ」
「前から知り合いや」
「待て待て俺の存在スルーせんといて!俺に対する説教おかしいやろ!」

白石くんは何だか本気で怒ってるらしい。
困惑してると、ピアスくんがだるそうな表情で私に近づいてきて言う。

「うちの部長、アンタの話本気にしてるんっすわ」
「え、マジでか」
「いや……あの迫真の表情見て冗談だと思ったんか」
「思った」
「……」
「うっわ何その軽蔑するような顔」
「こんなバカのどこがいいんやろか」
「君後輩でしょ!私先輩!中3!」
「そんなことより止めに入ったらどうすか?」

そういえば最初見たときも『趣味悪』だったな。この日吉くんを超えるクール&S。彼は将来大物になりそうだ。
ピアスに言われ(『早く収めろよお前が原因だろ』みたいな視線に耐えられず)私は一触即発の3人の中に入った。

「ごめんごめん白石くん!さっきの冗談!」
「冗談?ほんまに?」
「うん」
「良かった……心臓に悪いで」

白石くんは安心したようで私に笑顔を向けてくれた。良かった。でもこれで白石くんが私の完璧な味方だってことが分かったよ。中途半端な跡部様より完璧な白石様だね。

「あ、でも忍足くんのした事は本当だよ」

そう言うと白石くんは忍足くんに向き直った。彼ははまた真剣な表情だ。

「忍足くん……」
「何や急に」


白石くんが口を開いたところで私の視覚と聴覚は遮断された。
あまり突然のことで、『えっ、なになに?』と騒いでると、視界が明るくなって音も聞こえだした。

目を塞いでたのは跡部くん、耳を塞いでたのはピアスくんらしい。

「何があったの?」
「……お前には見せたくねぇ」
「うちの部長にも聖書としての名誉があるんすよ」

私が認められるのは清々しい顔になった白石くん。
真相は、塞がれた暗闇の中。

2016/9/16修正

ほとんど思いつきで書いた40話目。
そんなので大丈夫かサティ連載…!
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