「皆さんが集まっていると氷帝の日吉君から聞きましてね。そこにいらっしゃるのは氷帝の臨時マネージャーの方ですか?」

知的で大人、紳士的、オプションにメガネ。

「跡部君や丸井君が言っていた方ですね。はじめまして。私柳生比呂士と申します。みょうじなまえさんですね?不慣れな点もありますでしょうし、私に手伝えることがあればお申し付けください。喜んで手伝いますよ」
「……」

かつて私は子ども達に自分のタイプについてこう話したことがある。

『大人っぽくてしっかりした人。しいて言えば、こう……知的イケメンがいい。あ、知的って頭が良いってことね。メガネ掛けてると更に頭良さそうに見えるしグッドだよ』
(※第16話参照)

この世にはいるんだね!
手塚さんだけではないんだね!
私はもう一人王子様を見つけてしまった!

「どうされました?どこか具合でも?」
「い、いえ!どこも悪くないですっ!はっ、はじめまして!」
「トーンが若干上がったな」
「突然可愛くなったっすね」
「ない女子力を振りまいてどーすんだよ」
「ブンちゃん嫉妬か」
「うるせー!」

もう外野が気にならない位には柳生くんの格好良さにあてられていた。いけない!このままでは私は柳生くんにフォーリンラ

「柳生。君もちょうど良い所に」

……ブにはならない程度には気になる外野がいた。幸村くんである。彼はさっきより3割増くらいの漆黒オーラを放っていた。よく目を凝らすと隣の真田くんが小刻みに震えている。

「どうされましたか幸村くん」
「なまえちゃんに着せる立海ジャージかユニフォームを探してるんだ。予備を持ってたりする?」
「ええ、持ってますよ。しかし、なまえさんのように小柄な女性に私のが合うかどうか」
「!?」

つ、つまり彼ジャージだと!

「……」
「みょうじさん。失礼ですが、身長は……」
「身長は158cmですっ」
「やはり少々大きいですね。私ので良ければ構いませんが着ますか?」
「着ます!」
「薄情じゃのう。柳生に対して一番態度が違うぜよ」
「仁王くんと柳生くんを一緒にしろというのが無理ゲーだぜ」
「俺にももうちょっと優しくして欲しいのう」
「気持ち悪い……あ!こら!」

サロペットの大きな前ポケットに手を突っ込み頭に顎を乗せてベタベタしてくる仁王くん。これには私と柳生くんと真田くんが眉根を寄せた。

「仁王!たるんどるぞ!お前は跡部か!」
「仁王君、相手は女性なんですからそんなことをしてはいけませんよ。それをセクハラというんです」
「私女子扱いされたの白石くん振りだ、泣ける……あとやっぱり跡部くんごめん……真田くんに変なイメージを植え付けてしまったようだ……」
「おーおー。なまえちゃん泣くんじゃなか」
「良い加減に離れようか」
「プリッ」

仁王くんの言動にはいちいち寒気を覚えるがそれ以上にスゴイ人がいた。ベクトルは違えど幸村くんには寒気という名の畏怖を覚える。丸井くんとジャッカルくんと切原くん震えてるよ。

「やっぱりやめだ」
「?」
「なまえちゃんに立海のユニフォーム着せるの無しにしよう」

幸村くんは存外気まぐれなようで私の彼ジャージの夢は夢のままでしかなかった。

「……やっぱり私ジャイアンTシャツに着替えて」
「それはダメだ。なまえちゃんには俺の服を着てもらうよ。赤也や丸井から貰ったとっておきのをね……」
「!?」

待ってて、と幸村くんは私を残し去って行く。切原くんと丸井くんを見ると二人とも俺しーらね!と視線を上へ逸らしていた。

「ちょっ、ちょっと……あの二人の反応なんなの……?」
「残念だ、みょうじ。精市はお前を玩具だと思っている。他人に取られたくないのだろう」
「すまないな、跡部だけでなくうちの幸村までお前に迷惑を……」
「赤也とブン太があげた奴っていやぁ……」
「アレっす」
「アレだろぃ」
「アレだな」
「アレじゃ」
「アレですね」
「アレである確率100%だ」

「私が柳生くんのジャージに夢見ただけで何を着させられるっていうんだ」
「そんなに柳生先輩のが良かったんすか……」
「うん。それでブンちゃんや切原くんがあげたアレって何なの?」
「見た方が早いぜぃ」

幸村くんが仁王くんに発したドス黒いオーラは何処へやら、爽やかな笑顔で私の元に歩いてくる。

「これ着てね」

白い何の変哲もないTシャツだ。
散々アレだアレだ言っといて何の変哲もないTシャツだと。

「これのどこがアレなんて言わ……!?」

Tシャツのロゴが目に飛び込んできた。
かっこいいならまだしも何ともやる気のないマヨネーズの様な字で
『神の子』とプリントされていた。

「幸村くん。私のこと嫌い?」
「なまえちゃんは会って間もないけど大好きだよ」

……後で幸村くんのいない所でジャージ貸してくれるかな?柳生くん。

2016/9/16修正

柳生回にすら進撃する魔王
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