「可愛い子だね」
「も、勿体ないお言葉にございます」
「柳や真田の後ろに隠れるなまえちゃんも可愛いけどそろそろ出てきて欲しいなぁ」

意識より早く体が柳くんと真田くんの前に出た。ほう……と柳くんが興味深そうにノートに何か書いてる。さっきの個人情報の仕入れ具合をみて、大方データでも取ってるんでしょうが助けてくれよ。

「ふふ、みょうじさんなんてよそよそしいから、なまえちゃんって呼んでもいいかな?」
「もももちろんですとも」
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ、そんなに俺が怖いの?なまえちゃん」
「こ、怖いなんて!全然、ちょっと、いやちっとも思ってませんよ!」
「そんなに震えちゃって、可愛いなぁ。俺はなまえちゃんに噛み付いたりしないよ」

震えちゃって可愛いだなんて、とんだドSだな貴方!

「それよりなまえちゃん、私服のままで手伝いするの?」
「あっ、そういえば」

サロペットに探検バッグで小学生のようだと仁王くんにバカにされたのも記憶に新しい。自分の学校のジャージだったりユニフォームだったり、そうでなくても動きやすい服装にするのがいいのかな。流石にサロペットはまずいかもしれない。

「立海ので良かったら貸すよ」
「いいよ。私家でTシャツと短パンに着替えてくるよ」

あわよくば逃げたい。

「貸すよ」
「でも」
「だって、なまえちゃん逃げる気でしょ?俺はもう少し君を観察していたいんだ。柳もだろう?」
「そうだな。みょうじのデータは興味深い」

データとかこの際どうでもいいんですが何で私が逃げる気なの分かってんですか幸村くん。

「立海のジャージかユニフォームを貸してあげるよ」
「待て幸村。みょうじは氷帝の生徒なのだから氷帝のジャージをだな」
「何か言うことがあるのかい?僕はなまえちゃんに立海のを着て欲しいんだよ」
「……いや、異論はない」
「いいってば幸村くん!私帰って着替えてくるからさ……お気に入りのジャイアンTシャツ急に着たくなっちゃったなぁ〜?」
「きっと似合うと思うよ。身長はどのくらいかな?」
「みょうじは158cmだ」
「じゃあ丸井と近いかな?丸井、もう一着くらいユニフォームかジャージ持ってる?」
「ええ〜、持ってたとしてもみょうじには貸したくない」

丸井は後でぶん殴るとして私の意見は却下された。ジャイアンTシャツだって君たちと同じ芥子色だよ変わらないよ。

「先輩、部長に遊ばれてるっすよ」
「そんな気はしている」
「雑用兼幸村のオモチャとかなかなかできんぜよ。モテるのう、なまえちゃん」
「全国のモテる女子の最底辺いってるぜよ」

私はこの合宿でキング跡部くんと魔王幸村くんの対応をせんといかんのかと思うと前が霞む。私は本気で転校を考えた方が良いのかもしれない。この合宿終わったら書類を揃えるんだ……!

「赤也は?」
「持っていない確率100%だ」
「幸村」
「ま、そうだよね。後は身長高くなっちゃうけど……誰か持ってないの?」
「意地でもみょうじ先輩に立海の着せたいんすね」
「幸村」
「当たり前だよ」

ブンちゃんや切原くん辺りは160以上だとして、他は170以上だ。着た所で手が袖から出なくてみっともない確率それこそ100%だ。しかし幸村くんの目本気である。私は否が応でも着なければならないらしい。

「お前ら集まってどうしたんだ?」
「おージャッカル!こないだ話した珍獣連れてきたぜぃ」

丸井ブン太は後でバックドロップだ。
やって来た彼は確か……桑原くん。切原くんといいややこしいわ。

「おいおいブン太。女子に向かって珍獣はねーだろ。確か、ブン太が話してたみょうじだな。よろしく。合宿の間頑張れよ」
「ブワッ」
「何ブワッって口に出して泣いてんすか」
「めっちゃ良い人……!ううっ……私この合宿で初めてまともな人にあった気がする。この合宿、変な人ばっかり!」
「お前さんが1番まともじゃないぜよ」

仁王は後でジャーマンスープレックスだ。バックドロップといいできるかは分かんないけどこの溢れる敵意と殺意さえあれば何だってできる気がするよ。
そして、ジャッカルくんは『悪いな』と申し訳なさそうに謝ってくる。悪いのはブンちゃんと仁王くんなのだから何も謝ることはないというのに。その言葉に彼のポジションを感じ取り更に涙した。

「ちょうど良かった。ジャッカル、なまえちゃんに着せるユニフォームかジャージ探してるんだ」
「生憎だが俺は持ってねえ」
「その……幸村」
「何だい真田?」

ようやく3回目の幸村で気付いて貰えた真田くん。気を取り直すようにゴホンと咳払いする。

「1着予備のジャージを持っている」
「そうか。それでどうしようかな。後は柳生に聞かないとね」

幸村くんは真田くんのことを思いっきりスルーした。

「あの二人仲悪いの?」
「そんなことないっすよ。仲良いっす」
「じゃあ何で今のスルーしたの?」
「恐らく精市が弦一郎の体臭が移るのを気にしているのだと思うが」
「確率何%くらい?」
「弦一郎に気を使うと89%だ」
「どのくらい気を使ってるの?」
「10%は俺の良心だ」
「もう100%でいいだろぃ」
「別にいいけどな。武士のフレグランスちょっと興奮するかも」

うちの副部長を性的な目で見るとは……という驚愕の視線を幸村くんと当の真田くん以外の皆が向けてくる。柳くんが更にペンを走らせている。

「なまえちゃん真田みたいなのが好きなんか?」
「趣味わっるぅ……」
「切原くん失礼だなぁ。私は大人な人が好きだよ。知的でさ、あと紳士的で。メガネ掛けてたら尚良し」

同時にかの手塚さんの顔が思い浮かぶ。やはりあの理想通りの人には二度と会えないのだろうか。

「じゃあ柳先輩も入るんすか?」
「入るよ。柳くんかっこいいと思……!?」

柳くんを見ると私を開眼してガン見していた。そんなに嫌なの?身長差もあって見下されてるようにしか見えないよ!

「マジかよぃ……」 

柳くんがあまりにも怖いので視線を逸らすとブンちゃんが顔を手で覆って空を仰ぎ見ていた。みんな見下したり見上げたり忙しいやつらだ。

「ブンちゃんはどうしたの?」
「気にすんなって。自分と正反対過ぎて打ちひしがれてるだけだからさ」
「本気じゃったら柳生なんかなまえちゃんのまんま好みじゃな」
「何だって」

私の耳に微かに届いた仁王くんの呟き。
仁王くんは悪戯っぽい笑いで『プピーナ』と一言。こいつおちょくってんのか。

「柳生くん会ったことないけどドキドキ」
「なまえちゃん運がええの。噂をすれば何とやら。柳生が来たぞ」
「!?」


次回、私は手塚くん以来の衝撃と対面する。


2016/9/16修正
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