跡部くんは私のことをよく分かっているようで、資料に合宿に参加している人の名前の顔写真を載せてくれていた。立海が使っているコートに丸井くんと一応嬉しくもないけど仁王くんに案内してもらうこ
とにする。

「いつまで名簿見て唸ってる気なんだよぃ」
「名前全然覚えられないんだもん」
「俺の名前は覚えとるじゃろ」
「早く忘れたい」
「願望かよぃ」
「ずっと思ってたんだけど丸井くんってトリトリの実モデルフェニックスの能力者だったりするの?」
「話を次から次へと飛ばすな!口調だけだろぃ!」

そんなことより覚えろ!という丸井くんに怒られ資料に再び目を向ける。そんなこと言っても、実は真田くんと柳くんと柳生くんは覚えた。大人っぽいしめっちゃタイプ……一人武士道を追求してるっぽい人もいるけど。

それと覚えたのは幸村くん。
立海名簿のトップバッターを飾るこの人。ただの爽やか美少年な顔写真から漂うオーラが一人だけ異質だ。配下にルシファーとかメフィストフェレスとかヤマタノオロチとかをつけていそうだ。

「ということで切原くんと桑原くんと仁王くんと丸井くんの区別がつかない」
「お前の目前に丸井くんと仁王くんがいるだろぃ!」
「丸井くんってブン太っていうんだね。可愛いね。ブンちゃん」
「男に可愛いとかいうなよな……」
「ブンちゃん小声でどうしたんじゃ」
「笑ってんじゃねー仁王!」

ブンちゃんという響きが可愛いし覚えやすいので今度からブンちゃんと呼ぼう。出会って一ヶ月越しでやっと覚えられそうだ。

あとは切原くんと桑原くんと仁王くん。

「資料見ながら話すわけにもいかんしなぁ」
「噂をすれば赤也と真田が練習してるな。ほら、あのワカメ頭が切原赤也じゃ」

ワカメ頭の切原……と同時にスパーン!という空気を切る音がして足元にテニスボールが直撃した。あまりの音に私は思わず……あ、仁王くんだった、彼の後ろに隠れた。

「ちょっと仁王先輩聞こえてるっすよ!」
「赤也!何処に向かって打っとるんだ!」
「へいへーいすみません副部長」

打つじゃなくて撃つの間違いじゃね?そういえば資料のとこに立海って「全国大会2連覇」って書いてあったな。あっそういえばテニスと思しき格闘技してるってことはやっぱりこの立海は……。

「……」
「赤也のせいでみょうじが言葉失ってるだろぃ」
「え?誰すかこの人」
「こいつが跡部の言っとった今年の臨時マネージャーじゃ」
「……ひいいいいいい!」
「遅れてビビってんじゃねーよ!」

タマを撃ってきた切原くんが私の顔をジロジロと覗いてくる。仁王くん苦手だけど背は高いから隠れる時には助かるな。

「赤也!女子をジロジロと見るんじゃない!たるんどる!」
「うわ!副部長こそ女子の前で暴力はマズイっしょ!」
「まあまあ真田。まずはなまえちゃんに自己紹介したらどうじゃ?」
「ああ、それもそうだな。俺は立海大附属中の副部長、真田弦一郎だ。みょうじだったか?その、だな……。気の毒だったな」

立海のMr.ブシドー真田くん。なんだか含みがある物言いだ。仁王くんの後ろから出て私も自己紹介ついでに聞き出す。

「氷帝3年のみょうじなまえです……。あのさ、真田くん、もしかして跡部くんから色々聞いちゃったりしてる?」
「ああ、事の次第は。跡部の奴、女子にス、ストーカーなどけしからん!たるんどる!」
「え、あの跡部さんにストーカーされてるんすか!?丸井先輩、仁王先輩、この人そんなに可愛いってわけでもないけど……モテるんすか?」
「ちょっと!聞こえてんぞ桑原くん!」
「なまえちゃん、こっちは切原赤也じゃ」
「みょうじ!何かあったら俺や誰かを頼るんだぞ。氷帝よりも第三者の俺たちなら助けてやれることもあるだろう」
「うん、なんか(跡部くん)ごめんね」

真田くんは良い人らしい。私はこの合宿所で白石くんと小春ちゃんとチョタくんに続き初めてまともな味方を得た気がした。あと強そうなのが信頼感を上乗せしてくれる。
それと、一応は心の中では合宿所でストーカーとなってしまった跡部くんに謝っとく。でもその風評被害は自業自得だよ。

「なまえちゃん、俺と真田との対応が全然違うんじゃが」
「だって仁王くん苦手」
「ストレートじゃな」
「ちょっとちょっと!俺にも自己紹介させて下さいよ!」
「紹介しなくても分かるよ。桑原くんでしょ」
「だから切原!切原赤也っす!」

なんでジャッカル先輩と間違えるんすかー?という切原くんに手元の資料を見ると南国系スキンヘッドの下に『桑原ジャッカル』とあった。切原赤也と全然違うな。

「切原くんは……2年ね。私に失礼なこといった後輩として語り継ぐ」
「うわ!怖い顔しないでくださいよ!すんません!」
「……ふっ、良かろう」
「で、何でアンタ可もなく不可もない見た目なのに跡部さんにストーカーなんかされてるんすか?」
「……ふっ、殴ろう!」
「ちょっ、やめてくださいって!」

私の可愛い後輩であるチョタくんを見習え!と言いたくなる。日吉くんなんかドストレートで難解な暴言を吐いてくるのに切原くんのはドストレートで安易な暴言だから癪に触る。癪を鷲掴みされている気分だ。

「そういえば幸村がみょうじ、お前に会いたがっていた」
「え、幸村くん?全然知らないのに?」
「何やら柳から色々聞いたらしい」
「……その柳くんのことも全然知らないんだけど」
「まあちょっと漏らした覚えはあるぜぃ」
「お前か」
「挨拶回りをしているのだろう。ぜひ幸村にも会ってやってくれ」
「うん、分かった」
「俺もなんか面白そうだから着いて行っていいすか!?」

切原くんが面白そうと言うのと同時に私を見た。最近テニス部関係の人によく言われる気がする。私を何だと思っているのだろうか。遊園地じゃないぞ私は。

「まあいいだろう」
「真田くんもどう?」
「俺は遠慮しよう」
「跡部くん来たらどうしよ」
「む、それもそうだ。跡部には説教しなければな」
「なんか(跡部くん)ごめんね」

真田くんは厳格って感じだし副部長だというのでハプニング防止に連れて行こうと跡部くんで釣ったら見事成功。切原くんの抑止になりそうだ。跡部くんには申し訳ないが君もハプニングの中にカウントされてるよ。

「なあなまえちゃん」
「どうした仁王くん」
「俺と真田に対する態度が全然違うの」
「それさっきも言ったじゃん。仁王くん苦手だもの」
「まーくんしょぼんぬ」
「うわぁ……」
「何じゃ、可愛いじゃろ」

真田くんには仁王くん除けの効果もあるだろうか。


2016/9/10修正

まーくんしょぼんぬって言わせたかった。

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