「えっ!?氷帝と四天宝寺と青学と、なんとかとで今日から合同合宿!?」
「立海やで、なまえちゃん」

ちょっ、何それ聞いてないしィ!
南の島行ったんじゃなかったの!計画変更ってこと……?唐突すぎるでしょ……しかもここで合宿なの?

「跡部の奴、合宿直前に場所変えてんねんで」
「どうして?」
「現地で合流する70代がおるとかなんとか」
「それ私や」
「は?」
「それ私や」
「お前70代なん!?あかんて小春!こんな奴と一緒になってもどうせ結婚生活やのーて介護生活になるで!」
「ね、ねーちゃんおばあちゃんやったんか!?」
「くっそおおお!跡部くんに会いたいくないぜぇ!あと一氏くん!金ちゃん!私その70代じゃないから!」

跡部くんのしつこさと財力は折り紙付きだと痛感。夏休み始まる前に仲直りしとくんだった!
しかし、今の問題はそういう過ぎたことじゃない。すべきことは跡部くんがいかにして私に合宿の手伝いをさせようとしているかを把握してそれを掻い潜るかということ。
残念ながら私はもう敵の懐にダイブしてしまっている……これで跡部くんに見つかれば即アウト即手伝い即下僕だ。しかし、裏を返せば相手の作戦を探れるということだ。

「あんたらこんなとこにいたんすか」
「財前、遅かったなぁ。何しとってん?」
「氷帝の跡部さんがあんたを探してんたんすよ」
「あんだって……!それは本当なのピアスくん!?跡部とか跡部とか跡部とか跡部とかが誰を探してるだと!?」
「落ち着いてや、跡部くんは俺を探してるんやて」
「謙也さん、何なんすかこいつ」
「千歳の幼馴染で白石が将来を考えてる例の女子や」
「趣味悪」
「出会って数秒のよう知らん上に年上の女子もバッサリか」

跡部くんが白石くんを探してるだと。これはまずい。裏を返せば跡部くんを探れるなんて余裕綽々なこと言えない。どこかに隠れねば。

「なまえちゃん、そんなに跡部に会いたくなかと?」
「跡部くんとは色々と因縁があってね!相性悪くってさぁ……そんなことより隠れなきゃ!」
「なまえちゃん」
「何?小春ちゃん?」
「もう無理やと思うで」

小春ちゃん。逆光でレンズの奥がみえない。けど間違いなく哀れなり……という視線をひしひしと感じる。

「白石に用があるついでに見にきたら見知った奴がいるじゃねーの」
「……」

けして振り返るものか。
まして言葉も紡ぐものか。
私は黙って他人のふり作戦を決行した。この後どうするか?知らん。

「みょうじ……他人のふりしてやり過ごすつもりか?」
「……」
「おい数学73点!」
「……」
「奇行種系女!」
「……」
「タミフルなまえ!」


私の不名誉なニックネームが次々に公開されていく。タミフルなまえって所で謙也くんと一氏くんが吹き出したのが聞こえた。
『タミフルとかwww』『あかんてwwユウジやめーやww』だと……草まで生やしやがって。てめーら後で覚えとけよ。髪の毛針どころか霊電気に処すかんな。


「ねーちゃん?さっきから呼ばれとるで!なんで無視……むむむ!」

金ちゃんの口を塞いで更に抵抗を続ける。指スマ時に金ちゃんのコントロールのきっかけをぬかりなくつかんでいたので咄嗟に金ちゃんの口の中に塩飴を突っ込んだ。効果は絶大だったようだ。私に口を塞がれつつも飴ちゃんを舐めている。

「俺様はなぁ……みょうじ。お前を追って合宿予定地をわざわざ変更してきてやったんだ」
「!?」
「俺様を舐めるなよ。お前は祖母の家に行くと言っていた。俺様の力を以ってすればお前の行き先を洗い出すことなんざ、A piece of cake!朝飯前だ」
「跡部くんそれって……」
「あかんなこいつ……侑士並にあかんで」
「ストーカーに財力持たせるとタチ悪いっすね」
「あの跡部くんですら惚れさせるなんて……流石なまえちゃんやわ」
「跡部かぁ……また濃ゆい奴ば仕留めとるたい」
「いや、これ惚れとるとちゃうやろ」

朝飯前をわざわざ英語で言ったのには思わず吹き出しそうになった。さすが跡部くん。かっこ付けずにはいられない。ナルシもorigamitsuki!折り紙付きの英語わかんない!

「……」
「さあ観念しやがれ。俺様の前に跪け!」
「……」
「なまえちゃん、ここは大人しく従いましょ」
「小春ちゃん……」
「こんなことしてても時間の無駄よ。ああいうのはね、氷帝の顧問の榊先生…いえ警察に相談するのが一番よォ!」
「え、そこまでしなくても」
「あかんで!今こそ俺がなまえちゃんの側おるし守れるけど将来的に東京に帰った時にもこんな目に遭ったらどうするん?」
「白石くんもかーい」
「ねーちゃん飴ちゃん無くなった!もう一個!」

四天宝寺の一味が跡部くんを警察の所へ連行しようとしているようだ。取り敢えずここは大人しく投降しよう。跡部くんを警察沙汰から救ったということで恩赦を貰おう。私は金ちゃんに塩飴を与えて跡部くんを……

「みょうじ、やっとこっち向いたか。遅いぞ」
「……」

見たのはいいが、いざ振り向くとたかが73点とか微妙な73点とかタミフルなまえとかの暴言を思い出して眉根が痙攣してる気がしてならない。
さっきまで無言を貫いていたのに、ここで口を効くのもなんだか悔しい。

「お前に73点の褒美を取らせにきた」
「……」
「分かってるだろうな?」

雑用だろ。
ケッと心の中で跡部くんに向かって啖呵を切っていると跡部くんが返事しろと催促してくる。返事したくない。私は跡部くんに負けたくない。ジャイアンに負けてなるものか。ドラえもんが安心して未来に帰れないんだ。私も安心しておばあちゃんの家に帰れないんだ。

「いい加減諦めろ。うんとかすんとか言ったらどうなんだ」
「……ん」
「あーん?」

「……すん」

微妙な空気の後で跡部くんに連行された。


2016/9/10修正

久々の氷帝のターン!
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