かの四天宝寺男子テニス部部長、白石蔵之介は完璧なイケメンであり女子の憧れの的である。彼が東京に行って帰って来たと思ったら、告白に対する断りが
『俺、今は部活で精一杯やねん』から
『俺将来を考えとる人がおんねん』になった。
『好きな人がおんねん』ではなく、
まさかの
『将来を考えとる人がおんねん』である。
四天宝寺に激震が走った。
白石は恋をしていると。
そして、その相手はどこの誰で、一体どんな完璧な女なのだと。

千歳はいつものごとくフラフラしていて、金ちゃんはいつものごとく暴れまわっていたが、恋愛に興味津々な小春も、その小春に興味津々な一氏も、そのどちらにも興味無い財前も、この白石の変化には大いに驚き前者二人はその原因を探った。

原因こそ分からなかったが、あることに行き着いた。白石がこうなったのは、謙也と東京から帰ってきてからだ、と。

「せや、白石は恋しとんのや」
とは、謙也の証言である。

「相手は……まあええ奴やで。頭はちょっと可笑しい。いや、かなり可笑しい。外見？外見は、よーく見たら可愛いかも、やで。……ほんま鬼太郎にしか見えへんのやけど」
「誰が鬼太郎や！なまえちゃんかわええやろ！ちゅーか謙也かてなまえちゃんに惚れとるやんけ」


「なまえちゃん！」

恋する白石は盲目やった。みょうじの姿をロックオンすると、すぐさま駆け寄り手を握った。王子様か。いやルックスは王子様やな。

「あ、君はいつぞやの……」

みょうじはやや青い顔をしとる。
恐らく白石の名前が出てこんのや。
侑士が『なまえちゃんは人の名前覚えられへんねん』と言うとった。
ちゅーことは俺も覚えてへんのやろ。
…あかん、俺ちょっと泣きたい。

「白石！ワイ、今ねーちゃんと指スマしとんねん！邪魔せんとってーな」

指スマ中のみょうじの手を取られたからか金ちゃんが白石に文句を言うが白石はまさしく無我夢中や。エクスタシーや。


「なまえちゃんに会えるなんて…んんっ、エクスタシー！」
「そ…そうそう…し、白石？くんだ…」
「しーらーいーしー！ねーちゃんはワイと遊ぶんやー！」
「何言うとんねん金ちゃん！か弱いなまえちゃんにケガさせて…謝ったんか」
「う…」
「大丈夫だよ白石くん。何か治ったし」
「なまえちゃん……！ほんま天使やん……いや寧ろ聖女や」

車より頑丈な天使や聖女がいてたまるかい。

「何ねなまえちゃん、白石とどういう関係なん？」
「いやぁ、あのね。忍足くんのつてで白石くんと……忍足2号くんと知り合ったのね」
「そうだったと？全然知らんかったばい」

千歳がみょうじの手を取り白石のポジションを奪い取る。どうやら千歳もみょうじに絆されとるらしい。白石と千歳の視線が合うて一瞬電流が走った。みょうじのどこがいいのか分からん……見た目鬼太郎やし頭ちょっと変やしやっぱり俺の名前忘れとるし。いや、俺は断じてみょうじに惚れとるわけちゃう。確かに俺は東京行ってみょうじのこと好きになったみたいに描写されたけどあれは断じてちゃうんや。ただ東京という魔の地帯の発する強大な力によって俺は狂わされたんや。ちゃうちゃう。

「でさ、2号君の名前なんだったっけ？」
「お前、白石と千歳がこんなんなってんのに相変わらずマイペースやな！謙也や謙也！」
「なぁー！ねーちゃん指スマの続き！」
「はいはいわかったわかった。で、名前なんだっけ？」
「謙也や言うとろうがー！」
「金ちゃん、謙也くんってやっぱり弄られキャラなの？」
「さあ！ワイよう分からんけど、いっつも財前にいじめられとるで！」
「やっぱりな」
「しばくど」

ついユウジの口癖が伝染してしもた……とほんまorzみたいに沈んでると、あのユウジと小春のラブルスが静かなことに違和感を覚えた。後ろを振り向いても誰も立っとらん。前方から突然歓声が上がる。

「いやぁーん！なまえちゃんっていうの？可愛い子ね！」
「いや小春ちゃんの方が可愛いよ！指スマ3！」
「また負けた！悔しいわぁ！」
「小春ちゃんって女子力53万くらいありそう」
「なまえちゃんはそのままでも十分モテるわよ！指スマ2！」
「浮気か小春ぅ！」
「あかーん！ワイ全然上がれへん！」
「千歳……俺、なまえちゃんのこと本気やで」
「こりゃあ強敵ばっかりたい。なまえはいつも何癖もある男に好かれるけんねぇ……」

白石と千歳が頭上で争ってるにも関わらずみょうじは小春と打ち解けとった。お前ら俺がorzなってる時に打ち解けたんか！早すぎるやろ！浪速のスピードスターもビビるで！ちゅーか金ちゃんも捌いて器用やな！そしてユウジは通常運転すぎやで！

「おお、ツッコミごくろう」

俺の影の努力に気付いたみょうじが笑いかけてくる。ちょっと上から目線なのが気になるんやけど……ちょっときゅんってなったわ。いや、ちょっと！ちょっとだけやで！

「ところでさ……」

……そういや侑士が言っとった。
なまえちゃんは自分で建てたフラグを自分で折ると。期待した男を轢殺していくと。堪忍してや、通常運転はユウジだけにしとってや……！

「忍足2号くん名前なんだったっけ？」

……俺みょうじみたいに車並みの耐久持っとらんねんで。


2016/9/10修正

もちろん謙也も通常運転。

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