「ねーちゃんすまん!怪我ない?ない?」
「なまえちゃん、俺の声聞こえとる?」

意識は戻った。急に悪戯心をくすぐられたので、聞こえとるけど気を失ったふりをしておこう。
確、ヒョウ柄のファッションが印象的な少年だった。彼の声が聞こえる。

「なあなあ!ねーちゃんもしかして死んでしもたん!?」
「なまえは頑丈だけん金ちゃんのタックルじゃあ死なんよ」

三途の川は見えたぞ。
私より小さかったはずなのによく私にここまでダメージを与えられたものだ。ちーちゃんの言う通り私は頑丈だから割と平気なのに。

「でもねーちゃん全然目ぇ覚まさへんやん!」

ちーちゃんは気付いているはず。一方、少年はかなり動揺している様子だ。……某とっとこなハムスターに関西弁のこんな似たようなハムスターがいたのは私の気のせいだろうか?

「ねーちゃん……」

彼の声に申し訳ないなと思っていると身体を抱き上げられた。はたから見たら白雪姫のワンシーンだろう。

「目ェ覚ましてやー!」
「ぐふぅ!」

抱きつかれて背骨と肋骨が『バキバキ』『ボキボキ』とデンジャラスな音を鳴らした。痛みなどいわずもがな。

「はっ!ねーちゃん目ェ覚ました!」
「おおおお願い放して!死ぬ死ぬ死ぬうう!」
「あ、あかん!やっぱねーちゃんどこか悪いんか!」
「金ちゃん、なまえちゃんからバキボキ聞こえるけん放してやって」

離されたと同時に私は倒れこみ、ちーちゃんに背負われて合宿所に運びこまれた。

命に別状はなかった。

「ねーちゃん死んでなかったんやな!」
「同然の状態には追い込まれたよ。しかも結局動けないんだけどね」
「それよりねーちゃんは千歳の何なん?」
「反省とかしてないの?ねえ?」

まあなまえちゃんも変わらんけん良かたい、とちーちゃんが横槍を入れる。ちーちゃんの中で私は彼のような小学生みたいな姿のまま止まってるようだ。
まあここは私も大人なので責めるのはもうやめよう。

「……私はちーちゃんの幼馴染なんだ。」

「なーんや、てっきり千歳の彼女やと思ったわ」
「俺もそぎゃん言いたかたい……」
「それでねーちゃんの名前は?」
「みょうじなまえだよ。よろしく」
「わいは遠山金太郎やで!」
「なるほど、だから金ちゃんね。ちーちゃんの後輩?」
「そうそう。なまえちゃん、少し待っとって欲しかー。金ちゃんの相手ばしとって」
「うん」

ちーちゃんは立ち上がるとどこかに去ってしまった。
残されたのはソファの上で満身創痍の私と、肘をついて興味津々で私を眺める金ちゃんのみ。

「なあなあ、ねーちゃん」
「何?」
「ねーちゃんなまえっていうんよな?」
「そうだよ」
「その名前どっかで聞いたことあんねんな〜誰やろか?」
「まあ名前なんて一人や二人被るもんだし……」
「せやろかー?ま、ええか!どうせ思い出されへんからな!」
「思い出せないのにどうして聞いたのかな?」
「せや、ねーちゃん今からわいと鬼ごっこしようや!」
「ねーちゃん今動けないんだけどな?」

金ちゃんは落ち着きがないというか、言動もまだ子供らしい。私としては「弟を持つとこんな感じなのかな」と思ってる。うん、それ錯覚な気もするね。


「千歳、お前の幼馴染ほんまに大丈夫なんか?」

あの金ちゃんにタックルされた後、更には骨があらぬ音を出すくらいホールドされたいうんやから、大丈夫なはずない。白石が心配するのも当然や。
せやけど、千歳は笑うとるだけ。

「大丈夫ばい。俺の幼馴染はその辺の車より頑丈だけん」
「それはそれでどうなんやっちゅー話や」

まあ千歳の幼馴染とかいうし、金ちゃんの強烈な攻撃にも耐えられる気はする。隣で対処を考えている白石にどうするん?と聞くと、くしゃくしゃ頭を掻いた。

「いや……部員がケガさせてしもたんなら謝りに行かんとあかんなぁ。千歳、案内してや」
「良かよ」
「あらぁ〜!千歳くんの幼馴染ですって!?アタシ見てみたいわぁ〜ん!」
「浮気か!」
「お前ら、見せもんじゃないんやで!相手はケガしとるし……どうせ金ちゃんも謝っとらんのやろ」

白石と千歳、俺と、なぜか小春とユウジが付いてきて謝罪の為の使節団が完成してしもた。テンションだだ下がりの白石が悲しい。

「そんな落ち込まんでもええやろ白石。千歳から聞くにあちらさんも、もう許しとるみたいやし」
「せやけど……なんか嫌な予感がすんねん」
「ねえねえ!千歳くんの幼馴染ってどんな子?何か深い関係があったりす・る・の?」
「千歳ばっかりずるいわ!俺も構えや!」
「お前らうっさいわ!白石がこんなに落ち込んどるっちゅーに!」

ガヤガヤ騒がしい中でも千歳だけが笑うとる。何や、偉い上機嫌やな。

「たいがむぞらしくて、たいが良か子たい!天才肌だけん、たいが変わっとるとこもあるけど」

とても可愛くて、とても良い子。
天才肌だから、かなり変わっている所もあるけど。

そういえばこの前会ったみょうじも、かなり変わっとったけど良いやつやったな。鬼太郎みたいやし可愛いかは甚だ疑問やけど。

「あそこのソファに寝とるよ。おーい」

いかんいかん、みょうじのことが浮かんでしもた。今は謝罪やな。落ち込んでる白石を侑士のとこに連れてってみょうじの話でもするようにたの……

「ねーちゃん強いな!」
「ふふふー!ねーちゃんに勝つのはあと5万年早くってよ!」

「何ね、金ちゃんと打ち解けとったい」
「……千歳、あれ誰やねん」
「誰も何も、俺の幼馴染たい」

「指スマ3!」
「あっかーん!また負けた!」


何でや!何でみょうじが金ちゃんと指スマしよんねん!

2016/9/10修正

スローペースですね
次すぐ上がります。


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