「ちーちゃん?」
「……なまえちゃんね?」

おお、やはり……!と胸が高鳴る。私の周りで特徴的な髪型をしているのはブチャラティことがっくんと彼くらいしかいない。

千歳千里くんことちーちゃん。
私の幼馴染だ。

「はーなまえちゃん、直接顔合わせるのは久しぶりたい!」
「ほんとよ!ちーちゃん相変わらず大きかね……ってか、たいが大きくなった気がすっとだけど」

昔からちーちゃんを見上げるのは首が痛くなるなぁとは思っていたが……かなり大きくなった。これは樺地くん以上なのでは?


「今194たい」
「おいふざけんな俺にも分けろよ」
「なまえちゃんも相変わらず身長への執着心が克服できんとね」

よしよしと頭を撫でられるが少々屈辱的な気持ちになる。

「そういえばちーちゃん、こぎゃんところで何しよっと?ちーちゃん熊本やん」
「今熊本には住んどらんばい。ちゃんとなまえには連絡したど?俺は大阪の中学に転校したつたい」
「あっ」
「なまえは抜けとる所も相変わらずね」
「でもここにいる理由は答えとらんじゃん。何でこんなとこおっと?」
「合宿があっとるけんたい」

合宿……と考えると、そういえばちーちゃんはテニス部だったと思い出す。ちーちゃん、それと桔平はいつもテニスに夢中だったような。テニスにはずっと仲良しだった2人を取られた気がして悔しくて、反面テニスに夢中な2人がとっても羨ましかった記憶がある。

「合宿抜け出して散歩しよっとね?」
「なまえちゃんにはお見通しね。そんな責めんでも良かたい。もう戻ろうと思っとった所だけん。
あ?なまえも来んね?どうせ二番目の兄ちゃんと喧嘩したとだろ?」
「なぜ分かるんだ」
「俺にはなまえちゃんのことなんてお見通したい」

幼馴染に単純バカと言われた気がして大変悔しかったが、「冷房」「いきなり団子」をちらつかせてきたちーちゃんは強かった。いきなり団子マジ県民のソウルフード。

「ちーちゃんって今なんていう学校に通っとると?」

ちーちゃんと小川を沿って歩きながらたわいもない話をする。3年も離れてた幼馴染から色んなことを聞きたいと思えるのが心地良かった。

「今は四天宝寺ってとこに通っとるよ」
「四天宝寺……」

いつか……いつかのとき。
忙しない忍足くんのいとこ(案の定名前は忘れた)と輝かんばかりのイケメン(こちらも名前は忘れた)と忍足家で話してたとき聞いたんだ。

『……くんと……くんって大阪のどこの学校なの?』
『俺らは四天宝寺っちゅー学校に通ってんで』

名前を忘れたのは本当に申し訳なく思っているんだが、なぜか学校は覚えていた。

「テニスやっとるんでしょ?有名なん?」
「有名ばい。なまえちゃんがおる氷帝も有名たい?跡部とか」
「あーその名前は聞きたくなーい」

ちーちゃんから跡部くんの名前が出てくるとは迂闊だった。聞きたくないジャイアンの名前が出てきてぞっとした。嫌な予感こそしたが今は南の島にいるはず。

「テニス部……」

そういえば、かの忍足従兄弟はテニス部なのだろうか?なんかめっちゃ俊足に見えたから陸上部だと勝手に認定したけど、もしかしたら……忍足(本体)がテニス部だし……なきにしもあらず。

「なんね?複雑な顔して」
「なんでもないよ」

しばらく他愛もない話をしていた。私やちーちゃん、桔平とはよくこうして話をしたり、まあ今思うと二人乗りなんてやんちゃなことしたりしながらこんな田舎風景の中を楽しく過ごしてたっけ。
今はもうできなくなっちゃったけど。

「……なまえちゃん、3年見ないうちにたいがむぞらしくなったたい」
「……突然何ば言い出すとね?」

ちーちゃんってこんなキャラだったか?
なんかナンパされてる気分になる……ナンパされたことないですが。変わったのはあの頃の思い出だけではないようだ……。

「桔平も東京におるけど……付き合っとったりする?」
「全然。桔平とは杏ちゃん交えて遊んだりすることもあるけど」
「ほんなこつ?」
「うんうん。何ね、変なの」

ちーちゃんは昔から何考えてるのか分からないタイプではある。今だってちーちゃんは、笑ってはいるのに、私は落ち着かない気持ちにさせられる。

何というか……その……視線がエロいというか……。

あ、決して幼馴染に忍足レッテル(変態、エロい)を貼るつもりはないですよ!


「ここは押しの一手指しとくのが良かか」
「ちーちゃん将棋得意だったね。まだしよると?」
「たった今も難攻不落な穴熊囲い相手に対局中たい」
「脳内対局?」
「なまえちゃんはほんなこつ抜けとる」
「はいはいもうそれは聞き飽きましたー!もう良いですよーだ!」
「でも、そぎゃんところもむぞらしか。昔から俺と桔平のお姫様だけん」

突然のお姫様発言に、流石にちょっと恥ずかしくなった。ていうか私の幼馴染さすが!
この発言を私を女子とも思ってない宍戸くんとか、
私を人間とも思っていない跡部くんとか、
私を生物とも思っていない日吉くんに
是非とも聞かせてあげたいです!

「ここは指しとくべきね。俺なまえちゃんのこと好いとうよ」
「うちもちーちゃんのことは好きたい。桔平ももちろん好き」
「俺の好いとうと、なまえちゃんの好いとうは違うとよ」
「……!?」

私だってそこまでアホじゃない。
ちーちゃんの告白が、まさか!

「ち、ちーちゃん……」
「なまえちゃん、やっと分かった?」
「わ、私ちーちゃんが桔平のことそういう意味で好きだなんて知らなかった……」
「うん、何でそうなっと?」

『俺の(桔平に対する)好いとうと、なまえちゃんの(桔平に以下略)好いとうは違うとよ』

ということか……!
『対する』と『以下略』の文字数一緒だからあんまり略した意味ないね!

「うん、大丈夫だよ。私は何があっても受け入れられる!」
「何が大丈夫ね……なまえちゃんはその勘違いの激しか所もむぞらしかけど。桔平とはそういう関係じゃなか」
「……本当に?」
「ほんなこつ」
「……本当にほんなこつ?」
「ほんなこつよ」
「……本当に以下略?」
「ほんなこつだけん、心配せんで」

以下略使えた。安心した。
幼馴染と久々に再会したら同性好きになってましたとか、驚くもんなぁ。言うなれば私のかつてお兄ちゃんだった人がお姉ちゃんになった日くらいの衝撃(我が家ではXデーと呼ばれる2年前の10月の某日)だ。

「まだまだ早かってことたい……」
「?」
「気にせんで。ほら、もう合宿所見えたたい」

ちーちゃんが指差すと確かに大きい建物が見えてきた。かなり大きい施設だ。昔からあったっけ?こんな建物?と思いつつ見ていると。

「ちーとーせぇぇぇぇ!」
「ぐはぁあっ!?」

何か自分より小さいもののタックルを食らった。ちーちゃんにキャッチされたから良かったものの、私は三途の川が見えた。

「なまえちゃん!」

ちーちゃんの声が聞こえる……。
けど……。
私は三途の川を渡ろうとしていた。



2016/9/10修正

物理的攻撃には沈む難攻不落。

ちーちゃんエロかっこいい。

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