終業式のあった日に私はガリガリ君を手土産に友人宅へと突撃した。友人家族は私を大変暖かく迎え入れてくれ、ご飯を食べお風呂に入ったあと友人とガリガリ君を食べながらポケモンを見ていた。
そう今日は木曜日。7時からポケモン、30分後にはナルトというゴールデンタイム。

「サトシくんテライケメン」
「あんた年上が好きなんじゃないの?」
「ラララ ラーラーラー なんて素敵な♪」
「突然のパラダイスやめなさいよ」
「おにいさんは好きだけどサトシくんは別ですぅー」
「はいはい」
「受け流してるけど友よ、貴女がショタホモに興味があるのは知ってるんだからね。
シンジ×サトシことシンサトの薄い本を机と壁の隙間に隠してるのを……」
「奇行種のクセに侮れない奴ね」

ショタホモへの関心を否定しない友人は本当に潔いと思う。サトシくんがロケット団を倒すためピカチュウに10まんボルトの指示を送ったところで、突然インターホンが鳴った。

「俺マサラタウンのサトシ!こいつは相棒の友人!君は?」
「顔合わせてこれかよ!俺は向日岳人だ!よろしくな!」

リビングに入ってきたがっくんにノリで声をかけると普通に返事がきた。がっくんのノリいいな。

「どうしたの岳人?」
「いや、みょうじが来てるって聞いてよ。
ちょっとガリガリ君もらいにきた」
「ガリガリ君目当て…」
「それでお前ら何観てんの?」
「ポケモン観てる。でも終わっちゃうしナルトあるからそれ観る」
「俺も混ぜろ!」

友人母からガリガリ君を受け取ったがっくんと友人とでナルトを鑑賞することになった。

「ねーさー、テニス部って…」
ナルトが螺旋丸を撃ち込んでいるのを観て何となく思い出す。友人やその他から聞いたところ、彼らのテニスは常軌を逸脱しているらしい。
文化活動委員長が言っていた。
『あれはテニスと思しき形をした格闘技だ』と……。幼なじみがテニスやってたけどそんなんだったかな?

「ナルトみたいなことしてるっていうけど本当?」
「あんた文化活動委員長に何か言われたみたいだけど螺旋丸打ちまくってラリーしてるとか考えてるでしょ?」
「違うの?」
「そんなわけないだろ!フェンスとか壁とか抉る奴もいるけど」
「螺旋丸じゃん……」

それは波動球というらしい。
なんだ螺旋丸より波導弾か。必中じゃん。

「ポケモンバトル……」
「ちょうど合宿あるぜ!観に来るか?」

ハーゲンダッツと共に合宿計画書をちらつかせてきた跡部くんの顔がフラッシュバックする。南の島と書いてあった。暑いのは嫌だ。遭難しそうと第六感も囁いているし。

「いいよ。それに私だって合宿じゃないけど色々あるし」
「なまえはコンクールが近いのよね?」
「そうそう。おばあちゃんの家で特訓」

特訓はおばあちゃんの家で。
わがみょうじ家の父方のおばあちゃんの家はまさしくジブリの世界である。ススワタリことまっくろくろすけや大中小の妖精がいそうな場所にある。そんな所で大自然の優しさに包まれながら私はピアノを引いたり……お魚のパイを焼いたり……うふふふ。

「でも兄貴もついていくんだろ?」
「もちろん」
「お前らさぁ、相容れないじゃん?音楽性っていうの?いっつも喧嘩してんじゃん」
「……そうですね」
「なまえなんか黒歴史ノートみたいなの持ち歩く位作曲熱心だけど、それは兄貴もだよな?」
「……そうですね」
「作曲じゃないにしろ絶対喧嘩するだろ。多分スイカの取り合いとかでさ」
「……」

がっくんの言い分は正しい。確かに私は去年の夏おばあちゃんの家で兄貴の駄曲を聞いてしまいダメ出しをした所、向こうにもピアノのダメ出しをされて喧嘩になった。更にはスイカどころか川で冷やしておいたキュウリの残り1本で喧嘩した。
だってマヨネーズで食べるとか邪道な奴に渡したくないし……。

「で、できるよ!ちゃんとできる!」
「本当かぁ?」
「大丈夫なの?あんた榊先生に期待されてる……ってか氷帝学園文化活動期待の星なんだから」
「まあ頑張るけど」

そもそも私はコンクールがあんまり好きじゃない。
楽しく弾ければそれでいい。私の大好きで尊敬するエリック・サティは権威を嫌って庶民に寄り添う立場にいた。さりげない音楽。

「そんなさりげない存在に私はなりたい」
「さりげない存在……とは程遠いわね」
「さりげない存在なら兄貴と喧嘩せずに練習できるんだろうけど絶対無理だな!」

……友人とがっくんの言葉にさりげなく傷付いた。
ちょうど食べ終わったガリガリくんを見ると、ハズレの文字がある。

アイスを食べたせいだろうか、少しぞくりと背筋が寒くなった。


ーーそんな4日前のことを思い出しつつ、私はおばあちゃんの家の近くを流れる小川に沿って散歩をしていた。
戻るつもりは毛程もない。

理由は兄貴との喧嘩。

いつもは諌めてくれるお姉ちゃんも今日は車で出かけている。おばあちゃんとおじいちゃんは朝から元気よく芝刈りと川で洗濯……嘘、二人とも友達の家にお茶しに行った。そこで、兄貴とは穏便にジャンケンでの勝負が決行されたが私は負けた。

負けて家に帰れず行く先も歩く。

ーー今頃、兄貴はスイカに塩かけて食べてるよ。
ーー邪道、絶許。

さまよい小さな橋を渡っていると、何にもなく畑や水田だらけで視界を遮るものがないから尚更、人がこっちに来てるのが見えた。

「んー?誰だろ?」

この辺の人は知っているが彼は見慣れない。彼からはカランコロンと弾む音が聞こえるが重そうな鉄が弾けるようでもある。

……なんかデカくね?
それに……。

おばあちゃんの家の近くだからそうさせてるのか、はたまた彼からしているカランコロンという音がそうさせてるのか、何だか懐かしさがこみ上げる。

それが一体何なのか分かるまで時間はかからなかった。


2016/9/9修正

合宿編?入ります。
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