「さっき別れたのに早速合流かーい」
「謙也……お前邪魔するなんていい度胸やないか」
「誰もお前らみたいなバカップルの邪魔なんかしとうないわ!」
「誰がバカップルだって?え?髪の毛針するぞ?ん?」
「みょうじすまんかった!」
ほんの10分程前に白石くんと謙也くんと別れたばかりだというに、2人と早速映画館内で合流してしまった。
「謙也くんNの8?」
「おん」
「じゃあ私の隣だ」
「何やて!?謙也、席変わり!」
「急になんやねん白石?」
「俺はなまえちゃんの隣がええねん」
「ふっざけんな!女子とイチャつこうってか!聖書ともあろう漢がいつからそんな俗物に成り下がったんや」
「うるさい喧嘩すんな上映始まるからもう座れよ」
こっわ……という忍足くんの失礼な一言が聞こえてきたが、今回は見逃してやる。
謙也くんはやや頬を引きつらせつつ、白石くんは残念そうな顔をして座った。謙也くんビビりすぎで面白い。手に持ったポップコーンがやたら震えていて、今にもこぼれそうだ。そうこうしている内に劇場が暗くなる。
あ、映画泥棒だ!
『だって……!私、貴方はずっとあの子が好きなんだって……』
『バカ……何勘違いしてんだよ。俺はずっとお前のことを』
韓国でも日本でも、恋愛のツボというものは万国共通なのかもしれない。ベッタベタなシーンだが、斜め前の座席の女の子は『きゅん』という音を出しそうな顔をしていた。私にはちょっと分からない。
「……忍足くん映画観たら?」
「なまえちゃん観てるのおもろいで」
「そうなの?キモいよ」
忍足くんのことも理解不能だよ。女子がポップコーンLサイズをひたすら食べてる図が何故面白いというのか。
「みょうじ、侑士はメガネを被った獣やからな……気を付けたがええで」
「そんな気はしていたがやっぱそういう奴なの?」
「せやで。見境ないで。まあみょうじは……大丈夫やな」
「謙也くんさ、徐々に私を女子と認識しなくなってきたよね?」
さっき軽いキスシーンで顔を真っ赤にしてたクセに謙也くんは私のことなど女子とすら思わなくなってきたようだ。そんな謙也くんは何やら神妙な面持ちで、ギリギリ聞こえるくらいのか細い声で私に質問を飛ばした。
「なぁ……みょうじは侑士のこと好きなん?」
「は?」
突然何言い出すのヘタレ?
ここでそんなのこと聞いてどうするの?
「ええこと聞くな謙也」
「ほらみろ本人がいるんだぞ」
忍足くんあのモスキート音レベルの声聞こえたのかよ。大体こんなの、映画館で話すことじゃなかろうに。
最後列の端付近で、周りの観客はみんなスクリーンに注目してるのが不幸中の幸いか。
「俺となまえちゃんの仲が気になるん?」
「いや、侑士はみょうじがお気に入りみたいやけど、みょうじはどうなんか思っただけや」
「ははっ……ちょっとキモエロい人かな」
「俺は友人ですらないんか……」
「キモエロい自覚はあるみたいね」
予想以上に忍足くんが落ち込みだしたので申し訳なくなって、キャラメルポップコーンを勧めたところ、ジュースの方が良いとか言い出しやがった。忍足くんの奢りだから、逆らえないんだけどね。
「いや、忍足くんは良い友達だけどさ。そういうんじゃないからね。
映画みたいに運命的!奇跡的!みたいに短時間で結ばれるのもあるけどやっぱりそういうのはお互いをよく知ってからが定石でしょうよ」
『愛してる……!』という女優の迫真のセリフが館内に響いている。
「でも私も一応女の子だし、この映画みたいに運命的な恋をいつかしてみたいとは思うよ」
忍足くんの件納得した?と謙也くんに聞くと、なんだか言葉を詰まらせている。顔が赤いみたいだけど。もしかして人の話聞くフリして映画のセリフ聞いてたのか?
自分から話振っといて人の言葉を聞かないなんて良い度胸じゃないか。
文句を言ってやろうかと思ったら謙也くんはロボットみたいに振り向いて隣の白石くんを見た。
「や……やってさ、白石」
「アホ!お前こないなとこで聞いてどないするねん!」
イッツァジャパニーズ・ドツキマンザイ……!白石くんの右手が華麗に謙也くんの頭にヒットした。……そういえば白石くん右手に包帯してるけど厨ニなの?
「せやかて白石気になる言うとったやろ!」
「お前の気遣いは斜め45°上や!気遣うなら最初に席変わるべきやったやろ!しかもお前…あの最後は何なんや!」
ヒソヒソ声が徐々にクレッシェンドをかけている。流石に誤魔化しきれないぞ。
「忍足くん、どうしよ……あれ?忍足くーん」
忍足くんに助けを求めると忍足くんは…何だろうこれは。何とも言えない表情をしている。
がっくんが忍足くんは心を閉ざすことができるとか言ってたけどそれなのか?
「……忍足くん心閉じてるの?」
「なまえちゃん、ええか。心を閉じて二人をシャットアウトするんや」
つまりは他人のフリをしろってことか。
「女子に見えん言うといて最後なまえちゃんが女子やって思い知って返り討ちか!」
「女子に見えんときのみょうじ見て意識し始める白石よりマシやわ!」
『どこか……遠い所に行こうか。二人だけの世界に……』
『うん。私、貴方となら……どこへでも行けるわ』
「……」
「……」
……これ心閉じるより映画見る方が良くない?
2016/9/9修正
ヘタレでアホな謙也と恋愛になるとしくじる白石かわいいよねというだけ。
奇行種といえど女子です。
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