「ふぅーん。忍足くんの従兄弟なのか。
あんまし似てないっていうか……うん、全然似てないね」
「ちょっと髪型は鬼太郎みたいやけどお前の彼女よう見たらちょっと可愛いやんけ羨ましい!お前この子と何しようとしてたんや!?」
「女子に向かって鬼太郎とか何なの?よくみてもちょっとしか可愛くないとかなんなの?」
「今話題の韓国映画観てデートや」
「忍足くんもデートとか嘘吐いてるの何なの?」

私をイラつかせるということはやはり忍足一族の者ども。まあ忍足くんの従兄弟の方は忍足くんと違って普通の男子中学生って雰囲気を醸しているのは好印象だ。忍足くんとか正直20代といっても差し支えないんじゃなかろうか。

「なまえちゃん、謙也がすまんな」
「ほんとだよ忍足一族ってなんで私と反発する人間が多いのかねぇ……ねぇお連れさん」
「せ……せやな。俺まだ君のことそんな知らへんねんけど」
「白石が反応に困っとるやろ」
「おい侑士!無視すな!」

忍足くん2号(仮称)はまくし立てるように喋る喋る。彼には口を閉じることができないのだろう。寧ろ窒息死してしまいそうな印象。

「それで、忍足くんの彼女さんのお名前は?」

忍足くん2号のお連れで大変爽やかなイケメンから名前を聞かれる。忍足くんとか跡部くんとか最近なぜか自分の周りにイケメンがあまりいい意味でなく寄ってくるから警戒しちゃう。彼も相当なイケメンだ。さっき女の子たちが騒いでたし。

「彼女なんて大いなる誤解だから。あ、私みょうじなまえだよ。一応忍足くんの同級生なんだ。……残念なことに」
「やっぱちゃうんやな。俺は白石蔵ノ介や。よろしゅう」
「白石くんね、よろしく」

……名前を覚える努力はしよう。

「何ええ雰囲気になっとんじゃ!」
「忍足くん2号はずっとアクセル全開だね。今白石くんに言った通り、私なまえっていうの。よろしく」
「!……お、おう」

よろしゅう……という挨拶は最後に霧散した。忍足くん2号の視線は忙しなく泳いでいる。おい、今までの勢いはどうした。

「なんか勢いなくしたんだけど……このまま失速すると死んじゃったりするの?」
「誰がマグロやねん!」
「おお!復活した。んで、忍足くん2号のお名前なんだったっけ?」
「さっき侑士が紹介したやろ!俺は……」

謙也や……という肝心な部分がまた小さくなって消えていった。一体どうしたというの。

「なまえちゃん……謙也はヘタレなんや」
「そうなの?」
「誰がヘタレや!」
「ヘタレなの?2号くん」
「へ……ヘタレや……!あらへん……」
「ヘタレだ」
「せやろ」

忍足くんと白石くんがうんうんと頷いている。
ヘタレキャラゆえにいじられキャラとか後輩にもいじられてそうなタイプだな。


「ヘタレやない!ちゅーか忍足2号ってなんやねん!俺が侑士に負けてるみたいやんか」
「2号いやなの?じゃあ謙也くんね」
「お、おん」
「ちょい待ちなまえちゃん!謙也だけ名前呼びずるいわぁ……何なら謙也を忍足くんって呼んで、俺を侑士呼びにすればええやろ」
「私の中で忍足くんは忍足くんしかいないしそれでいいでしょ」
「投げやり感無かったらええセリフやったで」
「みょうじ最高やな!侑士……」

脱力する忍足くんを見て謙也くんが嘲笑して、二人は口論になってしまった。謙也くんが吹っかけた割には謙也くんが押されているのを見るとヘタレさが分かるというもの。

「なまえちゃん忍足くんから惚れられとるな」
「友人としてならいいかもね」
「男女間特有の恋はいかんの?」

白石くん……肘ついてる姿は麗しきただのイケメンだけど発言は女子だ。

「だいたいかのゲーテだって恋に20代の恋は幻想で、30代の恋は浮気、そして40代になって本当の恋を知るって言ってるよ。つまり10代の恋は恋の体裁すらしてないのね」
「……なまえちゃんって意外に知的やな」
「なんだと」

白石くんって意外に言うんだね。私だってインテリジェンスな女子よ。ちょっとカッコつけたのは事実だけど

「自分でも言っといてアレだけど、本当は分からないんだ」
「というと?」
「大きくなるにつれて色んなものを失ったり手に入れていくんだよ。それも人によってランダムだから決められない。
自分にとって何か大切なものがある時期に本当の恋をするんだと思ってる」
「……」
「……白石くん、もしかして話聞いてくれてるの?」
「もしかしてもないやろ、当然や」
「……」
「何で泣くん!?」

かつて私の話をこんなにしっかり聞いてくれる人がいただろうか。白石くんに感動して涙が出てきた。
しかも、彼はハンカチを渡してくれた。
なんて完璧な男なんだ。

「なまえちゃん」
「う……ぐす。何ですか白石くん」
「俺達はその時の恋が本当の恋か知ることはできないやろ?ほんなら、どうすればええんかな?」
「あー」

同じこと考えたことがあったなぁ。

「信じることだよ、白石くん」
「信じる……か」
「答えが出ない時の常套句でしかないけどね。まあ神様よりずっと信じやすいと思うよ」
「せやな。なまえちゃんおおきに」
「白石くんは恋でもしてるのかな?」
「そうかもしれへん」

ちょっと微笑む白石くん。
恋する男の子っていいなぁ。
私もぜひ10代にしかないものを持っているうちに恋をしたいものですね……。遠い目になっちゃうな……。

「なんやて白石!」
「せやかて白石!」

ずっと忍足くんと喧嘩していて背景に融け込んでいた謙也くんが口を挟んできた。これにはつい便乗してしまった。

「なまえちゃんのそのノリは何なん?」
「いや、だって謙也くんのノリが服部平次っぽかったから……」
「……それより白石と何か話しとったみたいやけど」
「白石くんと恋バナしてたよ」
「恋バナやて!?」


ちょっとズレてる気もするけど……恋に関することだからあながち間違ってないと思う。



2016/09/09修正
タイトルも変更してます。

白石と謙也遭遇編長くなりますよ。
タリーズ空気にしてごめんね。
[ ]