『なまえちゃん、明日ヒマ?』
『忙しいよ』
『何かあるん?』
『しいていえば家でゴロゴロする用事があるかな』
『それヒマちゃうん?』
『そうともいう』
『じゃあ明日映画でも行かへん?』
『映画?まさかだけど、恋愛映画とか誘ってきそうだよね忍足くん』
『そのまさかやけど』
『えええええー!私はゴジラがいいです』
『ほんまに歪みないな』
『まあ忍足くんがキャラメルコーンを奢ってくれるなら考えてやらなくもない』

忍足くんのことだから他の女子にでもあたるだろうと思っていたらそうでもなかった。冒頭のやり取りを通していつの間にか忍足くんと映画を観に行く約束をしてしまった。

「そのやらかした感溢れる解説はやめてくれへん?」
「だってやらかしたから。まさか忍足くんが他の女子を誘わないとは」
「俺はなまえちゃんがいいねん」
「ふーん。
私、氷帝学園屈指の美脚生徒である御宮先輩の連絡先知ってたのに」
「なんやて!?なまえちゃん何でそれ早よ言わへんの!?それ聞いたら御宮先輩を誘ったで!」

くっそ、忍足くんの掌返しひどいな。少しは友人だから加減した物言いをしてくれないものか。

「冗談やって。そんな顔しとったら可愛い顔が台無しや」
「おうおう。そうですな冗談ですな。御宮先輩ってうちの兄貴の彼女なんだがそうですな、冗談ですな」
「!?」

何…やと…?
という某オサレ漫画みたいな反応をした忍足くんを尻目に列の人の増減を確認する。

「それよりさ、忍足くん。この長蛇の列はなんなの?みんなのゴジラ観に来てるのかな?」
「なまえちゃんゴジラ推しやな。これ、全部今日俺たちが観る映画の席取るために並んでるんやと思うで」
「すごいわー。ゴジラなら分かるけど……恋愛映画にこんなに並ぶなんてさ」
「なまえちゃんかて並んどるやろ」
「そりゃ今日は忍足くんと一緒なんだし」
「デートやし」
「今もたらされたイライラで都市圏を壊滅に追い込める」
「ゴジラ!?」

列には確かに、男女カップルばかりがいる。中には女子グループもいるな。彼女達は談笑しながらイケメン探しをしている。

「あの黒髪のメガネの人かっこいいよね!」

……うわ、忍足くん?
忍足くんを選んだ女の子に「こいつ脚フェチの変態ですよ」と諫言をして差し上げたい。

「でもあの金髪の2人組もかっこいいよ!」
「ちょーイケメン!」

もう一人の女の子が指し示す方には、確かに男2人組がいた。この2人も恋愛映画観るの?あらやだ薄い本が厚くなりますね。

「白石!ほんまに観るんかー?」
「当たり前やろ!今年大注目の韓国映画やで!」
「むさい男二人で観る映画ちゃうやろ!それなら俺はゴジラの方がええ!」
「イグアナに似とるっちゅーだけで選んどるやろ」

おお、ヒヨコみたいな人分かってるな。それ言ってやれ!と心の中で応援してると、突然忍足くんが耳元で「なまえちゃん、俺とデートしとるんやから俺だけ見て」と言ってきた。

……とりあえず並んでいる間は無視を決め込んだ。


「結局2時間半もヒマになっちゃうとは」

最初の上映は既に満席で、次の上映の席しか取れず2時間半の待ちぼうけをくらってしまった。

「でもなまえちゃんと他愛もない2時間半を過ごせると思うとええ気もするな」
「じゃあその代金として君の抹茶アイスを頂こうか」
「自分トリプル奢ってもらってなお俺のを欲しがるん!?」
「私のには抹茶がないから」

何だかんだ忍足君は私に抹茶をくれる所を見ると、変態ながらも女性の扱いはきちんとできる男のようだ。

「アイス食べたらゲーセン行こうよ」
「なまえちゃん、プリクラは映画の後の方がメモリアルな感じが出るで」
「誰が忍足君がくんなんかとプリクラなんて行くのさ」

忍足くんとプリ機の中で2人きりとかぞっとするぜ。私はクレーンゲームしたいんだ。ドーム型のお菓子いっぱいのやつ。

「俺と二人きりで緊張しとるん?」
「いちいち近いのですがそれは。あと悪い意味で緊張している」

乙女ゲームなんてしたことないけど、なんか攻略キャラにいそうだ、こんなやつ。すっげー軽薄で本命以外にはジョーク混じりにモーションかけてくるやつ。あれ、モブ女子が本気にしろそうでないにしろ、本命以外のモブ女子可哀想だよね。

「忍足くん。そういうのはね、忍足くんのハート(笑)を射止めた素敵な女性に限定しないとだな……」
「あああああああああ!」

諫言して差し上げようとした所、突然の断末魔に遮られた。何事?と忍足君と叫び声がした方を見ると……なんかどっかで見たことある顔なんだが……ん?ついさっき見たっけ?
見覚えのある同い年くらいであろう男子が忍足くんを指差してワナワナと震えていた。その隣にいる男の子は一方で苦笑いしている。

「ゆ、侑士が女子とイチャついとる!」
「謙也?こんなとこで何しとるんや」
「それは俺のセリフっちゅー話や!公衆の面前でいちゃつきおって!」

そうだそうだ。さっき映画のときに並んでいた人だ。お連れの人もいたわ。まあ、それもいいんだけども。

「俺かて!俺かて彼女が欲しいんや!」
「なんか勘違いしてるみたいだけど違うからね。それより……」
「ああ、なまえちゃんを置いてけぼりにしてしまったみたいやな。こいつ俺の従兄弟やねん」
「ふうーん。
それで侑士って誰だったっけ?」
「え、そっち!?しかも、本気!?」


……その後、
流石に忍足くんには悪いことしたと反省した。



2016/9/7修正

期間が空いてしまった…!
しかも白石空気や…!


9/7追記
この年ギャレゴジだったと懐かしく思います。いやーシンゴジラ良かったです。3回行きました。

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