「おいなまえ、チーズケーキ買えなかったってどういうことだよ。共同出資してやったろ」
「500円しか出してないくせに!共同出資(笑)じゃん!」
「うるせえ!俺は今ムシャクシャしてんだ。これ以上気分を逆撫でするようなマネすんじゃねえ」
「こっちだってこの一週間とか今日とか色々あってムシャクシャしてるの!
でもチーズケーキ買えなかったお詫びに駅前のモンブラン買ってきたよ」

「……気が利くじゃねーか」


帰ってくると部屋には亜久津仁ことあっくんが私のニョロゾぬいぐるみの上に堂々と座っていた。ニョロゾからは『ぐえ……』という潰れた声が聞こえそう。

ニョロゾが可哀想なので「ニョロゾからどかないとモンブランやらんぞ」と脅しを掛けると、舌打ちしながらもあっくんはどいてくれた。モンブランが本当に好きなヤンキーである。

「兄ちゃんの分買ってないから見つかるとどやされるし、ここで食べよう。飲み物とか持ってくる」
「途中で落としたら承知しねーぞ」
「するわけがなかろう」
「この前俺の顔面にピザ叩きつけたのはどこのどいつだ」
「もう一週間前の話だしわざとじゃないもん」

元々、あっくんのお母さんである優紀ちゃんと私のお母さんが仲良し故に現在に至る。私自身は熊本出身なのだが、東京に行った時はあっくんの家に遊びに行ったし、逆もまたしかりだった。一緒に旅行とかも行ったなぁ。

そんなあっくんは、よくうちの家に泊まりに来る。私の両親はよく家にいないから、説教されることもなく、優紀ちゃんにチクられることもないからだ。

「あっくん今日も泊まるの?」
「悪いか」
「女の子の所に泊まるなんて……いやん!」
「お前が女とか……気持ち悪いこと言うんじゃねーよ」
「そのマジのトーンやめてよ……もう私のメンタルはボロボロなんだからさ」

あっくんにお茶とフォークを出してやって、私もあっくんの前に座る。

「ねえ聞いてよ……アドレスで揉めて学校中の好奇の目に晒されるわチーズケーキは買えないわ公民館でタイプのイケメンを見つけても話しかけられないわ」
「……」
「謎の言葉を発し逃げちゃうわ連絡先は聞けないわ子どもたちは可愛いけどからかわれるわ…なかなか疲れる一週間だったよ」
「……」
「あっくん、何でもいいから反応してよ?」
「てめーの分、食わねえなら食っちまうぞ」

そんな反応は求めとらん!

急いでお皿を取りモンブランを食べる。
そういえばここのお店には、あっくんが単車に乗せて連れてってくれた時が初めてだったなぁ。……単車に乗ってる時は本当にハラハラしてて私もワルになった気分だったから、このモンブラン食べた時現実に引き戻された気した。あっくんも外見はアレだが、只のモンブラン好きな少年なのだ。でももうバイクは絶対乗らない。

「あっくんってさ、本当は純真なモンブラン少年だよね」
「気持ち悪い表現だな」
「驚邏大四凶殺とか大威震八連制覇とかに参加するタイプじゃないもんね」
「……てめー、俺を何だと思ってるんだ」
「あ、ごめんごめん。あっくんは暗黒武術会の方か」
「もう黙れ!それ以上言ったらそのモンブラン食っちまうぞ!」

いつもなら『殴っちまうぞ』の所が『モンブラン食っちまうぞ』になっとる。ちとからかい過ぎたと思ったら……モンブランが出るなんて余裕だな。

てか、モンブランに心奪われすぎじゃね?思春期の男女が一つ屋根の下なのにさ。あ……あっくんは年中反抗期か……。


「あ!今日はドラえもんのDVD観るからチャンネル権渡さないからね!先週みたいにF1観るのだめだかんね!」
「別に見ねーよ。ったく、てめーは相変わらずガキっぽいな」
「だからあっくんも一緒にラティオスラティアスの映画観ようぜ」
「すりかわってんじゃねえか」
「え?じゃあ幽白の映画観る?」
「なまえ……悪意を隠さない奴だな」
「兄ちゃーん幽白のDVDBOXかしてよー」
「観ないっつってんだろ!」

この後あっくんがラティ兄妹の映画観て切なそうな顔するのが目に浮かぶなぁ。
本当、かわいい良心系ヤンキーなんだから!

2016/9/7修正
こういうどうでもいい回を書きたかった
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