仮眠室に慌てて帰った藤田。
冷静になれば、先程見た怪人も、ただの見間違いに違いないと思えた。
しかし、その時だ。かすかに……ドスン、ドスンという音が聞こえてきたのは。

宿直室のドアを少しだけ開けて確認すると、音はどうやら家庭科室の方から聞こえる。
懐中電灯を汗ばむ手で握りしめ……


「日吉!何かさっきまでの3つと違って何か気合入ってね!?」
「これともう一つが七不思議らしいというか……まあ怪談らしくできる話ですからね。とりあえず続けさせてもらいます」


懐中電灯を汗ばむ手で握りしめた藤田は、重たい足取りで、家庭科室へと向かっていく。ドスンドスン、という音がより鮮明に聞こえる。

ヒュッという、明らかに鋭いものが宙を切り裂く音が、重たく突き刺さる音の合間を縫って聞こえてくる。そうして、恐怖心が膨らむばかりの中で、とうとう家庭科室の前へと着いてしまった。

……幽霊なわけがない。
きっと学校に侵入した不届者だ。

藤田が懐中電灯を家庭科室に向けた時。

背筋が凍りつくような甲高い断末魔が響いた。

気付いた時には、懐中電灯を手放し、藤田は無我夢中で家庭科室から走り去った……。


「うお……それが、家庭科室に現れる殺人鬼ってわけか……」

「何それ怖いC」

「うわ!ジローいつの間に起きたんだよ!くそくそ!びびらせんな!」

「そして、5つ目……」

我に返った藤田は、自分が随分と校舎の隅に来ていたことに気付いた。宿直室からかなりの距離がある。自分を落ち着かせながら、今日は何か理由を付けて帰ってしまおうと再び足を進めた。

懐中電灯もなく、ビクビクしながら辺りを伺い、進んでいく。

だが、その足は再び止まることになる。

「何何何何?」
「ジロー……お前の方がやばいぞ」
「何が4つ並ぶと呪いの呪文みたいやな」
「……皆さん、続けさせてもらいますよ」


目の前に、女子生徒がいるではないか。
こんな時間に、一体ここで、何をしている?

その生徒は俯いて小刻みに震えている。

藤田が近づいた瞬間、女子生徒は顔を上げた。
彼が逃げ出すのにそう時間はかからなかった。

なぜなら……その女子生徒は、一つ目だったからだ。


「……という所ですね。最後の6つ目は調べるまでもなく完全に悪ふざけですよ、ネット上で有名なフリーゲームが由来です。7つ目は常套句ですね」

「結構怖いなぁ……。岳人、顔が険しゅうなってんで」
「くそくそ!余計なお世話だっつの!」
「でも、一つ目って…妖怪ですね。そんなのいるのかな?」
「怪談らしくできるのはこの2つだけ、っていうのは何でだよ?」
「真実は違うからです。
…あの日、ある生徒が学校に残っていたらしいんです」
「ある生徒?」
「その人に接触して確認しましたよ。どうやら、本当に学校にいたみたいですね」
「何で学校なんかにおったん?」
「多分七不思議より信じがたい話になりますが…次の日の数学のテストに遅刻したくなくて学校に泊まったんだそうですよ。

その人が暇だから会議室でドラえもんを見てたり、
放課後落としたメモ帳を偶然拾われたり、
教室でペットのハヤブサと戯れてカーテンが巻き上がったところを見られたり、
家庭科室でハヤブサに餌付けしようと肉を切ってるところを見られたり、
最終的に廊下でばったり数学教師に会ったら突然逃げられたりしたそうですよ。常に前髪で片目が隠れてるので一つ目に見られたらしいです。
本当、変わってるんですよね。その先輩」


「みょうじじゃねーの」
「みょうじ……さん…です……」
「みょうじだ」
「なまえちゃんだ」
「なまえさんですね」
「なまえじゃん!」
「なまえちゃんやないか」

「!?……皆さんみょうじさんと知り合いなんですか?」




「っくしゅ!……誰か私の噂話してるのかな」

氷帝学園七不思議。
ひとりでに映像を写す会議室のテレビ。
図書館に落ちている呪いの本。
教室に突然現れる怪人。
家庭科室で包丁を振り回す殺人鬼。
夜の廊下を彷徨う一つ目の生徒。
夜の音楽室でピアノを弾くブルーベリー色をした全裸の巨人。


「なんか、いつも思うんだけど、君はブルーベリー色で全裸って……人間じゃないよね」
「……」
「ま、いっか。次D.Cで戻ったとこからやろう!」


そして七つ目を知った者は
異世界に吸い込まれ、
二度と戻って来れなくなる。

Welcom to her world!


2016.09.06修正

やっと終わった!
実は私の中でまだ序章みたいな感じだったんです。最後のがやりたかっただけで引き伸ばしました笑
読みにくくてすみません。
次から本編らしくなります。

そして、青鬼映画化おめでとうございます。

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