氷帝学園のような学校にも七不思議というものが存在する。

「氷帝学園七不思議……」

ごくり、と唾をゆっくり飲み込む。

「ひとりでに映像を写す会議室のテレビ……」
「図書館に落ちている呪いの本……」
「教室に突然現れる怪人……」
「家庭科室で包丁を振り回す殺人鬼……」
「夜の廊下を彷徨う一つ目の生徒……」
「夜の音楽室でピアノを弾くブルーベリー色をした全裸の巨人……」
「そして七つ目の秘密を知った者は異世界へ吸い込まれて二度と戻っては来れない……やろ?」
「うわ!?侑士!驚かすなよな!」

「……ったく、何してんだお前ら」

「跡部知らねーの?氷帝学園七不思議だC」

真剣に話してたようで、そうでもないのがジローである。ケロリと跡部にそう返すと、自分はまた輪の中に戻ってしまった。

向日、宍戸、ジローはたまた乱入した忍足はどうやら部室で氷帝学園七不思議の話をしていたらしい。跡部だって小耳に挟んだことはある(七不思議という単語を後でグーグ○先生に聞いたのは内緒)。

「でもさー、この七不思議って俺達が中等部に進んでからできたんだよな」
「岳人、それ言うてたな。確か昔は違ったんやな? 」
「そもそも無かったんだよ」

格式高い学校なのだ。教師陣も噂話でも良からぬことが流布するのは嫌なのだろう。しかしながら、現在では歴史は浅いもののすっかり七不思議が定着している。

「ったく、迷信に決まってんだろ。なあ樺地?」
「ウス」
「いや、わかんねーぞ!もしかしたら本当かもしれないぜ!なあジロー……って寝るなよ!」
「すぅー……」

起きろよ!と向日はばしばしとジローを叩くものの、起きる気配はない。

「日吉は七不思議のこと何か知ってる?」

宍戸が気になるといえば鳳が気にならないはずもなくて、鳳は隣で着替えていた日吉に話を振った。

「……」
「……なんか聞かない方が良かった?」

……あからさまに嫌そうな顔をされてしまった。

「そうだな、日吉は知ってるんじゃないか?」
「まあ……知らないわけではないですが。信じるも信じないも先輩方次第ですよ」

意味ありげな微笑を浮かべて、日吉は話し始めた……氷帝学園七不思議を。



「そもそも、氷帝学園七不思議を噂しはじめたのは教師だったんです。跡部さん達がまだ1年生の頃は確か宿直制が残っていたらしいですね……向日さん、それ俺のドリンクです」
「ごめんごめん」
「しっかりして下さいよ…。。。脱線してしまいましたね、すみません。それで、俺はその教師を突き止めて聞き出したんです」
「誰だったんだ?」

「数学の藤田先生です」

「藤田……(みょうじを思い出すな……あいつまた呼び出し食らって補習してそうだな。ったく、後で生徒会室覗くか)」
「藤田か(今日もみょうじは呼び出しくらってたな……また補習だろうな)」

「当初残っていた藤田先生が見たのが七不思議なんです。厳密には5つですけど」


宿直で学校にいた藤田先生は、
まず会議室で勝手についていたテレビを見つけた。
テレビには衛星放送のチャンネルでドラえもんが再放送されていた。
何故、テレビが付いていたのか?
そして何故、ドラえもんだったのか?
少なくとも暗闇の中で映されるドラえもんは異様な雰囲気を漂わせていた。


「何でドラえもんやねん」
「ドラえもん……(みょうじのやつ、今頃生徒会室でドラえもんのDVDとか見てそうだな)」
「ドラえもんか(みょうじのやつにドラえもんのDVD返すの忘れてたな。ジローに又貸しする前に返せって言われてたのに)」


それから、図書館へ見回りに行った藤田はあるノートがカウンター前に落ちているのを見つけた。しかし、ノートには謎の文言がずらりと並んでいる。
「死」「苦」「生」というぞわりとする言葉から「カルピス」「LEDライト」「塩飴」など日常的に目にするものまで。
しかし、ざっと目を通して一番多かったのは、音楽用語だった。

「まるで黒歴史ノートだな」
「ちょっと拍子抜けしちゃいますね」
「塩飴……(みょうじのやつ、今日も塩飴を生徒会室に『献上品』って貼り紙して置いていきそうだな)」
「塩飴か(みょうじのやつ、最近無駄に塩飴持ってきてるよな、全部食ってんのか?)」


気味が悪いと思った藤田はノートをカウンターに置いて、仮眠室に戻ろうとある教室の前を通ったが、そこからバサバサという音が聞こえた。
見てみると、そこにいるのはマントを靡かせた何か……まさしく怪人の様子を呈していた。

「お、何だか七不思議っぽくなってきたな!」

向日が興奮した声を上げると、日吉はにやりと笑う。

「ここからですね」



2014.07.09修正

また切りました。
誰かの視点じゃないとダメですね。
ホラーってどんな語り口がいいんですかね?ホラーゲームはめっちゃやるクセに怪談や映画は怖くてたまらないです。
日吉くん出せて良かった。

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