そう、昨日の夜にコーチの皆さんに挨拶して廻っているときに、めっちゃ背が高いメンタリストにこんなことを言われた。

「なまえちゃん、君のお友達もたくさんいることだし明日は彼らに是非挨拶していってよ〜」
「え〜向こうが来て欲しい」
「えらく大きく出たましたね〜。僕としては君から出向いて彼らのことを振り回して欲しいな」
「どういうことですか?ダイゴさん」
「うん、僕斎藤だからね」

私になぜか牛乳を寄越したメンタリスト。身長だけなら私の目標170cmを優に越えている。それでも私の友達の方が大きいけど……牛乳は当てつけか!?

「というか氷帝と言わずに、ここの選手にじゃんじゃん絡んで行ってよ」
「はぁ……」
「なまえちゃんは、いわばボクが選手たちに送り込む最終兵器!リーサルウェポン!選手たちのメンタルを引っ掻き回して強くしてください」
「要は自分が面白いだけかい」

困るのはこの人と何らかのシンパシーを感じていることだ。
そして今、私はそのシンパシーに甘んじて、自分の欲望に忠実に、みんなにドッキリを仕掛けている。


「さてこれからどうするか……」

たまたま見つけただけのタリーズや、あっくんとスケキヨくんにドッキリを仕掛けた。行き当たりばったりなせいか、最初は成功したけど二回目は成功しなかった。まあサトシくんも最初と二つめのジムはよく失敗するから大丈夫だ。

さて次の獲物は誰だ。

観葉植物の影に隠れて次の獲物を探していると、突然肩をポンポンと叩かれた。

「やっと見つけたで」
「!?」
「君がみょうじ先生の妹やって?斎藤コーチが言うとったわ」
「……誰」
「えっ、警戒しすぎちゃう?」

私の頭の中のシグナルが、猛烈な勢いで警告を発している。違和感ある関西弁が更に胡散臭さを演出している。
こういう人に会ったら、すぐに逃げ出せるほどの距離をとるのが大事だ。最近の私は慣れて反射的にそれができるようになってきた。

「俺は種ヶ島修二や。よろしゅう」 

名乗られたらこっちまで名乗らないとならなくなるではないか。

「カテジナ・ルースです」
「偽名のチョイスどうなっとんの?」
「冬が来ると、訳もなく悲しくなりません?」
「いや、モノマネうまいけど!ほんまの名前は?」
「チッ……なまえです」
「何か姉ちゃんとは全然違うな……」

色黒で割とイケメンなこの人。この合宿所にいる大半は高校生だと聞いているけど、この人は高校生かな。その彼はなぜか私の隣に座った。おい、まさかここに居座るつもりなのか!?

「なまえちゃんね。さっき見とったで。イタズラするところ。二回目は残念やったなぁ」
「余計なお世話ですよ」
「それでさ、なまえちゃん」

そういえばこの人名前なんて言ってたっけ?島?島だったような。ポルトガル人が1543年に鉄砲持ってきたような感じの。

「俺もイタズラに入れてや」
「藪から棒に……3万円です」
「会費取んの!?しかも高っ!?」
「今なら50パーセント割増しでお値段何とたったの4万5千円!4万5千円です!」
「集客する気ないな!?」
「またお振り込みの際の手数料はお客様のご負担となりますのでご了承ください。宇宙センター様」                  
「とことん俺もちかい……って宇宙センターってまさか俺のこと!?」

宇宙センターさんは自分の名前に不服そうだ。自分の名前なのに不満っていうのも、かわいそうな人だ。手数料くらいは私が負担してあげるか。

「まあええわ……俺はなまえちゃんと仲良くしたいだけやねん」
「5万円」
「高騰しとるね!?俺一応なまえちゃんより年上やで!?」
「やっぱ高校生なんですか?」
「せや。高3」
「と、年相応だ!」

珍しく私の周りでは年相応といえる見た目をしている。そう思うと、私の周りの男性陣は、
7割くらいが中学生とは思えん見た目してるよなあ。

「そっか、そうなんだ……ふぅん」
「感慨に耽りながら距離取るのやめて欲しいなぁ」
「か、体が勝手に距離を!」
「そろそろ俺泣くわ」

この人、泣きそうなフリしてるだけだ。結構食えない奴だと、私のゴーストが囁いている。この合宿所で穏やかに生き抜く為には、こういうタイプとはあまり仲良くしない方が得策だ。

「じゃあ私もう行きますんで」
「ちょい待ちーや。別に諦めたわけやないで」
「5万円」
「それは流石に無理」
「金の切れ目が縁の切れ目ってご存知?」
「その縁はまだ始まってもおらんよな〜。でもなまえちゃん、この縁始めんと後悔するで」

宇宙センターさんがまるでTVショッピングのような口振りで話す。罠だとは分かっている。私を懐柔しようと餌をちらつかせているのは分かっている、分かってはいるんだ……!でも聞きたい!

「何のこと?」
「聞きたい?」
「さっさと言わないと着払いで請求書送りますわよ!時堯くん!」
「うーん、誰かなそれは?」

私は自分が思っている以上に堪え性がない女だ。好奇心には勝てなかったよ……。



「ひゃほーい!ナインボットワンすごーい!」
「なまえちゃんセグウェイよりそっちがお気に入りみたいやねー」

宇宙センターくんの言う後悔とは、電動一輪車だった。

これが日本で体験できるとは……!私と併走する宇宙センターくんは、セグウェイに乗っている。すれ違う人たちが自分のドリンクやらタオルやらその他荷物を隠したり守ったりするところから見ると、多分この男はひったくり常習犯だ。

「これがあれば悪戯もはかどるやろ?」
「そうだね火縄銃くん」
「うん、ほんまは俺の名前覚えとるんやろ?」

忘れたい人ほど忘れられないのは恋愛と同じだね。
すると急に種ヶ……ではなく火縄銃くんのセグウェイが止まった。私もつられてナインボットから降りる。

「あ、なまえちゃん!ターゲットおったわ。あれは強敵やで」
「どれどれ……!?」

時堯くんの指す9時方向。
まあまあな人数がいる中で私はその方向にある人がいることをはっきり捉えた。
私の見間違いでなければ、あれは。

「種ヶ島くん」
「お、ようやっと名前を呼んでくれた」
「チェンジで」
「ちょ、めっちゃ失礼やで!」

私は腕をクロスさせて必死にバツを訴える。ダメだ、やってはならない。あのお方に悪戯行為を働くなど、天罰として空から槍が降ってくるに違いない。そうなったらおしまいだ。

「いくらタイプやないからってその発言はあかんて」
「もうタイプもいいところだよ!ドストライクだよ!それもあるけどとにかく国光くんはダメなんだってば!」

あろうことか指差した先にいたのは国光くん。

国光くんにはパリに行く決心をするきっかけも作ってもらったし、本当にお世話になった。そんな人にちょっかいを出すなんて!槍どころじゃなくてムスカも納得のラピュタの雷案件である。
そんなことはつゆも知らない種ヶ島くんはからかうばかりだ。呑気な奴め!

「へ〜なるほど。なまえちゃんはああいうのがタイプなんやな」
「そうだよ!年上っぽい大人な男が好きなの!メガネだとなお良し!じゃっ!」

逃げようとしたところ、首根っこを種ヶ島くんに掴まれて、そのまま引き寄せられてしまった。意外と力も強くて、身長も高くて良い体格してるわほんとに。

「んー逃がさんで。イタズラしに行こ。ナインボットも持ち逃げはあかん」
「行くなら向こうにいるチビと熱血と居眠り氷帝ボーイズにしやしょうぜ!あとナインボット永久貸借させて!」
「図々しいな……。でもなまえちゃん、ほんまにええの?」
「ひーっ!耳元で囁くな!」

耳元で囁かれて全身の毛が逆立つ。

「ナインボットワンは?」

私は足元のナインボットワンを見て、この話に乗ったことを後悔した。


2017/12/8

高校生割と好きです。
種ヶ島くんはこんなキャラではないと思います(反省)
ナインボットワンはパリに行った際に見て、「う、うおおおなんか近未来感!」と興奮しました。
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