「な、なな何なのアンタたちは!?」
「怪しい者ではない」
「怪しいわ!」

こいつら何者か全く分からないけど20人弱で勝手に家に上がり込み真っ暗なリビングで私を待ち伏せしてたって!?この上で怪しい者でないと!?どう信じろってんだ!

「はっ!?まさか、黒ずくめの……!?」
「黒ずくめ?」
「やめてくださいジン様ー!APTX4869はご勘弁を!せっかくここまですくすく育ったのに!」
「何を勘違いしている。我々は貴女を確保しにきただけだ」

『見た目は子ども、中身も相応!その名もピアニストなまえ!』とまではするつもりはないようだ。この20人弱の不法侵入者のリーダーらしいジン(仮称)は、私を確保すると言っていた。

「大人しく我々に従え」
「知らない人にはついていっちゃいけないって私のばあちゃんが言ってたんで」
「ならば仕方あるまい。強制執行!」
「了解!」
「うぎゃああああむぐぐぐ!」

ジンのかけ声と一緒に部下たちが一斉に向かってきて、多勢に無勢。
あっと言う間に確保されて拘束された上に頭からゴミ袋のようなものを被せられた。
今までの短い人生の中で最大級の命の危機だと分かる。というか死ぬかも。

「むぐぐぐぐ〜!?」
「確保しました!いかがしましょう」
「ただちに帰還する。なお、このゲストは丁重に扱えとの上からのお達しだ」

どの辺が丁重!?

ジンに言い返したかったが猿轡を噛まされているので出てくるのは呻き声だけ。しかも外から見たら黒いビニール製の繭がビチビチ跳ねててさぞ気色悪いことだろう。
私はその繭のままどうやら車に乗せられたらしい。命は惜しいので大人しくしていると、私は座席に繭のまま座らされた。

「本部、みょうじなまえを確保した。至急そちらへ移動する」
「ふがががががが!」
「暴れるな……イテテテテテ!?」

隣の黒ずくめと密着している上にゴミ袋の中が暑すぎる!
暴れるなと言った私の右隣の奴の足を踏んづけてやった。ムシャクシャしてやった。後悔はしていない。

「まだ抵抗するのか……最近の中学生はすごいな」

最近の中学生はこんなもんじゃない。テニスの試合で相手を観客席に吹っ飛ばしたりするぞ。


「到着した」

ジンの声が聞こえて私は再び担ぎ出された。車外に出されると、すぐにゴミ袋から解放されて、拘束からも解放された。

「U17の合宿所に到着し……うぐっ!?」
「ゴミ袋暑かったわ蒸し殺す気かー!」

車内で私は自分が殺されることはないと、足踏みで殺されなかった時点で気付いた私は、一発黒ずくめの顎に頭突きしてやった。あっくんが『喧嘩は顎と鼻を狙え』と言っていた。ヤンキーの教え、今ここに活きています。

「ああ……初秋の夜風が気持ち良い。今なら一句読めそうなくらい染み渡る……」

秋風を全身受けるついでに辺りを見渡すと、何だか周りは自然に溢れた風景だ。でも、私の立っているのは、やたら近代的で綺麗な建物のある、どこかの敷地内だ。
ん?そういえば、今。

「今U17って言った?」
「その通りです」
「……」

ジンがいたはずの場所には、黒ずくめではなく艦長を思い出させる白スーツが立っていた。ただし、白スーツのかっこいいおじさんは茶髪ロン毛だった。

「え、あれ?ジンは?」
「プロのSPなのですが不意打ちに伸びてしまったようで、今運ばれていきました」
「一瞬目を離した隙に!?」
「プロですから」
「プロならしかたない……。
ていうかおじさん誰?」
「私、こういう者です」

白スーツのおじさんは名刺を差し出してきたからぎょっとする。名刺の正しい受け取り方も知らないのに!まだ学生だよ私は!

「私はU17代表戦略コーチの黒部です」
「あ、ありがたく頂戴いたしやす……ってU17!?テニスの!?」
「ええ、そうです。ここはU17選抜選手の合宿所です」

なぜかダムを思い出す名前。
いやいや、そんなことよりも。ここはU17の合宿所って、私はこんな所になぜ拉致されてきたんだ。昼間にタッキーとU17の話したくらいしか覚えはないし、そんなことが拉致されてきた理由になるはずもない。

「わ、私、テニスしてないです。ましてやあんな格闘技みたいなの、三回生まれ変わってもできんよ」
「ええ。よく知っていますよ。もしや自分がここにいる理由をご存知ないのですか?」
「ご存知ないです」
「貴女のお姉様の命令でここに連れて来られたのです」
「お姉様……」
「U17の専属医師、貴女のお姉様です」

うちの姉ちゃん。
仕事で忙しくてなかなか帰ってこられないエリート女医(元男)。そういえば、前に『今どこで働いてんの?』って聞いたら、U17って返ってきた気もする。

「なんか聞き覚えあると思ったら姉ちゃんだったか……」
「ご両親は海外に行かれた上に、学業不振でお兄様は寮暮らしとのことで」
「よくご存知で」
「我々も忙しいですからね。貴女のお姉様もなかなか帰宅できないので、貴女をここに呼び寄せたのですよ」

呼び寄せた割にはやり口が過激すぎませんかね。
私の受けた恐怖をどうやって姉ちゃんに仕返ししてやろうか考えていると、ダムさんが『とりあえずお姉様のところへ』と私を合宿所へ入れてくれた。

「あの突き当たりの部屋が貴女のお姉様のいる医務室です……ところでなまえさん」
「あ、何でしょうか?ダムさん」

医務室に向かってピカピカの廊下を歩いていると、まさかのダムさんの方から話しかけてくれた。

「黒部です」
「はい、ダムさん」
「覚える気はないんですね……しかし、それはそれで結構です。そんなことよりもなまえさん」

医務室の扉を開ける時にダムさんが私に熱視線を送ってきた。一体どうしたんだダムさん!?白スーツロン毛のおじさんだけど、ガチ年上の知的二枚目でもあるからきゅんとしちゃうよ。

「な、何でしょうか」
「ええ……後でサインを頂けないでしょうか」
「えっ」

医務室にいた姉曰わく、ダムさんは私の熱烈なファンなのだそうだ。
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