「それじゃ確認するけど、謙也くんどこに手錠かけてんの」
「……右足首」
「うわぁ」
「ちゃうわ!お前が逃げんように効果的な場所をやな」

謙也くんと離れようとしたけど、手錠で繋がってて離れられないのであった。
やっぱり変態かな?と若くんに聞くと、若くんは謙也くんに冷たい視線を向けた。
その視線に比べたら、いつも私に向けられる冷たい視線はまだ生き物を見るものだと変に安心する。

「そう言ってなまえさんに何するつもりだったんですか?……変態」
「小声で変態言うたよな?そう言う日吉かてしっかりみょうじの手首に手錠つけとるやんけ!」
「手首ですから」

若くんそれはちょっと違うと思うな。

「謙也、何でそんなことになっとんねん……」
「侑士!」
「あっ、本家本元の変態チィースッ!」
「なまえちゃんそれはないんちゃう!?」

やってきたのは先ほど私に手錠をかけたがっくんとそのお供の忍足くんだ。
忍足くんは見るからに呆れているけど、がっくんの方は爆笑しながら写メを撮ってる……だと!?

「がっくんそれSNSにアップするつもりでしょ!?イヤだよ!バカな若者だと思われちゃうじゃん!」
「でもめっちゃ面白いぜ」
「じゃあ謙也くん!せめて足のをこっちに付けなおして!」
「位置の問題ちゃうやろ」
「ええ〜面白いのに」
「全然おもしろくなっ……」

喉から出かけた言葉が引っ込む。
恐る恐る後ろを振り向くとそこには本日二度目の幸村くんであった
『ええ〜面白いのに』からは抑揚が感じられない。けど口元は笑っている。目の方は知らない。想像してください。

「逃げるなんてひどいよ、なまえちゃん」
「こう、ほら……私の動物的本能みたいなのがね、ほら……ね?」
「まあ結局逃げたところでこうして捕まる運命だったんだからいいんだけど」
「何だよ、幸村から逃げてきたのか?」
「ちょっ、がっくん!逃げたとかじゃなくて動物的本能的なやつだって言ってるじゃん!」
「何故そこを素直に認めねーんだよ……」

若くんは何も知らないからそんなこといえるのだ!
だって逃げたとか認めたら幸村くんの冷たい笑顔の温度が更に下がって視線の鋭さが上がるに決まっている!
おそるおそる幸村くんの方を伺うと、幸村くんは私をじっと見つめていた。意外と鋭くないというか、考え込んでいる感じだ。

「……」
「ゆ、幸村くん?」
「左手が空いてるね」

確かに右手は若くんが手錠をかけていて、左手は空いている。その空いている左手に手錠がかけられた。

ていうか幸村くんが流れるように手錠をかけた。

「えっ?ちょっと何で?私分かんない……幸村くんのこと全然分かんない……」

あまりに唐突に手錠をかけてくるから、もともと良い方ではない私の脳の処理が追いつかなくなった。


「だってなまえちゃんをとられたくないし……」
「完全に花見の場所取り感覚やんけ」

花見の場所取り感覚で拘束されても困るわ!
そうこうしているうちに空いてるのは左足のみ。既に身動きは取れない。逃走さえ不可能。

「あとは状況が更に悪くならないことを祈るしかない……」
「残念ですが、向こうから白石さんがやってくるのが見えます」
「迅速なフラグ回収やな。なまえ、お前終わったで」

確かに向こうから駆け足で白石くんがやってくるのが確認できた。


「え?何で?白石くんが私のこと拘束するわけないじゃん」
「奴はどう考えても真っ先にお前を拘束する番付上位やぞ!」
「白石くんぞ?あの白石くんぞ?」
「その白石さんだから拘束されるんですよ」

この場の私以外全員から圧倒的支持を受ける白石くんは私の所に息を切らしながら走ってきた。

「なまえちゃん!」
「白石くん、久しぶり」
「はぁ〜本物や……!」

白石くんはわざわざ座って、私に目線を合わせてくれる。それから両手で顔を覆って天を仰いだ。
白石くんも私のドッペルゲンガーに遭遇したクチなのだろうか?

「ずっと会いたかったで!」

キラキラした笑顔が素敵なイケメンはそう言って私を上から下まで観察した後。

「何か思ってたのと違う再会やけど、これ俺も手錠かけた方がええ?」
「さすが関西人!でもここは便乗しなくていいから!」
「早い者勝ちだよ」
「そうなん?じゃあ俺は左足ね」
「っああああああ!?」

幸村くんがそういうこと言うから白石くんが本気にしてしまった。ガチャンと左足に手錠がはめられて、封印の術式が晴れて完成した。

「幸村くんが煽るから!」
「そうかな?」
「幸村が煽らんでも100%やっとったぞコイツ」
「だってなまえちゃん取られたくないやろ?せやから謙也かて手錠を……」
「お前と一緒にすんなや!」

謙也くん、説得力皆無だからやめたまえ。
にしても、本格的に身動きが取れなくなってしまった。もう逃げられない。まさか四肢をこうして封じられてしまうなんて想定外だ……ていうか公衆の面前で恥ずかしくない?みんなチラチラこっち見てるよ?

「しかし、これ流石に恥ずかしいですよ。まさか、こんなことになろうとは……」
「じゃあ若くんだけでもこれ外して」
「嫌です」

んなキッパリと……。

「絡み合っとるとこ悪いねんけど跡部がなまえを連れて来いゆーとるで」

スマホを持った忍足くんが跡部くんの名前を出した。ぶっちゃけ跡部くんに怒られる方がこの状態よりも遥かにマシである。早く連れて行って欲しい。

「俺に指図するの?」
「俺と跡部くんは対等やで?」

突如幸村くんと白石くんが部長権限を振りかざした。そういえば二人とも部長だったな。二人が権限を行使するほどに、私の自由権は不当に侵害されている気がする。これが世間の縮図。人の世の歪み。

「何かこいつらがすまんな……」
「言うてお前らそんなに手錠かけた所でどないすんねん?花見の場所とちゃうで。分け合えへんやろ」

珍しく誉めたくなるような忍足くんのフォローに白石くんと幸村くんが思案しはじめた。これはいい兆しではないのか?
私は期待して二人を見る。

「そりゃあ……仲良く分け合うのも一つの手かもしれないね」
「ん?」
「ほんまは独り占めしたいけど、複数おるしやむなしやな……」
「んんん!?」

真剣な顔して出てきた答えがそれ!?
分け合うってどういうこと!?
私は慌てて右腕の命運を握る若くんに助けを求めた。

「ねえ…‥分け合うってどういうこと?(物理)ってこと?」
「頼めばちゃんと生かしてもらえますよ。多分」
「やっぱり物理!?物理なの!?」

縋るように言うと、若くんは笑った。それこそ口元は笑っているけど目は笑ってない表情というやつである。

「……さあ?俺だってまだ色々と怒ってますからね?」

私そういうの知ってる。
なんかそういう処刑が江戸時代くらいにあったの知ってる。
このままだと裂かれる。

「うわあああああ!助けて!忍足くん、がっくん助けて!殺される!」


頼みの綱の二人に助けを求める。
が、二人は明らかに私を心配している様子ではなかった。がっくんのみならず忍足くんまでスマホを向けているのが証拠だ。スナッフフィルム撮って楽しいですか!?

「まあなまえちゃんも反省せなあかんやろ?」
「確か。もとはといえばなまえが悪いな!」

あっさり命綱は放された。チクショウ!覚えとけよ!
こうなったら期待はできないけど右足の命運を握る謙也くんだ。

「謙也くんはバラバラにしたりしないよね?」
「俺はどうせ変態やからな」

自業自得、因果応報、四面楚歌―――。

「いいじゃないですか、これで解放されますよ?」
「わ、若くん……?」
「俺たちも満足で一石二鳥やで?なまえちゃん」
「私の意志というものは尊重されないんでしょうか?」
「まあ俺は変態やしな……」
「冒頭のアレは本当にごめんて!」
「じゃあ……分け合っちゃおうかな?」
「ああああああああ!」




「ようやく説教できると思えば……何だこれは……」

なまえを捕まえたものの、連行できる状態ではないと聞いた跡部はとりあえず自らなまえの元に赴いた。久々に見るはずの、そのなまえは白目を剥いて意識を失っていた。

「気絶してるじゃねーの」
「リョナられる思ったんやろ」
「何だそれは?」
「知らん方が幸せやで」

来る途中に怒り心頭だった跡部も流石にこの様子のなまえを見て怒りを収めたらしい。

「おい、反省したか?」
「……」
「それは怒られないための作戦か?」
「……」

なまえはあまりに無反応だった。


「……本当にお前ら何した?さっきのリョナって何だ?それとしっかりしろ!みょうじ」
「跡部くん揺さぶると俺たちにも振動くるんや」
「揺さぶりすぎだよ」
「うるせーな!お前らは何であちこち拘束してんだよ!鬱陶しいぞ!」

なまえの四肢は手錠で拘束されていて煩雑なことこの上ない。
しかし、手錠を配ったのはお前だろ……とその場にいた全員が心の中でつっこんだ。

「おい起きろ!」
「ハッ!?あ、跡部くん……?わ、私生きてる!?」

ようやくなまえは揺り起こされた。なまえは手錠だらけの手足を確認した後、目の前の跡部を見た。
なまえの目がみるみる潤んでいく。これには跡部もぎょっとした。

「跡部く、ん……ごめんなさ……」
「な、泣いてんのか?」
「もうこれから報連相守るって約束するから……なんなら契約書も残すから……」

反省しろ、といってもどちらかといえば『バーカバーカ!』と煽ってくるクソガキタイプに該当するなまえが、反省して泣いている。というか怯えて泣いている。
コイツら一体何したんだと跡部はその場にいた全員に疑いの目を向けた。

「お前ら本当にみょうじに何した?」
「殺さないで……拷問やだ、八つ裂きやだ……ひく、うう……」
「お前ら……」
「ちょっと脅しただけだよ」

五感を奪う男の脅しは、普通の脅しとはわけが違うことは自明である。

「脅しただと?」
「いやいやいやいや冗談やって!こんなに怯えるなんて想定外やったんや!」
「なまえさんはこれくらいしないと反省しないと思ったので……でも、思った以上にダメージが入ってしまったようです。ほら、なまえさん。顔ぐちゃぐちゃですよ」
「ごめんな、なまえちゃん。タオル使うてええで」
「うん、ごめん……でも手動かないんですけど」
「俺が拭いてあげるで」
「おい白石そのタオルどうする気や」
「ずるいよ白石」

白石のタオルは絶対処理するとして、なまえがこんなに反省しているのだ。跡部はもう怒る気力もない。これ以上追い討ちをかけたらかえって自分が悪いことをしているような形になる。

「反省したならもういい。ったく……お前にそんなに泣かれたら調子が狂う。もう泣くな」
「ちょっとだけ怒っとったから冗談言うただけなんや。なまえちゃん、ホンマごめんな?」
「うん、もういいよ……私が悪かった。みんなから怒られるのが怖くて逃げたりして……反省した。もう逃げたりしないから……」

なまえはすっかり消沈している。拘束されているのも相まってますます哀れだった。

「お前ら、これだとみょうじも身動きできないから外してやれ」

手錠の鍵は、あらかじめ手錠と一緒に渡してあった。

「……」
「……」
「……」
「……」

四肢を拘束する四人に向かって言うが、誰一人として反応しない。むしろほとんどが一律に明後日の方向を見てやり過ごそうとしているようだ。その中で幸村だけが涼しい顔をしている。

こいつら、まるで解放する気がない。

「……おい、早くしろ」
「謙也、脚から外さんとな。身動き取りづらいやろ」
「白石、お前も脚やぞ。お前からいけ」
「なまえちゃんの利き足はそっちや」
「んなこと何で知ってんねん!」
「この際、上の二人から取ったらどうや?腕に手錠3つもかけとるやろ?重いやん」
「いえ、やはり脚からだと思います。そのままだと立ち上がることさえできませんから」
「みんな遠慮してるし何か俺も遠慮しないといけない流れだよな?」
「変な流れに乗るのやめてよがっくん!」
「俺は嫌だよ。まだ怒っているし」
「え」

唯一明後日の方向を向かず笑っていた幸村が口を開いた。

「徳川先輩たちの部屋から出てきたことには俺まだ怒っているよ?」
「あ」
「しかも寝起きだったね」
「あ」
「……どこも余ってへんけどもう一回右足いっとく?」
「日吉、そこつめろ。まだあと1つイケるだろ」
「忍足くんも跡部くんもやめてええええ!」


2018/4/4

ナルトは我愛羅が好きです。
更新遅くなり申し訳ありません。
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