「今日は部屋で大人しくしていた方が良い」

朝食のフレンチトーストを食べていた時にカズヤくんに忠告された。
まるで親みたいだと思う。
カズヤくんは、ランニングから帰ってきて私を起こしてくれたり、こうして中学生と鉢合わせしない時間に朝食に連れて行ってくれたり、しかも自分の休憩時間をその時間に合わせたりと世話焼きだ。まだ会って1日も経ってないのに。
それに威圧感は名前の通り将軍並みなのに。将軍見たことないけど。

「何で?」
「俺がついていてやれるのはここまでだからだ」
「私が将軍だったのか」
「何を言っているんだ」
「だってカズヤくんボディーガードみたいなこと言うし」
「今朝あんなことを目撃したら……いや、いい」

カズヤくんは口ごもった。
今朝のあんなことって何だろう。私を心配するような何かがあったんだろうか。

「何かあったの?」
「いや、お前を不安にさせるから話すのはやめておく」
「気になるじゃんよ!教えて教えて!」
「とにかく部屋で大人しくしていてくれ」
「フレンチトーストいる?」
「いらない」
「枕は返したくないから、セグウェイ貸してあげる」
「あれは黒部コーチの私物だ。枕は返せ」

カズヤくんは意地でも言わないつもりだ……つーかあのセグウェイはコーチの私物なんかい!だったらナインボットワンもダムコーチのだな!だったら私が種ヶ島くんと仲良くする必要ないじゃん!

「騙された……種ヶ島許すまじ」
「話すより食べる口を動かせ。食べ終わったら部屋まで戻るぞ」
「……」

カズヤくんはほとんど表情を変えないから、何考えてるのか分からない。でもこう見えてすごく優しいお兄さんなのは分かる。
だからこそちょっと申し訳なくなった。

「ねぇカズヤくん」
「何だ?」
「練習行ってもいいんだよ?」
「休息も立派な練習だ」

確かに茂野吾郎もオネエのコーチにそんなこと言われてた!折り鶴折らされるやつ!私が折り鶴みたいなやつなのね。

「ふーん、何時から練習してたの?」
「5時」
「5時!?私もカズヤくんも昨日寝たの遅かったじゃん」
「俺には倒したい男がいる」

カズヤくんが険しい顔になる。
意志の強い、はっきりした眼差しだった。
どこかで見たことがあるような眼差しが何だか胸をぎゅっと締め付けた。

「その人はここにいるの?」
「いや、今はいない。が、次は勝つ」
「そっかぁ……」
「どうした?」
「何でも……ハッ!?」

改めてフレンチトーストを見て気付いた。
肝心なものが足りてない。

「メープルシロップが足りない!」
「深刻な顔をしていると思ったらそれか」
「死活問題だよ!」
「今朝の出来事の方がよっぽどお前にとって死活問題だ」
「そんなにヤバい出来事なの?」

カズヤくんが目撃した問題とは一体何なのだろう。すごく気になるけど、ナインボットワンにも釣られないのだから多分聞き出せそうもない。物で釣ろうにも先程失敗したし。もう少しカズヤくんのことを知らないと作戦は練ることができないと悟った。

「まあ、理由は聞けなかったけど、もともと部屋で大人しくするつもりだったし……」
「そうしてくれ」
「みんな練習で出払ってるだろうし、自分の部屋にピアノを練習しに行っちゃダメかな?」
「ピアノが弾けるのか」
「あー!ほらそんな顔する!」

最近ピアノが弾けますと言うと『嘘だろ』『信じられない』『似合わない』みたいな顔をされることが
多い。今更傷つきもしないけどカズヤくんにされるのは傷ついたぞ!

「しかし、それでは自分の位置を知らせるようなものだろう」
「じゃあ読譜でもしてる」
「それでいい」
「それと一人で○○しないと出られない部屋ごっこするのはよろしいでしょうか将軍」
「本当は幼稚園児じゃないのか?それとちゃんと勉強もしろ」
「夏休みに入ってすぐのお母さんか!」

あっ、カズヤくんが私に優しいのは私が子ど
もっぽすぎるからか
何か悲しいような、でもカズヤくん良い人だなとそんな複雑な気持ちになってしまった。



「結局部屋まで送ってくれた……」
「大人しくしていろ」
「分かったよ」
「昼時には迎えに行く」
「過保護すぎません?」

カズヤくんは結局部屋まで送ってくれた上に昼食には迎えに来るとまで言った。この人良い人すぎない?チョタくんレベルだ。

「待っていろ」
「うん、待ってる」
「絶対だぞ。部屋から出るな」
「マジで朝から何があったんだ……」

カズヤくんを送り出して部屋のドアを閉める。
もうアニキも入江さんも出払っていて、残るはおハムのかえでちゃん。
おハムの生態でかえでちゃんは爆睡である。
シーンとした部屋で、私は思った。

「やばい、血祭りにされておくべきだったかもしれない……」

……部屋はひとりで暇だ。ピアノは弾けないし、やっぱり昨日血祭りにされておくべきだったと後悔しても遅い。

「まあ休憩も練習のうちだと思って二度寝しよう……」

カズヤくんの枕の安眠効果はなかなかのものである。私はそのままベッドにダイブして眠りについた。



「頭痛い……」

起きたら12時。
ちょっと寝るつもりだったのにもうこんな時間とは。まあ昨日の夜寝れなかったもんなあ……にしてもこれではただの自堕落だ。

覚束ない足取りで何とか洗面所に辿り着いて、顔を洗ってタオルで顔を拭きながら部屋に戻る。
もうお昼時だから……そういえばカズヤくんが迎えにくるって言ってたっけ。

「迎えにくるんだっけ……」
「へえ、誰が?」
「誰がってカズヤくんが……」

……ん?

「カズヤくんって、誰のことかな?高校生?」

……振り向くのをためらうほど背後から冷たい視線を感じる。
ていうかいつから背後を捕られたんだこれ。
ていうか耳元で囁かれてるから至近距離だこれ。
ていうか展開早すぎませんかねこれ。

「でも、先に挨拶しないといけないね。
久しぶりなまえちゃん」
「えへへ久しぶり幸村くん……」

部屋から出るなと言っていたカズヤくんのことを思い出してももう遅い。


2018/2/28
更新する前にテニラビのポイントガチャ引いたらSR幸村くん来ました。ちょっと怖い気もするけどわーい!
立海勢はSRとクリスマスの時の赤也くんしかいないのですが、ほとんどがポイントガチャで出てきてくれていて感動です。お財布に優しい立海。
ただし柳蓮二さんは未だ出てきていません。
蘇るパズテニの悪夢(どんなに頑張ってもノーマル柳蓮二さえドロップしなかった)。

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