「な、なんだってー!?」
「なまえが浮気!?」
「興味深いな」
「手塚は『何か事情があるんだろう』って普通にしてたけど……」
「えええ!?『俺は妻を信じてるから』みたいな感じ!?手塚健気すぎだよ!」
「と、とにかくなまえに電話してみよう!?」

なまえちゃんの幼なじみのタカさんがすぐさま電話をかけ始める。
何が何でもなまえちゃんを手塚へと続くヴァージンロードへ軌道修正しなければならない。そのヴァージンロードの先には友人代表スピーチが待っているのだから。

「よく考えたらタカさんが一番のライバルかな」
「不二、それ何の話だい?」
「タカさん、不二のことは気にしないで」

『Bonjour……タカさん?こっちは何時だと思って』
「なまえー!確かに手塚は恋愛不器用ところがあるけど!なまえには優しくしてるのに!」
「なまえちゃんの浮気者〜!ゲス不倫ダメ絶対!」
「是非話を詳しく聞かせてもらいたいな」
「手塚は健気にみょうじさんを待ってるのに!」
「責任とって手塚と結婚してよね。分かった?」
『……とりあえずもっかい寝ていい?』

時差は8時間、現地時間は朝の10時前くらいなのに。そもそもこんな緊急事態に二度寝してる場合じゃないよ。

「そんなことよりなまえ、手塚と一体何が合ったの?」
『手塚くん……』
「そう、手塚」
『イァァァァァァァァ!』

まるでホラー映画のような叫び声がしたと思ったら、何かが落ちる音やピアノの音、誰か女性の声、猫の鳴き声まで聞こえた。続いて『手塚くん手塚くん手塚くん手塚くん』と呪文が聞こえる。

「わー!?なまえちゃん!?」
『もう生きていけない……』
「やっぱりゲス不倫の罪悪感なのか!?」
「帰国したら菊丸バズーカだね、なまえちゃん」
『そんな文春砲みたいな!?っていうかゲス不倫って何の覚えもない……』
「じゃあ手塚と何があったんだい?」
『それは……』

タカさんの一言になまえちゃんが口ごもるけど、その後出てきたのは驚くべき言葉だった。

『多分着信拒否されたっぽくて……』
「えっ」
「そんな、着信拒否だって?」
『いつも電話した瞬間ブチッと切れる』
「ちょっと、どういうこと大石!?」
『もう死にたい』
「まず状況を整理しよう」
『おーい』

なまえちゃんのまさかの返答に僕たちは混乱した状況を整理しようと試みた。

「手塚はなまえちゃんに最初の一度以外電話をかけても切られると言っていたよ」
「すぐに切れる、つまり着信拒否だな」
「なまえちゃんは手塚を着信拒否してる?」
『寧ろ着信歓迎に設定したいです』
「ふむ、何日前まで電話をかけ続けていた?時間帯は?」
『2日前まで。11時から13時くらいに3回かけてるけどいつも切れちゃう。そっちだと19時から21時ぐらいかな』
「なるほど」
「え、乾分かったの!?」

流石は乾。ここまでの情報だけで何かを掴んだみたいだ。

「見当はついた。あとは手塚から聞き出すだけだ」
「お前たち、何をしている?」

そこにタイミングよく手塚が戻ってきた。『今の声は!?』とタカさんのスマホから見事に裏返って誰かも分からないような声が聞こえてきた。

「今の声は……」
「手塚、みょうじさんに電話をかけていたのは何日前までだ?」
「大石と不二から何を聞いた?」
「それより手塚、何日前まで電話かけてたの?時間帯は?」
「……2日前だ。19時から21時。フランスは11時から13時」
「みょうじさんに1日3回かけてるのでは?」
「そうだ」

手塚はタカさんのスマホを気にしてるようだった。なまえちゃんも黙っているってことはきっと手塚のことを気にしているのだろう。

「手塚のことだからきっちり19時20時21時ジャストにかけている可能性80%」
「その通りだ」
「まさか……」

僕もようやく見当がついた。
2日前まで、1日3回。19時20時21時ジャスト。

「なまえ、まさか19時20時21時ジャストにかけてた?」
『タカさんはサイキッカーだった!?』
「それ手塚と電話を同時にかけちゃってるよ!」
『ええ!?それマジなの!?』
「どうして今回に限ってそんなきっちりしてるの!?」
『手塚くんきっちりしてるから』
「合わせたのか……」

相性が良いから寧ろすれ違うってなかなか怖い。手塚も安堵した様子だ。あんなこと言いつつも何だかんだ気にしていたんじゃないか。

「河村、携帯を貸してくれ」
「もちろん。なまえ、手塚に代わるよ」
『何だと!?待ってタカさん心の準備が!』

タカさんのスマホを受け取った手塚は、

「なまえさ、ん……!?」

なまえちゃんの名前を呼んでそのまま固まってしまった。僕たちが見ているというのに、手塚も油断していたらしい。焦った、狼狽えたような手塚なんて、滅多に拝めたものじゃない。なまえちゃんの絡む手塚は本当に面白い。

「今ここでプロポーズしなよ」
「成功する確率は……」
「大石、BGMは何がいいかにゃあ?」
「あのミュージカル風プロポーズ動画の曲は!?曲名なんだったっけ?」
「はは、俺たちのことは気にしないで」

「……また後でかけ直すから待っていてくれ」
『い、イエッサー!』

手塚は僕たちの目の前で電話を切ってしまった。どうしても会話を聞かれたくないらしい。僕たちのおかげで何とか破局の危機を逃れられたのになかなかひどい仕打ちだ。

「お前たち、グラウンド10周だ」

更には追い打ちまで……!やるね、手塚。



「ねえ、考えたんだけどさ」

グラウンドを10周し終わって帰り際にタカさんが自分のスマホを見つめながら言う。手塚は生徒会の仕事を片付けてさっさと帰ってしまっていた。

「手塚があんなに焦ってたのって、俺たちが見てたからとか、そんなことじゃないと思うんだ」
「それってどういうことにゃ?」
「手塚、なまえの名前呼んでたよね。いつも名字呼びだったのに」
「そういえば……確かに!」
「興味深い考察だな」

もしそうなら、手塚も可愛いところがあるな。ついなまえちゃんを名前で呼んじゃって、珍しく焦ってしまうなんて。僕の悪戯心が呼び水になって、こんなに楽しいことはない。

「こんなことになるなら、ますます意地悪したくなっちゃうよね」
「そんなことしてたら絶対友人代表スピーチなんて頼まれないぞ不二……」
「タカさんが目下のライバルだね」
「だからそれ何の話だい?」


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難産しました……。
タイトルはどうしようかなと考えてた時にプレーヤーから流れてきた曲の名前から引っ張りました。しかし、すごい偶然。某閣下と手塚くん中の人一緒だ!
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