☆氷帝と四天宝寺でハロウィン

『10月31日にお菓子もらいに参上します
氷帝テニス部となまえより』

という声明文が四天宝寺テニス部に届いて早一週間。10月31日夕方現在、魔法使いに扮した白石はファミリーパックのお菓子を大量に持って部室のドアの前にスタンバイしていた。
今か今かと待つ白石の隣で白ウサギの仮装をした謙也は呆れ顔でため息をついた。

「なまえちゃんまだかなぁ」
「ハロウィンで大阪まで来るとは金持ちはほんまに暇やな」
「なあ謙也」
「ん?何やねん」
「なまえちゃんどんな仮装で来ると思う?」

白石の解答は明白だ。謙也は『どうせラムちゃんやろ』と心の中で毒づいた。

「オレはラムちゃんか魔女っ子希望」
「やっぱラムちゃんか。まーだ儚い夢を見とるんか」
「可能性0やないやろ。夢見たってええやん。それに今回は魔女っ子予想で現実も見つめてるんやで!」
「魔女っ子も絶対ちゃうと思う」

謙也はいつかのツタンカーメンのマスクを被った鬼太郎の姿を思い出す。声はドラえもんという鵺みたいな奴だった。

「俺はツタンカーメンのマスクした鬼太郎に賭けるで」
「それは前と同じばい」

神父の出で立ちの千歳も白石の隣に立って、未だ開く気配のないドアを見つめた。あと少しでこのドアを開けて飛び込んでくるであろうなまえの仮装を思う。

「俺はシスター希望ばい」
「絶対そんなんありえへんやろ」
「せめて希望くらいは言わせてほしか」
「結果は見えとんのに!空しくなることはやめーや!」
「謙也の希望は?」
「は?」
「謙也はなまえちゃんの仮装がどんなんやとええん?」

謙也の脳内のツタンカーメン鬼太郎がラムちゃんに変身し、魔女っ子に変身し、シスターに変身した後、不思議の国のアリスに変身した。

「ああああ!折角忘れてたのに!うわああ!」
「謙也の希望は何やねん!白状しいや!」
「アリスやアリス!不思議の国のアリスやったらええなって思ってました!」
「は〜アリスもよかね」
「空しくならへんのですか謙也さん」
「ええいやけくそや!ちょっとくらい夢見させろや!」

謙也の隣に立った財前は自棄になった謙也を哀れみの目で見た。財前は仮装に興味がまるでなさそうで、頭にゴーストフェイスの仮面を付けているだけだった。自棄になった謙也は財前も巻き込んでやると空しくなる解答をふった。

「財前の希望は何や!?」
「ドラえもんの着ぐるみ」
「あえてダメージが少ないものを選んだな!」
「別にどんな仮装でも俺はええですわ。あ、アリスと魔女っ子なら向こうにいますやん」

財前が指差す方向を追っていくとそこにはそれぞれアリスと魔女っ子に扮した一氏と金色がいた。それと何故か某球団マスコットのトラッキーとラッキーもいる。

「ユウジ……小春は分かるで。何でお前がアリスやねん」
「小春が用意してくれたんや。何か文句あるか」

謙也の頭の中のアリスが一氏にすり替えられたのだった……。

「因みにこのトラッキーは金ちゃんよ。あとラッキーは銀さん」
「普通逆やろ!?」
「小春はんが乗り気なのに水を差すのは」
「師範聖人すぎるでしょ」
「お菓子くれへんとイタズラするで〜!」
「ははは、飴でよかね?」
「トラ……ああラムちゃんななまえちゃん」
「部長しつこい」

「待たせたな四天宝寺!」

バーン!と勢いよくドアが空いて跡部が入ってきた。
黒いマントにオールバックで現れた跡部は間違いなく吸血鬼だろう。

「なまえちゃんはおるんやろな?」
「第一声がそれか」
「どれがなまえちゃんか当ててみいや」
「人間の皮被ったケダモノがほんまにケダモノの狼になってどないすんねん侑士」
「そういうヘタレな謙也はウサギさん似おうとるで」
「何やと!?」
「当ててみるも何も……」

言い争いになる忍足一族は放って白石たちはぞろぞろ入ってくる愉快な氷帝の仮装集団の一人一人を見た。

「お前らこの前の文化祭のまんまじゃねーか」
「いちいち用意するの大変だろ」
「やっぱりジョルノかっこEよね!」

天使の輪と翼が生えた向日、新撰組の宍戸とジョルノの芥川。

「俺も宍戸さんと同じにすればよかったかなぁ」
「何となく近いからいいんじゃないか?」

ライトセーバーを持ったジェダイナイトの鳳と、やはりがっつり仮装するのを拒否したのかホッケーマスクを頭につけた日吉。


「……」
「……」

青いつなぎに白いゴムマスクの何者かを背負った、がっちりした体型の某球団マスコットのジャビット。
顔を隠しているのはジャビットとゴムマスクだけである。そして、がっちりしたジャビットがなまえであるはずがなかった。

「その不気味なのがみょうじ先輩?」

財前がそう言うとみょうじなまえと推定されるゴムマスクがジャビットの背から降りた。それからどこからともなく取り出した小さなスケッチブックに何か書き始めた。

『そうだよ!トリックオアトリート!』
「やっぱりか……」

不気味な白いゴムマスクから抑えきれないワクワク感が漏れ出す。
それと同時にラムちゃんやらシスターやらアリスやらの儚い希望が打ち砕かれてしまった。


「みょうじのその仮装は何やねん?」
『ブギーマン』
「『ハロウィン』っていう映画に出てくる殺人鬼ですよ」
「で、こいつは何で喋らへんの?」
「ブギーマン……マイケル・マイヤーズは喋りませんからね」

なまえが口にチャックのジェスチャーをすると白石が『可愛い』と呟いた。隣にいた謙也も流石にそれには同意できなかった。目の前にいるのはただの不気味なゴムマスクでしかない。

「俺みたいにもっと可愛い格好させてやったらええやん」
「俺様だって言った。せめて魔女にしろと」
「俺かてせめてアリスって言ったわ」
「俺もなまえさんにせめてシスターにとお願いしました」
「せめてドラえもんの着ぐるみでいいからとはそこのブギーマンに言ったんですよ……」

『ブギーマンはいいぞ』

「まあなまえを止めるなんて絶対無理だしな」

向日の発言は真理だった。


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