この大人がさせている芳香は嫌いだ。
「梅雨の憂鬱にはぴったりよ。覚醒効果もあって、気持ちを引き締めてくれるから」
「ウソ言わないでよ。内心デレデレのくせに」
憂鬱とは程遠い、ただの惚気にしか聞こえない。だいたい、こんなに子どもっぽい香りを振りまいておいて、自分よりもずっと大人なのが許せない。
「そうかな?そんなに惚気てるかな?」
「自覚がないなんて、ますますなまえが心配だよ」
「失礼だな。リョーマくんは祝福してくれないの?あ、とられて悔しいのか」
よしよしとなまえは頭を撫でてくる。
同時に撫でられた俺の気分は逆撫でされる。
思わず手を跳ねのければ、困惑したような表情が見えた。
してやったと思ったのに。
「そんなんじゃいつまでたっても彼女できないよ」
なまえは柔らかに微笑んだ。身長差だけでなく態度も、やっぱりずっと大人だった。
「そういうのも余計なお世話」
「ごめんごめん」
微笑んだなまえからは、やっぱりあの香りがする。確か、この前聞いた話ではこの香りは他の芳香と混ざっても不快にならないんだっけ。
それとさっき聞いたけど。
心を明るくする効果とか。
集中力低下防止とか。
子どもっぽい香りのくせに大人とか。
なまえも香りも嘘ばかりだ。
「ねえ」
「ん?」
「その香り…苦手」
「随分ストレートだねリョーマくん」
「…」
その香りをさせたら、俺の気持ちも嘘になるのかもしれないけど。
なまえの気持ちだけは嘘じゃないんだから、結局嘘にする術なんてどこにもない。
「オレンジのどこがいいの?」
この大人がさせている芳香は嫌いだ。
2014.06.16
名前変換少ない…。
家のリ○ッシュアロマチャージのシトラスベルガモットの香りを見て20分くらいで書いたもの。リョーガなら弟かなと。本人出てないけど。
BGM:NICO Touches the Walls 「カルーセル」から。
[
栞 ]
×*×
▲