「宍戸さん!宍戸さん!」
「宍戸くん!宍戸くん!」

部室に飛び込んできたのはなまえと鳳だった。慌てた様子のなまえと鳳は着替え中の宍戸に迫る。

「みょうじ……お前には恥じらいとかそんなのはないのか?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないやい!」

宍戸に反論したのは鳳だった。鳳にこんな態度をとられるとは予想だにしていなかった宍戸は鳳の顔をまじまじと見つめる。

「長太郎、熱でもあるのか?」
「俺は熱なんてないですよ宍戸さん!」

今度はなまえが宍戸に反論した。訳が分からなくなってきた。二人ともふざけているのではないか?とも思うが、それでも鳳が自分にそんな態度をとるわけがないのだ。

「い、一体どうしたんだお前ら」
「俺たち!」
「私たち!」

宍戸にも二人の回答が想像ついた。

「入れ替わったんです!」
「入れ替わっちゃった!」
「映画の見過ぎか?」
「違います!」
「ちがーう!」 
 


さすがに一人で対処できないと思った宍戸はすぐさま跡部たちを呼び出した。入れ替わってしまった二人を見て、呼び出された全員がやはりこう言うのだった。

「あーん?映画の見過ぎじゃねーの」

ばん!と鳳もといなまえが机を叩いた。

「ちっがーう!って誰だ前前前世流してるのは!がっくんか!」
「なんでもないやが良かった?」
「スパークルが良いです」
「自分もノリノリやん」

騒がしい鳳は違和感を禁じ得ない。もはや異星人のようにも見える。やはり中身がなまえであることを認めるしかなかった。そして、入れ替わっている当人たちを除いてその場の全員が『こんな鳳は嫌だ』と思うのだった。

「はあ……まさか入れ替わってしまうなんて」
「元気だせよ長太郎」
「ありがとうございます、宍戸さん」

と、なまえもとい鳳が微笑む。

「……」
「どうしたんですか宍戸さん?」
「みょうじが可愛く見えるぞ」
「あーそれ分かる!かわE!」
「人間って……その、色々と大事な要素があるな」
「はっきり言いたまえよがっくん」

温和ななまえはむしろ愛らしく見える。結局違和感しかないのはどちらにせよ同じことだったが、『こんななまえも悪くないかも?』とその場の全員が思ってしまった。

「そもそも何で入れ替わったんだ?おおと……じゃなくてなまえさんでしたか」
「二人で連弾してていつの間にかこうなった」
「戻るために何度も連弾してみたんですが戻らなくて」
「それからは連弾が楽しくなっちゃってついつい30分くらい弾いてた」
「お前らめちゃくちゃ呑気してるじゃねーか!」

趣味と実益を兼ねている!となまえと鳳は主張したが戻っていない所を見ると実益はなかったようだ。

「跡部の力で戻す方法を何とか見つけられへんか?」
「俺様の力をもってしても難しいな」
「私は早く戻りたいの!何としてでも!あさってまでには!早急に!あさって立海と練習試合だったでしょ?私まだ死にたくない!」

目の前の超常現象にとらわれていてすっかり忘れていたが、そういえば明後日は練習試合であった。パートナーの宍戸はじめ全員が、テニスコートで鳳(なまえ)がラケット片手に叫びながら逃げ惑う姿を想像した。或いはなまえ(鳳)がラケット片手に危険なコートの中を走り回る図である。丈夫なだけで別に運動が得意なわけではないなまえの体で試合を敢行など到底無理だ……。



「とりあえず考えたんですけど」

みんなで元に戻る方法を考えていると日吉が口を開いた。

「ショック療法が一番かと」

日吉がなまえ(鳳)と鳳(なまえ)の後頭部に手を当てるから流石に二人揃って身震いした。冗談ですよ、という言葉が完全に上滑りしている。

「若くんって結構脳筋っぽいとこあるよね」
「鳳の体で得しましたね(あとで覚えておけよ)」
「あとで覚えておけよって聞こえた」
「気のせいですよ」
「でも日吉の言うことも一理あるで。この前なまえちゃんが変な惚れ薬飲んだときも日吉の手刀で治ったやろ」
「ソンナコトアッタカナ」

治ったとはいえコーラでできた三途のドブ川を渡りかけたなまえであった。正直(日吉の)物理攻撃には頼りたくない。

「それに頭をぶつけて入れ替わるなんてよくある話だよな!やってみろよ」
「でも痛いのはイヤだ!」
「なまえさんがイヤなら俺もイヤです!」
「お前らなあ……もしかしたらそのままかもしれへんのやで」
「心配すんな。万が一怪我でもしたら俺様がVIP待遇であらゆる設備が整った病院に入れてやるよ」
「本当に?」
「あーん?俺様だぜ」
「何が俺様だぜなのか分かんないけど……まあいいや……よし行くぞチョタくん!」
「分かりましたなまえさん!」
「二人とも、覚悟はいいな?」

日吉が二人の頭を掴む。

「いいよ若くっぎゃああ」
「日吉フライングしてるC!」

鳳(なまえ)が返事し終わる前に日吉は二人の頭をぶつけた。鳳はゆらゆらとよろめいて、はっと顔を上げた。なまえの方はダメージを受けて床に倒れ込み沈黙している

「いたた……あれ?元に戻ってる!?やりましたよ宍戸さん!」
「やったな長太郎!」
「なまえちゃん!なまえちゃん大丈夫!?」
「う、頭が……」
「うわああああああああ!」
「どうした日吉!?」

日吉が大声を出して、情けない顔で自分の両手を見つめてガクガク震えている。

「わ、わた、私若くんになってるうう!」

なまえは日吉の体に移動していた。

「おいっ!?嘘だろ!?つーことは今のなまえは……」

なまえに目を向けると、怖い顔をしたなまえが自分の体を見つめていた。

「ど、どうして俺がなまえさんに!?」  
「いや何でそこが入れ替わるねん!」

次は手助けしただけの日吉となまえが入れ替わってしまったらしい。絵面なら先ほどの鳳となまえより更に可笑しい。特に日吉がマズい。

「これどうやったら戻るの!?」
「俺の体で喋るなバカ!もう一回頭ぶつけますよ!」
「うわああもうヤダヤダ!また入れ替わるのヤダ」

もう一度頭をぶつけようとしてくる目つきの悪いなまえから半泣きの日吉が逃げ回る。なまえはともかく日吉の沽券に関わる事態なのは間違いない。

「だから俺の体で泣くのはやめろ!」
「ヤバいクッソ面白いぜこれ」
「その写メ後で俺に送ってや」
「俺様にも寄越せよ」
「先輩方遊ばないでください!」

全員が見つめる中で日吉(なまえ)はなまえ(日吉)に壁にとうとう追い詰められてしまった。

「日吉がなまえに壁ドンされてる!」
「なかなか愉快じゃねーの」
「みんな笑いやがって!自分に壁ドンされる気持ちになってみてよ!」
「自分に壁ドンする気持ちになってみてくださいよ!とにかく行きますからなまえさん!」
「やめ……うがああああ!!」

なまえの体は額をぶつけるには身長が足りなさすぎたが故に、日吉は顎に頭突きを入れた。目の前にあるのは、中身がなまえとはいえ自分の体なので容赦がなかった。

「くっ……!」
「日吉!大丈夫か?」
「おい、しっかりしろよ!さすがに今のはやりすぎだぜ!」
「あああああああああ!?」

向日の隣にいた忍足がそんな大声出せたのかという程絶叫した。

「侑士!?」
「侑士!?今侑士って呼んだ!?」
「A〜!?じゃあもしかして……」
「なまえだよおおお!」
「俺の体で叫ぶんやないで……」

すると鳳と宍戸が支える日吉の口から関西弁が飛び出す。

「日吉!?じゃ、ない……?」
「せや、俺やで」
「だったら日吉はどこに!?」
「俺はここだ」

鳳が日吉を呼べば跡部の後ろにいた樺地から返事がある。

「樺地だと……!?なら樺地は」
「ウス……ここです」

跡部が樺地を呼んだら呆然としていたなまえから返事があった。

「ますます状況が悪化してるじゃねーか!」
「忍足(なまえ)、日吉(忍足)、樺地(日吉)、なまえ(樺地)……これは完全にランダム発生だ。チッ!下手に物理に頼れねーな。一旦作戦を考えるぞ」
「早く自分の体に戻りたい……」
「なまえちゃんが入った自分の姿ほんまえげつないな」




「俺たち頑張りましたよね、本当に……」
「ああ、鳳。俺たち頑張ったな」
「ウス」
「まさか一時全員入れ替わっちまうとはな……俺様の想像を超えていたぜ」

全員が頭をさすりながらこの一時間を振り替える。あらゆる方法を試した結果、一時全員が入れ替わる大惨事に見舞われながらも『部屋に二人きりにして頭をぶつける』のが最も成功率が高いことが分かった。

「頭ぶつけすぎて絶対頭悪くなってるぜこれ」
「あと一回……あと一回だな」

最終的に宍戸(なまえ)となまえ(宍戸)が残った。宍戸の体に入ったなまえは1人だけ一向に自分の体に戻れず精神的にまいっていた。

「なんで私だけ戻れないの!?私だけなんかみんなの体を制覇しちゃってるよ!日頃の行いのせい!?こんなに良い子にしてるのに神様は何が不満なの!?」
「これが済んだら俺様が好きな所へ連れてってやる。北極でも南極でもどこでもいいぜ」
「うん、がんばる……ネズミーランドがいい……」
「そこはちゃっかりしてんのな」
「よし、やろーぜなまえ!もう次で終わるぜ!」

なまえ(宍戸)が魂が抜けかけた状態の宍戸(なまえ)を引っ張って部室に入っていく。あの無神経ななまえがこんなにダメージを受けているのだ。早く終わって欲しかった。それに学校の施錠時間も近付いていた。早く終われ。


「やったぜ!!」

部室のドアが開いて出てきたのは爽やかな表情の宍戸であった。見ただけで元に戻ったとわかる。姿と中身が一致しているのだ。

「やりましたね宍戸さん!なまえさんは!?」
「のびちまったが返事はしてるぜ!お前らの中になまえはいないよな!?いないな!」
「やったななまえちゃん!ほんま頑張ったで」
「うう……」
「よし、お前ら!みょうじを胴上げだ!」
「わーい!ばんざーいなまえちゃん!」
「頑張ったななまえ!」

全員がなまえを囲んで胴上げする。当のなまえはすっかりのびてしまっていて胴上げしている最中も反応が悪い。

「おい、いい加減起きろよ」
「うーん……」
「最後の一発は効いたらしいな」
「あ……」
「やっと目を覚ましたな。おはようさん、もう悪夢は終わったで」

なまえはぼーっとした視線で一人一人の顔を確認し……そして、目をカッと見開いた。

「何で氷帝テニス部がここに!?」
「えっ」
「つーか……えっ!?俺何でスカートなんかはいてるんだよ!?は!?何が起きて……!?」

悪夢は終わっていなかったらしい。なまえの中身はどうやら自分たちを知っているらしいが、最早近くにいなかったであろう人物と入れ替わってしまうとは、ここまでくると法則も何もない。

「お前、一体誰だ?」

日吉がなまえ(?)に尋ねた。

「お、俺は……」




「その程度で膝をつくとはたるんどる!」
「えっ!?そ、その声は!?こ、この体は!?」
「立て!立ってもう一度全力で来い!
赤也!」
「あ、あか……?
う、ううう……うわああああああん!!」
「なっ、何を泣いているんだ!?泣き止め赤也!」
「赤也じゃないもん!私赤也じゃないもんうわあああああああ!」
「赤也じゃないだと……!?何を訳の分からんことを」
「どうしたの?赤也は何を泣いているんだい?」
「この程度の練習で泣くはずがないが」
「分からん……自分は赤也じゃないなどと言ってこの通りだ」
「私なまえだもん!」
「……」
「……」
「……興味深いな」




すごいテンションで書いたと思う。
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