最近手塚は足繁く音楽室に通っている。
古今東西、ありとあらゆる珍しい楽器が置いてあって、一人でに鳴るヴァイオリンやら、まさかのソプラノヴォイスで歌うフルートとか、はたまた呪いのトランペットまでもあるのだが、手塚にそこまでの興味があると思えなかった。
手塚に聞けば、やはりそうだった。

「別に楽器に興味があるわけではない」
「じゃあなんでまた音楽室に連日通ってるんだい?」
「会いたい人がいるんだ」

『人と会ってる』なんて素っ気ない返事ではなく、自分の意志だと。手塚は会いたい人についてはそれ以上詳しく話さなかった。
手塚の会いたい人って、誰なんだろう。でも手塚が何も言わないから、僕も聞かない。

それから、僕の楽しみは手塚のいう人を小さなヒントから推測することになった。
手塚が零すパズルピースをはめこんでいって、相手の姿を形作っていく。手塚は案の定あまり口を滑らせないから、なかなか難しい。
手塚が音楽室に持っていくものもヒントの1つ。定期的にプレゼントを持っていくのだ。
圧倒的に多いのはお菓子。おとといはもうお菓子に対する万策は尽きたらしく、ホグズミードで英二や大石まで連れて選んで購入したらしい。
昨日はピアノ曲をたくさん収録したオルゴールだった。小さな人形がピアノを奏でる可愛らしいガラス製のオルゴール。
相手は間違いなく女の子だ。それと、音楽が好き。ピアノを弾くんだろう。

逆に手塚が持って帰ってくるものは全然ヒントにならない。
おとといは駆け足で動く本。今までで一番良かった。その前は…マンドラゴラの標本だった。でも手塚はそれを自室にしっかり飾っていた。

色々と総合して考えると、
手塚はその子に恋しているんだという結論に達した。

「手塚が恋?まさか嘘だろう?」
「しかし…不二からの情報と俺の持っているデータを総合して考えると…確率は90%だ」

大方のメンバーは衝撃を受けているものの、乾が同意してくれたから、やっぱりそう考えるのが妥当だろう。

「た…大変だ…!向こう1週間は大雨どころか大雪だ…!」
「部長がねぇ…」
「はっ!?そういえば!」
「どうしたんだ?」
「大石!覚えてる?おとといの占い学の授業!」
「あっ」

英二と大石には心当たりがあるらしい。

「おとといの占い学の授業…実は手塚を誘って一緒に受けたんだ」
「手塚はそういうの興味ないんじゃ?」
「その時手塚を引っ張ってって授業受けて…その日は水晶占いの授業だったんだ…。自分の心の中を覗くっていう…それで手塚の水晶を覗き見してて…そしたら、音楽室でピアノを弾いてる女の子が映ったにゃ…」
「手塚…表情こそ変わってなかったけど『用事を思い出した』とか言って出て行ったんだ…」
「…確率95%」

乾の確率が少し上がった。英二は相手の顔を見ることはできなかったらしい。

「でも…あの手塚部長っすよ?まさか恋なんて…愛の妙薬飲まされたんじゃ…」
「手塚部長がそんなヘマするかよ」
「俺も海堂先輩に同意っす」
「越前!お前は味方だと思ってたのに!」

正直手塚なんて愛の妙薬を盛ったところで効くかも怪しい朴念仁だ。その朴念仁を素で落としてしまう女の子は本当に凄い。失礼は承知で闇の魔法使いなんじゃないかって思うよ。

「お前たち、何をしている?」
「お、おかえり手塚!」

手塚が談話室に帰ってきた。手にはたくさんの本と…あと、やっぱり。

「手塚…それなんだい?」
「これか?貰い物だ。絶対に合わないルービックキューブらしい」

相手のチョイスが謎なのに手塚は仏頂面をどこか嬉しそうにさせているのが、どれだけ手塚がぞっこんなのかを思わせる。



手塚は僕たちが詮索し始めたことに気付いたらしい。それでも咎めないのは、自分の本心には全く気付いてないからだろう。

「手塚、これ寮監から。イベントの資料」
「イベント?」
「一月半後に全寮合同でダンスパーティーをするんだよ。親睦を深めるために学校側が増やすことにしたんだって」
「それは知らなかったな。確かに…今までクリスマスパーティくらいしかなかったもんね」
「来週からみんなパートナーを探し始めるから、これから不二の所にはたくさん申し込みが来るはずだよ」
「…」

ふと、僕の脳裏に『手塚は例の女の子を誘うのかな?』とよぎる。それは大石も同じだったみたいだ。

「手塚は、例の女の子…誘うのかな?」
「さぁ…手塚はあまり自覚していないようだし」
「何をこそこそ話している?」
「いや、何でもないよ!」
「やぁ手塚くん、大石くん、不二くんやないか!ちょうど良かった!」
「白石」

ハッフルパフの監督生の白石が同じ資料を携えて近付いてきた。白石は『また合同のイベントが増えたな、よろしゅう』と律儀に挨拶してくる。

「しっかしダンスパーティて…はぁ」
「白石はこういうの苦手だったね」
「まあなぁ…はぁ…逆ナンっぽいの苦手やねんホンマに」
「そんなに苦手なのによく今まで乗り越えられてこれたね」
「そりゃあ毎年俺にも踊りたい子おるし!まあ言うて去年のクリスマスは財前に連れてかれたけど…」
「へぇ、意外だなぁ。白石にも気になる子がいるんだ」
「おるわ!俺が1年の…入学した頃からずっと好きな子や!マイスゥイートエンジェル!フェアリー!」

白石ってそんなに好きな子いたの。
白石といい手塚といいあまり人に話さないたちなのか。といっても白石は周囲にかなり吹聴してそうだ。

「白石の好きな子って誰?」
「同じ寮のなまえちゃん。スリーサイズは…あかん!知っとるけどこれは俺だけの秘密や!あと体はどこから洗うかも秘密や!それとピアノがめちゃめちゃ上手くて、音楽関係の魔法もめちゃめちゃ上手いねん。ちょっと変わっとるとこもほんまにかわええねん。結婚したい…」
「し…白石がストーカー気質だっていうのがよく分かった」
「…なまえさん?」

手塚が珍しく驚きを隠さず名前を呼んだ。
白石の言うなまえちゃんを知ってるらしい。

「なまえさんを…誘うのか?」
「せやで。え…もしかして、手塚くん、なまえちゃんのこと知ってる?」
「…」
「あっ」
「まさか」
「え…なまえちゃん誘おうとしとる?」
「…」
「ちょっ!否定して!お願い!」
『グリフィンドール監督生の手塚…至急寮監室まで』
「今取り込み中や!」

手塚は結局否定しないまま、寮監室に立ち去ってしまった。どうやら…手塚の例の女の子はなまえちゃんという子らしい。そしてそのなまえちゃんをパーティに誘うつもりのようだ。

「あかん…あかんて…今まで自分の寮の奴らが恋敵だったから考えとらんかった…手塚くんとか…なまえちゃんのタイプどストライクやんけ…」
「なまえちゃんのタイプって?」
「大人っぽくて知的な人。メガネだとなお良し」
「…運命ってやつかな」
「やめて大石くん!」

しかし、白石がライバルだなんて。
手塚の恋は勝てそうだけど前途多難だな。





2016.08.06修正

初のパロでした。
年明けに戯れで書いたものです。
もったいないのであげておきました。
このサティ主は四天宝寺です
組分けはぶっちゃけ気分です。
[ ]
×*×