EX


「青峰ェ!! コッチ来い!!」

 夕食の時間に近い今日。
響いたのはダミ声入った怒号で、宅配便の対応に付いていた火神さんのモノだった。

「……んだよ。うるせェな」

 眉頭を掻いた青峰さんが、ダルそうな感じを見せ付けながらに火神さんの元へ向かう。

「……何注文してんだ? テメェは」
「あ? 見りゃ判んだろ低脳」

 二人の言い争いに不安を抱きつつ玄関に向かった私は、火神さんの手に握られた物体に硬直してしまった。

「何って……アダルトグッズだ」
「はァ!?」
「ローションにローター、バイブもなるべく初心者向け。それと、手錠にアイマスクに鞭と、低温ローソ……――」
「恥じらいねぇのか!! 青峰!!」

 ……その通り。私は火神さんの怒りに賛同する。
でも、その後に続いた台詞は私の予想を斜め上に突き抜けていた。

「誇り持てよ! こんなん使わなくても良いじゃねぇか!」

 前言撤回、前言撤回。私と彼等は恥じらいを持つ部分に明確な差があったようだ。
火神さんが手にしたピンク色のバイブレーターはスケルトンで、スクリューを描くようにうねうね蠢いていた。

「返品だ、馬鹿峰。見ろよ、この下品な動き」
「……開けたら返品出来ねぇぞ」

 当たり前だけど、開封した商品は返品が出来ない。
火神さんは間抜けな顔をした。

 … … … 

 今日の夕食も問題なく美味しくて、キッチンで洗い物をしている火神さんに感謝をしながらお風呂場に向かった。
勿論浴槽は綺麗に磨かれて、適温のお湯が適量に張られている。
無償で尽くしてくれるロボットって、凄い。

 でも、無償で尽くすロボットが居たら、そうじゃないロボットも居る。
尽くさないロボット代表の彼は、勝手に浴室のドアを開けた。
施錠していたのに無理矢理開けるモンだから、バキリと嫌な音がした。
お父さん、お母さん。貞操を守る鍵は、たった今役目を終えたみたいです。

「入るぜ」
「入るぜ、じゃないですよ!!」
「確認しただけ有り難く思えよ」
「許可も得て下さい!」

 ニヤニヤした青峰さんは腰に巻いたタオルの内側からある物を取り出した。
それは、あの返品出来なくなったピンクのアダルトグッズで……――。

「コレ試したくてよ。火神うるせェから、家事やってるうちに、な?」

 顔が赤いのは、湯船に浸かって逆上せ始めたからです。
変な展開に恥ずかしくなった訳じゃない、絶対に……。

「大丈夫だ、オレのより細ェから」
「……っ!!」

 その言葉に、自然と股間へ目が向いてしまった。
バキバキに割れた腹筋は重々しく、そして何処と無い色気を放っていて、コレが男の人の裸なのかと恥ずかしくなる。

「火神は下品って言ってたけど、オレは好きだぜ? この動き」

 スイッチを上に押し上げると、モーターの回転する音が響いた。

「馬鹿みてぇだけど、女はコレでアンアン言うんだろ?」
「そ、そんな事……知りません」
「興味ねぇもんな」
「知ってるんならほっといて下さい!」

 浴槽の縁に座った相手は、バイブのスイッチを切る。
どうせコッチの話は聞いていないんだろうな。

「女が長細いモン食わえてんのってスゲェソソるな。電子回路に響く」

 おおよそ意味の分からない事を呟いた青峰さんは、私の唇にバイブを押し付ける。

「ホラ、口開けよ」
「……おこりまふよ?」

 唇の端だけを開けて喋るのも滑稽だけど、こんな分からないモノを喰わえるのは嫌だった。
でも、青峰さんも強引な人で、開いた手で耳殻を優しく撫でて来た。

「んひゃ!??」

 いきなりのスキンシップに声を上げると、待ってましたと言わんばかりに口内へ侵入して来た玩具……。

「――む、んんっ!?」
「何だ? 今のリアクション」

 クツクツ笑い、青峰さんは浴槽の前に向かい合って座る。
ソレと同時にスイッチに手を掛けた。途端に響く振動音は、再度この場を騒がしくした。

「は、っ……あっ、あぁ……!!」

 口内で暴れる塩ビ素材のバイブは、うねりを上げる。
歯を立てれば、微量な振動が脳まで響く。だから大きく口を開けるしか無い。
舌に当たり、先っちょが上顎を擦る。
その度にイケない事をしているような感覚に、頭がクラクラした。

「……スゲェ良い顔してる。お前、マジモンに処女か?」
「はっ……あ、ひょじょ……ひょじょれふ……」

 動かせない舌と閉じられない唇のせいで、上手く喋れなくて、端の方から唾液が垂れる。
湯船に身体を浸けているから、頭もクラクラする。

「旨いか? コレ」

 スイッチを切った青峰さんは、ゆっくりとストロークを始めた。
口内の熱で温まったソレは、まるで誰かの男性器だ。
目を瞑ると、玩具で無いモノを喰わえている感覚に溺れそうになる。
荒い男らしい息遣いが浴室に反響した。

「エロいな、名前」

 口からバイブを引き抜かれ、ようやく息苦しさから開放された。
犬のように舌を垂らしハァハァと息吐く。すると、青峰さんは腰元に巻いたタオルに手を掛けた。

「本番だ。名前……。今度はコッチにチャレンジしろよ」

 フェイスタオルの下に隠されていたのは、勿論アレで――バイブとカタチは似ていても、凶暴さが全然違う。
ビクンビクンと先端が跳ねているのが、凄く生々しくて気持ち悪い。

「口、開けろよ」
「……イヤ……」

 後頭部を抱えられ、相手の股間部へと押される。
顔を逸らして口元に当たるのを阻止出来たけど、頬に擦れその固さに驚いた。

「やめ……、や……」
「すぐ終わるからよォ」
「止めて下さい!!」
「……はァ……!?」

 私が全力で拒否すると、青峰さんは上擦った声を出して硬直した。

「お前が嫌がったら何も出来ねぇだろ!!」

 ……どうやら今のは"命令"として反応させたみたいだ。
動かなくなった青峰さんは顔を歪ませていたけど、怖くなった私は更に命令を出す。

「ずっとソコに居て下さい!!」
「はいィィィイイ!?」

 茹で上がりそうな身体を浴槽から脱出させ、バスタオルを向いて廊下に飛び出すと、ソコにもまた一体……悪魔が待ち構えていた。

「よォ、楽しめたか? 名前」
「さ……最悪です。気持ち悪いモノ……見せられたし」
「――そりゃ青峰のだからだ」

 そう言って火神さんは、バスタオル越しに手を回して腰を引き寄せる。
一難去って何とやら……警戒に身を引き締めると、すぐに手は離される。

「冗談だ。こんなトコで立ちンボはしたくねェ」
「な、何で助けてくれなかったんですか」
「ヒーローは、遅れてやって来るモンだ」

 そう言って肩をフライパンで叩き出した火神さんは、ソファーへと戻っていった。
部屋に戻る前、斜めに首をずらし視線だけをコチラに向けた火神さんはこう言った。

「青峰、あのままで良いだろ。反省させろ」
「ふざけんじゃねェェェェ!!」

 地獄耳なのかは知らないけど、浴室から響いた青峰さんの叫び声。
結局あのピンクの玩具は、火神さんが分解して燃えないゴミの日に出す事になった。



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