04



「何かお困りですか?名前さん」
「こ、困ってますけど…あの…誰?」

水色の綺麗な瞳を私に向けるその人には見覚えがあった。
スーパーで出会ったあの色素の薄い少年だ。
幽霊では無かったらしい。
ホッとしたのも束の間、先日現れた2体のロボットと同じ様に玄関を破壊して更に火神さんを吹っ飛ばしたのがこの少年だという事に気付いて呆然とする。
私の見間違いでなければ…片手で。
この華奢な体の何処にそんな力があるのだろうか。
火神さんは未だ起き上がって来なければ声すらも聞こえて来ない。

「名前さん、お邪魔してもいいでしょうか」
「もう入ってますけど」
「すみません。緊急事態だったもので」
「はあ」
「あ、僕は黒子テツヤです。よろしくお願いします」
「よ、よろしく?」
「玄関は後で直させます。とりあえず火神くんをなんとかしてからお話します」
「火神、くん?」

私の返事を待たず、黒子テツヤと名乗ったその少年は律儀に靴を揃えて上がり火神さんの元へ向かった。
壁に頭を突っ込んだ火神さんの首を鷲掴みして引っ張り出す。
人間離れしたその行動にもう嫌な予感しかしなかった。


リビングに通すと黒子さんはソファに転がった青峰さんを冷たい瞳で見下ろした。
青峰さんが『げ』と漏らしたのは気のせいではないだろう。
あのぐうたらな青峰さんが大人しく従って起き上がった。
復活した火神さんは目元をヒクつかせていた。

「僕は彼らの見張り役です」
「見張り」
「はい。彼らが暴走しないか、貴方が嫌がる事をしないか…最終的に商品として成り立つかどうかを判断します」
「はあ」
「なので、僕には彼らの行動を制限出来る力を持っている。つまり、」
「あの…じゃあ黒子さんも」
「はい、僕も彼らと同じロボットです」
「…」

何てことだ、ロボットが3体になった。
黒子さんによれば、同じロボットでもあの2人に比べて更に高性能らしい。
その証明に彼らよりもかなりコンパクトだ。
コンパクトながら彼らと同じか、それ以上の力を秘めていると言うのだから末恐ろしい。
ふと今まで突っ立っていた火神さんが私の隣に腰掛けた。
横目で見遣ればバッチリ目が合ったけれど、罰が悪そうに頭を掻きながら逸らされた。
その行動がなんだかとても人間染みていて思わず笑ってしまう。
瞬間、強烈な視線を感じてもう一度火神さんを見れば、私の顔を見たままフリーズしたかの様に動かない。
さっき吹っ飛ばされたせいで何処か故障でもしたのだろうか。
不思議に思い目の前で手を振ってみる。

「…なんだ?」
「え?あの、大丈夫…ですか?」
「ああ、何ともねえよ」

心配する必要はなかったらしい。
心配?
おかしな話だ。
私がなんでこんなロボットの心配をしなきゃいけないのだ。
1人悶々と頭を抱えていると黒子さんが彼らに話し掛け始めた。

「ところで火神くん、青峰くん」
「あ?」
「なんだよ」
「キミたちは自分の仕事が何だかちゃんと分かっていますか?」
「ドーテイ卒業」
「女にセックス教える」
「…はぁ。青峰くんは問題外として…火神くんの言った女性に性交の良さを教えるというのは大前提です」
「それ以外に何があんだよ」
「分かりませんか」
「…分からねえな、他にあったか?」
「気持ち、ですよ」
「は?気持ち?」
「体だけでなく如何に心まで満足させてあげられるか、という事です」

黒子さんはそう言って私に視線を向けた。
彼の瞳は凄く独特で、じっと見つめられるとなんだか心の内を全て見透かされているような気分になる。
黒子さんは今度は私に話の矛先を向けて来た。

「名前さんは今彼らが怖いですか?」
「そ、それは…はい。だってロボットだし」
「そうでしょうね。そう思っているうちは彼らに何も許さなくて構いません」
「え、許すも何も、」
「無理矢理するのは規約違反ですから」
「…」
「身も心も、お客様を満足させる事が彼らの仕事です」

真面目な顔でそんな事を言われても…どれだけ経とうともそんな日が来る事はない。
私はそういうロボットを自ら欲したわけではないし、この状況にも未だ戸惑うしかないのだから。
出来る事ならば返品願いたいくらいだ。
でもそんな私の思いも黒子さんに両断される。

「申し訳ありませんが、彼らのどちらかが職務を全う出来るまで返却する事は叶いません」
「え!」
「ご友人が勝手に申し込まれたとの事なのでとても心苦しいのですが、それが応募条件なんです」
「…嘘」
「因みに…」

続いて黒子さんは火神さんと青峰さんを交互に見て、更に驚くべき事を告げた。

「火神くん、青峰くん…キミたちはこれから先の人間の未来、つまり人類存亡に関わる重要な役目を担っています」
「おいおい、大袈裟だな」
「大袈裟ではありません。だからこそ、キミたちには死ぬ気で頑張って貰わなければならない」
「…死ぬ気で?」
「はい」

綺麗な水色の瞳に影が差す。
そして次に黒子さんが発した言葉に、部屋の中が水を打った様に静まり返った。

「成果が出せなかったどちらかが…廃棄処理されます」



あの後黒子さんは家を出て行った。
この近くで人間として暮らしながら彼らの行動を見張るのだと言う。
有り難いようでまた玄関を破壊されるかもしれないという問題も増えた。
ところで彼は重い空気を残したままさっさと帰ってしまったわけだけれど。
あんな話をお客である私にまで聞かせて一体どういうつもりなのだろうか。
だいたいこの先彼らが廃棄処理される事はない。
だって私はどちらともそんな事にはならないのだから。

「お、おい、ガキ女」
「…ガキって誰ですか青峰さん」
「お前だお前…いや、アレだ…どっか行きたいとことかねえの?」
「は?」
「つ、連れてってやる」
「はい?」

突然話し出した青峰さんに私は眉を顰める。
ただぐうたらしてただけの彼がこんな事を言い出すなんて。
続いて火神さんが声を発した。

「なんだよ青峰、死に急ぐ気か?」
「関係ねえな。お前に負ける気がしねえだけだ」
「よく言うぜドーテイヤロウが」
「んだとコラ。結果出す前に工場行きにしてやろうか」
「弱いヤツほどよく吠えるって言うよな」
「火神ぃ…オレが本気だしゃ余裕だってとこ見してやるよ」
「どうだか…それは俺だって同じだ」

目をギラつかせ睨み合う2人に気付かれない様そーっとリビングを抜け出す。
黒子さん…なんて事を言ってくれたんです。
私の事を助けてくれるはずがこれじゃあもっと危険な目に遭いそうじゃないですか!
しれっと家を出て行った見張り役の彼に恨みすら覚えながら、自室の鍵を閉めて身を潜めた。






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