03


スーパーまでの道を歩きながら私は2人を連れて来た事を全力で後悔していた。
私の隣には火神さん、その私たちの少し後ろを青峰さんが歩いている。
派手な髪色に日本人離れした体躯、目立たないわけがなかった。
更には…

「なあ名前!今日は何が食いてえんだ?出来る限り希望に沿ってやるよ」
「肉でも食わしときゃいんじゃね?貧相な体してるからな、そいつ」
「俺は名前に聞いてんだよ!口出すな、役立たず」
「んだとてめえ!ついて来てやっただけ有り難いと思え、この節操なし」
「止めて下さい!!」

煩いのだ、凄く。
口を開けば喧嘩、人の目なんか気にしない。
特に火神さんは大声で喋るものだから周囲の目が痛かった。
でもただ煩いから見られているだけというわけでもなく、2人の容姿が年齢を問わず女性の目を惹き付けた。
ふと火神さんが何かに気付いたように1人の女性に目を向ける。
その女性は火神さんに熱い視線を注いでいた。

「へえ…」
「?…火神さん?」
「ああ、なんでもねえよ」
「早く買い物終わらせて帰りますよ。もう目立って目立って…耐えられないです」
「いいじゃねえか。俺と居たらステータス高いだろ」
「そんなの求めてません」
「釣れねえよなあ。一晩過ごせば価値観変わるぜ?」
「過ごしません」

最終的にこうなる不毛な会話を何度してきただろうか。
この赤髪はいつもこうだ。
どうやらロボットにも個々の性格というものがあるらしい。
『赤』という色のせいもあるのか、この人はいちいち煩いし暑苦しいし自信過剰だしガツガツしている。
その赤髪とは対称的に、後ろを歩く青髪はぐうたらしてやる気はないし口は悪いし…ホント居るだけ、ただの居候だ。
唯一活動的になるのは赤髪との口喧嘩(で終わらない事も多々あるが)のみ。
深ーい溜息を吐いた所でやっとスーパーに到着。
火神さんは脳内で献立を組んでいるのかブツブツと独り言を唱え始めた。
食材を選べそうにない青峰さんにカートを押すよう頼めば猛烈に嫌な顔をされた。
本当にこの人はやる気が無い。
鼻唄を歌いながら次々と肉や野菜をカートに放り込んでいく火神さんは傍から見ればまさに理想の主夫だ。
…ロボットだけど。
食材は任せて私は1人ふらっとおやつコーナーに向かった。
疲れている(主に精神的に)せいか甘いものが食べたい。
チョコレートを物色しているとふと視線を感じた。
辺りを見渡してみたけれど誰もいない。
不思議に思いつつも下の段のチョコレートを取ろうと身を屈めた所で、今度こそ隣に気配を感じた。

「え、ええ!?」
「驚かせてすみません」

全体的に色素の薄い男の子が立っていた。
水色の綺麗な髪に綺麗な瞳、背も低めで女の子の様に華奢な印象だ。
ただ気になるのは白いシンプルなTシャツに書かれた…不思議な文字。
まあそれはいいとして。
私を驚かせた事に謝罪した男の子は何故か動かずにじっと私を見ている。
少々居た堪れない。

「…あの…何か?」
「すみません。あの、今何かお困りの事はありませんか?」
「え?特にありませんけど」
「そうですか」

そんなの大嘘だ。
でも言えるわけがない。
突然巨体の怪しいロボットが2体も家に来て困ってます、だなんて。
何も知らないこの男の子にそんな事を言ったら私は即頭のおかしい人間だと思われるだろう。
愛想笑いを浮かべて話を切りお目当てのチョコレートを手にした。

「あ、こんな所に居たのか。何してんだ?」
「火神さん。この子とちょっとお喋りを」
「ん?子供?……ここには俺と名前しかいねえぞ?」
「…え……嘘」

ついさっきまで隣で話をしていたはずの男の子の姿は忽然となくなっていた。
もう嫌だ。
2人が家に来てから変な事ばかり。
一気に青褪めた私の腰に手が回る。
ふっと頭上が陰って何事かと思わず顔を上げた。
呆然としていた私は反応が遅れ見上げた事を後悔した。

「ん」
「!」

火神さんの唇が頬に触れた。
そして驚きでピクリとも動けなくなった私に彼はこう告げたのだ。

「おかしいな…大抵の女は頬染めるんだけどな」
「!」
「唇の方が良かったか?」
「ッな!そ、そんなわけないでしょう!」
「何怒ってんだよ」
「は、は、離れて下さい!」

ぐっと巨体を押し返して脱出に成功する。
丁度ガラガラとカートを押してやって来た青峰さんに駆け寄った。
籠に最近お気に入りのチョコレートを入れれば低い声で腹立たしい一言が落とされた。

「ガキかよ」
「何か言いましたか!」
「なにカリカリしてんだ」
「何もありません!これレジに持って行って下さい!」
「へーへー」

やる気のない返事にイラッとしながらも青峰さんに続く。
振り返って火神さんを見遣るとさっきの事など気にもせず、顎に手を当てておやつの棚を吟味していた。
…ていうか、大抵の女はってどういう事よ。
妙に引っ掛かった言葉を思い出して顔を歪めた。
青峰さんがレジ脇のラックからカートに卑猥な雑誌をこっそり放り込んだのはもう面倒だから見なかった事にする。



家に帰ると早速火神さんが食事の準備に取り掛かった。
青峰さんは安定の定位置だ。
さっきこっそり買い込んだ雑誌を堂々と広げるその姿をジト目で見遣る。
もう何も言うまい。

部屋で暫く課題に取り組んでいると食欲をそそるいい匂いがして来た。
そろそろ夕食の時間かと部屋を出てリビングに向かおうとすれば、先日やっと直ったばかりの玄関から呼び鈴が響く。
その足で玄関に向かいインターホンを覗いた。

「ん?誰もいない」

いないはずなのに何故かもう一度呼び鈴が鳴る。
私は怖くなって思わず『火神さん!』と叫んでいた。
この際誰でもいいから家に居てくれて良かったとさえ思う。
まあこの変な事続きの元凶はあの2人なのだけど。

「なんだ?誰か来たのか?」
「だ、だ、誰も居ないのに呼び鈴が鳴ってるんです!」
「そんなわけないだろ」
「あるから言ってるんです!」
「…あー、なんだ名前、そういう事か」
「はい?」

何故か不敵な笑みを浮かべた火神さん。
私には何が何だかさっぱりだ。
気のせいかさっきより火神さんとの距離が近い気がする、否気のせいじゃない。

「こんな所に俺呼び出して…2人きりになりたかったのかよ、可愛いな」
「は!?」
「リビングじゃアイツ居て邪魔だしな」
「何言ってるんですか!そうじゃなくて!」
「分かった分かった、ほらコッチ向けよ」
「だから違います!ちょ、何ッ」
「何って、分かるだろ?」
「分かりません!ちょっと!青峰さんッ!!」
「役立たず呼んだって来ねえよ。観念してコッチ向けって」
「ちょ!誰か!!」

確かに青峰さんに助けを呼んだって無駄なのだろう。
助けを求めたはずがこんな事になるやっぱりこのロボットはおかしい。
思わず呼んでしまった事をまたしても後悔しながら近付く顔に両手を押し付けて全力で拒否を試みる。
その時、

ドゴォオオッ!!

「ん?」
「ちょ、」

何時ぞやに聞いた物と同じ爆音と共に爆風が巻き起こる。
ドオッ!!!
続いて起きたのは目の前の火神さんが吹っ飛ぶと言うデジャヴだった。
立ち込める砂埃の濃度が落ち着いて来た頃、すぐ隣で聞き覚えのある声が響いた。

「何かお困りですか?名前さん」

表情の乏しい顔を私に向けてじっと見つめて来るのは…
水色の髪の男の子だった。



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