02



「お、美味しい…」
「任せろ!俺は夜も家事も熟せる超優秀なオトコだからな!」
「家事は助かりますけど夜は余計です」
「本業否定すんなよ」

あんな衝撃の出会いをした私とロボット(仮)が食事を囲んで普通に会話をしている。
何故かと問われればそれは彼…火神さんがあまりに自然体で接して来るからだ。
今の所危害を加える様子もない。
そして有言実行、彼の料理の腕前は本物だった。

始めこそ不審者だ精神異常者だと決めつけていたけれど、少し落ち着いて会話をしてみればごく普通の…否ちょっとぶっ飛んでる所はあるけど、話せる相手ではあった。
たまに所々で頭弱そうとか思うけどそれは伏せておく。

こんなはずじゃなかったのに。
後悔先に立たずとは正にこの事。
私はこれから本当にこの2人と生活するらしい。
いまいち実感も湧かないし不安でしかない。
けれど結局返品はきかないだとかここを追い出されたらスクラップされるだとか、なんだかんだと言い包められてこの状況だ。
情けない顔で頼み込む火神さんに絆された様な気がしないでもないけれど、もしもその態度ですらも機械である彼に組み込まれたシステムだというのなら私は確実に選択を誤ったのだろう。

機械に…【心】はあるのだろうか。


「ところであっちの青い人は何が出来るんですか」
「青峰か?アイツはなぁ…」
「?」
「見ての通りだ、何も出来ねえ。ドウテイだしな」
「アァ!?関係ねえだろそりゃあ!」

ソファに寝転んでいた青い人、青峰さんが飛び起きた。
地獄耳らしい、否ロボットならこれが普通なのか。
しかしなんて相性の悪いロボットなのだろう。
絶対組み合わせ間違ってると思う。
こうやってすぐに喧嘩になる。

「関係大アリだろ、不良品」
「んだと?なら不良品かどうかヤッて見せてやる!」
「どうやってだよ」
「ソイツでに決まってんだろ」
「!?」

ガタン!

思わず立ち上がって私は火神さんの後ろに隠れた。
どっちも同じロボットで目的だって同じはずなのに、何故か。
私を庇う様に立ち上がった火神さんが少しだけ頼もしく見える。
大きな背中は逞しく、彼が言っていた様にこれは本当にいいボディガードにもなるかもしれないと思えた。

「青峰、残念だがそりゃあ無理だな」
「あ?」
「何故ならコイツとセックスすんのは俺だからだ!」
「っしません!!」

前言撤回、やっぱり同じ穴の狢だった。
救いにも頼りにもならない。

「馬鹿な事言ってないで早く玄関直して下さい!それから!私は部屋で課題やるので絶っ対に邪魔しないで下さい!」

恐らくここ数年で一番大きな声だったと思う。
叫び終えた私は息を切らしていた。
目を丸くした2人を放置して私は大股で自室に向かう。
これから毎日こんな生活になるのだろうかと項垂れた。
何をするにも省エネタイプの私には、とても耐えられる気がしなかった。


課題を終えて大きく息を吐き出した私は、家の中が異様に静かな事に気付く。
今までなら当たり前の事だけど、あの騒がしいロボットが居る今となっては逆に不気味でしかない。
なんとなく忍び足でリビングに向かう。
途中、廊下の先の玄関を見てどっと疲れが増した。
全面をブルーシートで覆われたそこは事件性を感じさせる。
家事の前に玄関をなんとかして!
私は文句の1つでも言ってやろうとリビングに足を踏み入れ声を上げようとした所で固まった。

「(ひっ!)」

暗い室内にぼんやりと浮かび上がる淡い光。
そしてソファに項垂れる2つの大きな影。
ホラーだ、ホラーでしかない。
ピクリとも動かない2人はまるで死人の様に見えた。
し、死んでるの!?
否ロボットなら壊れたの間違いか。
何はともあれなんだか怖くなって思わず駆け寄る。
私は姿勢良く座ったまま項垂れた火神さんの顔を恐る恐る覗き込んだ。

ブゥン

何かの起動音の様な物が響いたと同時、火神さんの赤い瞳がカッと光った。
驚いて後退る間もなく腕を掴まれ引き寄せられる。
物凄い力だった。

「ちょ!離して下さいッ」
「寝込みを襲うなんて名前もやるな」
「寝込み!?襲ってません!ていうか寝てたんですか!」
「ああ、寝るっていうよりは充電だな」
「充電!?」
「お前が構ってくれない時は勝手に落ちて大人しくしてんだよ」
「何その機能!出来れば私が居る時に落ちてて欲しいんですけど!」
「そりゃ無理だな、それじゃあセックス出来ねえじゃねえか」
「っだから!」

そんな事しない!
そう言おうとしてぐらりと視界が揺れた。
至近距離に赤い瞳、その先には天井。どうやら私は暴走ロボットに押し倒されたらしい。
冷や汗が流れる。
両肩をしっかり掴まれどんどん近付く顔を避ける事も叶わず、怪しく光る赤い瞳をただ呆然と見つめる。
こんな状況だというのに、宝石の様に綺麗だと思った。


ドゴッ!

凄まじい音と共に一瞬で重みが退いた。
火神さんが消えた、そんなわけはない。
吹っ飛んだのだ。

「火神ぃ…イイ子に充電してると思ったらてめえ1人で何やってんだよ」
「あ、青峰さん」

手首をぷらぷらとさせて目を据わらせた青峰さんが真横に立っていた。
火神さんは…

「おいおい、加減しろよ。歯が2本も取れたじゃねえか」
「ハッ、そんなモン突っ込みゃ直んだよバァカ」
「黒いお前と違って肌の汚れが目立つんだから止めろよな」
「ちったぁ味が出ていいんじゃねえの?」
「いい所邪魔しやがって」
「聞こえねえな」

本当に彼らは人間じゃないのだとやっと認識した。
目にも留まらない速さのストレートをまともに受けて吹っ飛んで無傷だなんて。
そしてあれだけの威力のパンチを食らわせれば痛めるはずの青峰さんの手も無傷。首をコキコキ鳴らしながら自分で歯を埋め込む火神さんの姿を呆然と眺める。

彼らは間違いなく正真正銘本物のロボットだった。






prev | next

Back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -