01

バキッ…バリバリッ

「!?」

いつもの様に朝食を作っていた私は、玄関からの物凄い破壊音に身体を跳ねさせた。
同時に家も揺れた気がしてこれは大きな地震かと身構える。

そんな私の耳にその玄関の方から不審な声が流れ込んで来た。

「やべえ、やっちまった」
「バカかてめえは!クレーム処理はてめえでしろよ」
「分かってるって。それよりこれ引っ張ってくれ。踏み込んだ時足填まった」
「ふっざけんな、自分でなんとかしろ」
「無理だ、これ以上ここぶっ壊したらやべえだろ」

……。
人が居る。
男が2人。

色白の赤い髪と色黒の青い髪。
しかもデカイ、超デカイ!
玄関を腰を屈めなければ入れない程のその身長は軽く180は超えているのだろう。

そして赤い髪に青い髪どちらも、服を着ていても分かる程引き締まった体躯をしている。

1つ気になるのが赤髪が何故かエプロンをしているという事。

いや、今はそんな事どうでもいい。
そんな厳つい男2人が人の家の玄関をぶち壊して揉めている。

リビングのドアの隙間から恐る恐る覗いた私は惨状を見た。
強盗?精神異常者?
とにかく不審であり、自分が今危機的状況にある事に変わりは無い。
震える手でポケットのスマホを探り当て、生まれてこの方掛けた事の無い番号に手を滑らせる。

「(…1、1、0…掛かった!)」

後はこの状況をなんとかして伝えれば!
そう思った瞬間、ついさっきまで騒がしかった玄関先が静まり返っている事に気付く。
と同時、さっき繋がったはずのスマホの電源が切れた。
ホラー染みた展開に愕然としていると更なる破壊音が響いた。

バキッ…パラパラパラ…

息を呑む。
赤い目2つ、青い目2つがこっちを見ていた。

「あ、ワリィ…玄関壊しちまった」
「今更だな」
「火神大我だ、よろしく頼む。コッチは…」
「青峰大輝」

家主である私を前に平然と自己紹介を始めた2人。
そんなフランクに話し掛けられたってこっちは恐怖しか感じない。
全く以て意味が分からないのだから。

「ん?なんか作ってんのか?よし、早速仕事だ」
「バァカ。てめえはまずここの片付けからだ」
「料理は俺担当だろ?青峰やっとけよ、DIYだ、DIY!」
「はぁ?」
「………は」

状況が飲み込めない私を放置してまた騒ぎ始める2人。当然の様に家の中に踏み込んで来た所で私はやっと口を開いた。

「待って!待って待って!何勝手に入って来てるんですか!!」
「ん?ああ、ワリィ。邪魔するぞ」
「いや、そういう事じゃ無くて!」
「じゃあどういう事だ?」
「いやいやいやいや!うちに何の用ですか!警察呼びますよ!?」
「ああ、そういう事なら安心しろ。俺たちはいいボディガードになるぜ?」
「なりません!ボディガードは玄関壊して不法侵入しません!ていうか頼んでもいません!」
「うるせえなぁ…お前運がいいんだぜ?喜べよ」
「運!?何がですか!」

わけの分からない事ばかり言う2人に今度は恐怖よりも苛立ちが募る。

そんな私に嘲る様な笑みを浮かべた後、青い髪の人が言った。

「オレたちは機械だ。超高性能のな」
「…はい?」
「良かったな、お前の性生活はこれで安泰だ」
「はいッ!?」

真面目な顔で何を言ってるのこの人。

機械?

どう見ても人間にしか見えないのに…ロボットだって言うの?
ていうか性生活って何!?
この人たち頭おかしいんじゃ…あれ…
そういえばさっきまで隣に居たもう1人の赤い頭の人が居ない事に気付く。
その人の声が何故かキッチンから聞こえた。

「ん、これちょっと塩気多いな!こんなの食い続けてたらお前…ああ、7年と3ヶ月後に成人病だ」
「な!ちょっと!いつの間にキッチンに行ったんです!?」
「言っただろ、オレたちはロボットなんだよ」
「ロボットって…」
「そう、俺たちはLOVE MACHINEだ」
「ら、らぶ、ましん?」

やっぱりどうかしている。
これは完全に精神異常者だと判断した私は少しずつ後退る。
勿論逃げ道なんてあの壊された玄関以外に無い。
そこには青い髪の男が居る。

包丁を持って調理を始めた赤髪の男に更なる恐怖を覚え、私は形振り構わずとにかく全力で玄関に走った。
目を見開く2人。
隙を突けた、これならあの青い男も擦り抜けられる。

…そんな私の考えは甘かった。

「待てって。もうちょい説明が必要だったか、名前」
「ちょっと!なんで!?」

この『なんで?』には2つの意味が含まれていた。
なんで私の名前を知ってるの?
なんで…キッチンから玄関に…なんでここに赤髪が居るの?
私は一瞬で捕らえられた。

「おい青峰、お前仕事しろよ。俺が来なかったら逃げられてたじゃねえか」
「逃げたいっつーんなら別に逃がしゃいいんじゃねえの?」
「お前ヤル気あんのかよ」
「…ねえな、今んとこ」
「これだから童貞はよ」
「ああ?なんか言ったかコラ」
「ああ言ったな、ドウテイくん」
「ハッ!オレはてめえみてえにポカスカやる趣味はねえんだよ」
「そうか、そりゃ間違いなく不良品だな。そのままお前はめでたくスクラップだ」
「んだと火神てめえ!」

赤髪にしっかり捕獲された私は頭上でのやり取りを呆然と見遣る。
顔も体も細かなパーツも滑らかな肌も鮮やかな髪も何もかも全部、どこをどう見ても人間だ。
たださっきの赤髪の動きは尋常じゃ無かったし、不良品だスクラップだと会話も穏やかではない。
この2人はまさか本当に…

「名前、いい加減認識しろよ?」
「!?」
「全くだぜ、かてえ脳ミソだな」
「なッ」
「俺は火神大我。LOVE MACHINE…つまり、汎用人型性処理玩具だ。意味が分かるか?」
「せ、性、処理?」
「お前に最高のセックスを教えんのが俺の仕事なんだよ」
「!?」
「っつうわけだから、よろしく頼むわ」
「え!?よろしくって、なッ!?」

言い終える前に軽々と抱き上げられた。
突然の浮遊感に思わず目の前の太い首にしがみつく。
耳に体に、低く甘い声が響いた。

「すぐにお前から求めて来るようにしてやるよ」


名字名前、19歳。
まともに恋すらした事の無い私の元にやって来たのは、私には到底必要のない2体のロボットだった。






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