ちびたか! バレンタイン「みーやーじーさん!」
夕食後、テレビをぼーっとみながらただ只管チョコを食べていると、高尾がトレーナーの袖をくいくい、と引っ張ってきました。
「んあ?」
「俺もチョコ食いたいなー……なんて」
高尾はテーブルの上に積まれている箱を見ながらそう言います。
今日は2月14日――バレンタインデー。
顔良し、頭良し、運動神経良し、おまけに高身長な宮地さんは、女の子から大量にチョコを貰いました。
部室から教室までの間、休み時間、放課後……。
宮地さんは今日一日チョコに追われていました。
貰ったチョコに律儀にお礼をして、何故か木村さんが用意した宮地さん専用の紙袋にそれを入れる。
その作業の繰り返しです。
そうして気付いた時には、何処かのモデルに負けないくらいチョコを貰っていました。
それに高尾は驚きと、複雑な気持ちが渦巻きましたが、宮地さんがうんざりした顔をしてチョコを食べる姿を見て、それは笑いに変わります。
そんなに嫌なら捨てればいいんじゃ……と口にしてみましたが、それはなんか悪いだろ。と返され、何だかんだ優しい宮地さんに笑みが零れてしまいます。
宮地さんは予め用意していたコーヒーを口に含むと、口の中の甘ったるさを除去するようにゆっくりとそれを喉に通しました。
「どれが食いたい?」
手作りのモノ、有名菓子店のモノ、色々な箱の山を顎で指し宮地さんは高尾に聞きます。
「流石に一個は食えないんで……」
宮地さんが一口で食べられるチョコでも、今の高尾にとっては結構な時間がかかってしまいます。
その間に溶ける事は目に見えているので、高尾はニヤっと笑いながら宮地さんを見ました。
「ソレがいいです」
高尾は宮地さんの右手を指差しながら言います。
宮地さんの右手親指と人差し指には、体温で溶けたチョコが少しだけついていました。
「ふーん……」
宮地さんはこんなんでいいのか、と思いながら高尾の目の前に人差し指を持っていきます。
高尾は人差し指を両手で挟むと、指先についたチョコをぺろぺろと舐め始めました。
「くっ、はは……くすぐってぇ」
小型犬にでも舐められてるような感覚に、宮地さんは手を動かさないようにしながら笑います。
「宮地さん親指もー」
人差し指を舐め終わったのか、高尾が親指も要求してきたので宮地さんは何も言わず親指も差し出しました。
宮地さんがチョコを食べては高尾が指を舐める。
その行為を何回か繰り返した後、宮地さんは高尾を膝の上に乗っけました。
「宮地さん?」
「もーチョコ終わりな」
なんだか御機嫌で宮地さんは高尾に言うと、ゆっくり高尾の頭を撫で始めます。
「それ、まじ眠くなるんすけどー」
「寝ろ寝ろ」
膝の上で寝転がった高尾は、次第に瞬きがゆっくりになっていきます。
高尾が小さくなり、チョコを貰えない事は頭で分かっていても、宮地さんは寂しい気持ちを拭えませんでした。
しかし、今日高尾とチョコを食べ、笑っていたらそんな気持ちは何処かへ飛んでいってしまったのです。
こんなバレンタインも悪くないんじゃないかと、宮地さんは高尾を撫でながら思いました。