ちびたか! 2012.ハロウィン1 「宮地さん、今日留守番してますねー」
いつも通り高尾を連れて学校へ行こうとした宮地さんは、高尾の言葉を聞いて、目を見開きました。
「留守番って……お前メシどうすんだよ」
まず先に出たのがメシの心配って……と、高尾は思いましたが、口に出したりはしません。
「テキトーに食っとくんでご心配なくー」
ひらっと手を振りながら高尾が言うので、宮地さんは小さく溜息を吐くと、エナメルからバランス栄養食を取り出し、封を切ってテーブルの上に置きました。
「ちゃんと食えよ」
宮地さんは高尾の事が心配でしたが、そろそろ家を出ないと朝練に遅刻してしまうので、仕方なく学校へ向かいます。
「さってとー」
宮地さんが学校へ行ったのを確認すると、高尾はテーブルに置いてあるノートを開きました。
そしてそれを破っていきます。
やはり体が小さいと何をするにも大変です。
高尾は全身を使って一生懸命ノートを破っていきました。
やっとの思いで破ったノートを、今度は油性ペンで黒く塗っていきます。
「やっべ、ちょーくせぇ」
油性ペンの匂いを間近で嗅ぎながら作業していると、だんだん気持ち悪くなってきます。
それでも高尾は休み休み塗りながら、着実に完成形へと近付けていきました。
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「できたー!」
やっとの思いで完成させたソレを見て、高尾は満足そうに笑うと、ちらっと部屋の時計を見ます。
「やっべ、宮地さんもう帰ってくんじゃん!」
集中していて気付きませんでしたが、もう外は真っ暗です。
高尾は慌ててソレを身に纏うと、宮地さんの帰りを待ちました。
「ただいまー」
間一髪宮地さんの帰宅よりも先に着替えられた高尾は、汗など滲んでいないのに、汗を拭うフリをしました。
「……って、くっせぇ!」
部屋に充満する油性ペンの匂いに宮地さんは顔をしかめると、この元凶である高尾を睨み付けようとして、思わず固まってしまいます。
「トリック アンド トリート!! お菓子下さい! そしてイタズラもします!」
「……は?」
真っ黒な紙を身に纏い、真っ黒なトンガリ帽子を被った魔女らしき高尾がそこにはいました。
「もー、宮地さんノリ悪いなー。ハロウィンですよ! ハロウィン!」
そんな事は高尾が言った決まり文句で分かった宮地さんですが、いまいちこの状況に追い付けません。
「てか今俺すっげー恥ずかしいんで何か言って下さいよ!」
高尾が口を尖らせてブーブー文句を言っている間に、宮地さんはゆっくりとこの状況を理解すると、だんだん笑いが込み上げてきました。
こんな事をするために留守番するとか言い出したのか……とか、メシも食わないとかどんだけ集中してたんだよ、とか。
思えば思う程、笑いと同時に愛おしさが込み上げてきました。
「はは、お前何食いたい?」
宮地さんは思わず笑いながらそう言ってしまいました。
今ならこの可愛い恋人に何でも買ってあげたい。と宮地さんは思います。
「え、宮地さんが優しい……こわっ!」
宮地さんが笑いながら優しい事を言ってくるので、高尾はその思っても見なかった反応に冗談めかした事しか言えません。
「ははー、お前潰す」
宮地さんもいつも通り高尾に返します。
「ちょ、トンガリ潰れるんで頭グリグリすんのやめて下さい!」
指で高尾の頭をグリグリしながら、学校帰りコンビニで買ったお菓子をいつ渡そうか、宮地さんは思考を巡らせるのでした。