長所、短所、好きなタイプは
「むぅ」
職員室にて。私は朝から、とある書類と向き合って頭を悩ませていた。
それは毎年やってくる難問。人気ヒーローは避けて通れないメディアの手。そう――。
「あぁ、ヒーロー名鑑か」
ひょこっと横からデスクを覗いてきたのは、無気力な顔したイレイザーヘッド。ひどい顰めっ面をしてるから何かと思ったら、なんだ、そんな事か、くだらん、と言わんばかりの呆れ顔に思わず唇が尖る。
「イレイザーは、書かないんですもんね」
「アングラだからね」
そう、私が向き合ってるのは毎年発売されるヒーロー名鑑のプロフィールアンケート。ビルボードチャート上位に名を連ねるヒーローはもちろん、メディアにそこまで出ていなくても地方で根強い人気のヒーローだって載る。私だって載る。イレイザーは絶対応じないけど。そのアンケート内容がサクサク書けなくて悩むのだ。
「長所と短所って難しくないですか? どこも短所に思える……短所だけ大量に書いてたら引かれる……」
しかも去年も一昨年も同じ短所じゃあ、苦手を自覚してるくせに克服できないみたいに思われないだろうか。とか。考えちゃうわけで。
「いーじゃねぇの! その短所丸ごと受け入れてくれるファンがいたらマジの愛ってコトじゃね?」
通りがかったマイクさんがイレイザーの肩に腕を回して、話に加わってきた。なァ? と同意を求められてるのに、イレイザーったら完全にスルーしながら、肩に置かれた手を払いのけた。
「そんな包容力ある人いたら出会いたいです
! マイクさんはなんて書いたんですか?」
マイクさんは、払いのけられたのに気に留めず笑顔のまま、手書きのプロフィールをぺらりと私の机に置いた。
「長所、トーク力。短所、金曜の夜は恋人に寂しい思いをさせちま」
「絡み方がうざい、やかましい」
「書き加えんじゃねぇ!」
そこにすかさずイレイザーがペンを構えたものだから、マイクさんは素早く紙を逃して大袈裟に焦ったモーションをする。朝から面白い二人。私にもこんなハッピーな同期がいたらいいのに。
「そんなに悩むことかね」
まぁガンバレよ! と頭をぽんと撫でてマイクさんが去っていく。そういう接触がドキッとさせてファンの心を掴むんだなぁ。
イレイザーは、私の机に置かれた空欄ばかりのプロフィールに視線を落とし、低くて耳に心地いい声でぽつりと呟いた。優しさを孕んだその声は、言葉と裏腹に私に寄り添って解決策を思案してくれているような気がする。マイクさんに撫でられてポジティブが移ったのかもしれない。
「うーん。あ、イレイザーは、もし書くなら何て書きます?」
「俺は……」
何気ない質問に、イレイザーの顔は無表情のまま固まった。考えているのか考えていないのか、ともかく沈黙の数秒。そして徐々に眉間に皺が寄っていく。
「ほらぁ、出てこないじゃないですか! ヒーロー名鑑に限らず、書く機会あるかもですし、考えておいた方がいいですよ」
ほらほらほらね。ぱっと出てこないもんなのよ。長所でまさか『敵の個性を消せる』なんて書くわけにもいかないし、短所で『ドライアイ』なんて弱点を晒すわけにもいかないし。性格の問題になってくると、自慢とか卑屈とか色々。
「べつに、俺はいい」
そうだ。私たちはそこそこ同じ仕事をする時間が長い。何しろイレイザーが担任、私が副担任としてクラスを持っているから。じゃあ、イレイザーに探して貰えばいいじゃない!
「私も一緒にイレイザーの長所と短所考えますから、だから……」
彼の顔は、面倒な予感に歪む。負けじと上目遣いと困り眉で、全力のお願い。
「だから、私の……教えてください」
と、いうわけで、なんだかんだ甘いイレイザーは、迷える子羊である私に救いの手を差し伸べることを了承してくれた。今日一緒に行動するにあたり、お互い観察しあう。気付いた長所と短所を書き留めて、放課後見せ合うことになったのだ。
なのにどうして。
今日に限って、私はどんくさいミスばかりしてしまうんだろう。
イレイザーに見られているという意識があったから、ちょっと見栄を張って無理をしてしまったのかも。そのせいで空回りしてたら元も子もないってのに。
実践形式の授業で生徒と手合わせしていたら、勢い余って監督していたイレイザーの方に攻撃を飛ばして、評価用のタブレット端末を木っ端微塵にしてしまったし。
座学の補佐ではペンを忘れてイレイザーに貸してもらったし。
ペンを返す時お礼にコーヒーを淹れて持っていったら、なんだかめっちゃ味が薄くて「わざとか」と睨まれた。
そんな時に、休憩にのんきに生徒たちとお菓子を食べて談笑しているところを目撃されてしまった。「イレイザーもいりまふか?」なんてモグモグしながら聞いたのは更に良くなかった。貰ってくれなかったし。反省もしなけりゃ落ち込みもしない能天気だと思われたに違いない。
長所を見つけてもらうどころか、短所を連続コンボで見せつけてしまった。イレイザーもきっと、私が長所短所欄を埋められなくて悩むのも頷けると納得したことだろう。観察してイレイザーからの意見が欲しいと頼んだのは私だけれど、完全に裏目に出た。まだバレてなかったかもしれないドジも晒して、私の評価を下げただけになっちゃったもの。
一方、イレイザーはすごい。ステキなところばかり発見した。
生徒に対して誠実で、ハッキリと叱る時は叱る、厳しい優しさの愛の鞭。傷つけることや関係悪化を気にして、あえて厳しく切り込めない私の甘さを思い知った。生徒も緊張感を持って授業に臨むし、だからこそ短期間でこれだけみんなを成長させたのだと思う。
でも、どんくさい私の失敗を、呆れ顔とため息だけで見逃してくれる、見守りスキルもあるんだもの。自分で尻拭いをするならば余計に注意することはしない、そのメリハリのついた対応にはリスペクトしかない。
鬼と言われるような厳しい面も尊敬しているけれど、それに加えて、猫舌なのかふーふー慎重にうどんを冷ましている姿にキュンとしたし、こっそり野良猫におやつをあげてる姿も目撃してしまった。このギャップが人としての魅力なんだ。脱帽感服雨霰。
あぁ。だからこそ、私の評価を聞きたくない。
俺が探しても短所しかなかった、なんてため息を吐かれるのかと思うと気が重い。せめて、どういった短所を記入すれば、ドン引きされず卑屈とか思われず無難かだけでもアドバイスをもらおう。
そう覚悟を決めて、私はイレイザーヘッドのデスクに足を向けた。
「――あの、どうでしたか、私の、観察結果……」
パソコンに向かってキーボードを叩いていた手を止めて、イレイザーはくるりと椅子をこちらに向けた。
少しばかり苛立ちの見える表情に、緊張が高まる。
「今朝、短所しかない、って話をしていたが」
「してましたね。今日も今日とて、失態を重ねてしまって……」
格好悪いところばかりで、短所が書ききれないほどに溢れかえっているに決まってる。ほら、目の前でイレイザーは捕縛布に口元を埋めて、それでもはっきりわかるくらいふーっと長く息を吐いた。そして。
「……謙虚すぎるな」
出てきたのは、短所でも小言でも改善点でもなく。
「え?」
「特に、ひとまわりも違う世代の懐に入るコミュニケーションスキルは学ぶことが多かったよ」
そう言って、ぺらり。彼のデスクの上で表に返されたメモ。長所、という見出しを丸で囲ったその下に、いくつかの箇条書きがある。冷え切った教室を和ませる、リラックスさせて生徒の最大限を引き出す、雑談から生徒のメンタルや背景についてそれとなく聞き出す、誰にでも同じように接する、笑顔が多い、愛嬌がある、など。私がペンを忘れたのも、テストの返却で「たるんでる」と一喝入って冷えた空気を、あえて和ませるためにわざと言ったと思ってる? いやいや、どんだけ前向きに捉えたら、そんなポジティブな誤解が生まれるの。
「えっと、短所は?」
長所の倍くらい別紙で出てくるんじゃないかと恐る恐る聞けば、イレイザーはゆるく首を振って眉を上げた。
「これといって、書くほどの短所は見つからなかった」
「うそでしょ」
その目はドライアイでさらに節穴なの? それとも本気で言ってるの?
疑問、混乱、でも、かぁっと顔が赤くなる。イレイザーは私の不出来な部分を全部肯定してくれてるってことが、純粋に嬉しすぎる。
「俺のほうこそ、厳しいばかりで長所なんて見つからなかったんじゃないか?」
「いえ、全然、長所ばかりで……」
バインダーに挟んで一日持ち歩いたメモは、上下半分ずつ、長所、短所、とスペースを確保していた。けれど書き込みされたのは上半分だけ。
生徒への愛、どこでも寝られる合理的な睡眠術、迫力のある声も、猫の餌を持ち歩いているかわいさも、ふっと見せる目が慈愛に満ちているところも。素敵なところばかりで。
「俺が短所かと思った部分が、どうしてこっち側に書いてあるんだ」
イレイザーは訝しげにメモを眺め、首をかしげる。
その後ろから、マイクさんがひょこっと顔を出した。
「それ……愛じゃね?」
ぼそっと呟かれたその一言。短所丸ごと受け入れてくれるファンがいたらマジの愛。今朝聞いた言葉が頭の中をぐるぐるする。いつものハイテンションでちゃかしてくれたらよかったのに、マイクさんは、真剣味のあるロートーンで、イレイザーの肩を叩いた。
「とりあえずさァ、おまえら、今日二人で飲み行けよ?」
心なしか、イレイザーの頬が赤くなっている気がして、変にドキドキしてしまう。
短所を受け入れてくれるような、包容力ある人いたら出会いたい、と言った朝の私の願いは叶ったわけだけど。いや、ここから恋愛に発展するかなんてわからない。イレイザーが底抜けに優しく甘いだけの可能性もあるわけで。
なにはともあれ。
「結局アンケート埋まってないです!」
「……飲み行ってゆっくり考えようか」
私の悩みもトキメキも、今夜に持ち越しになりそうです。
職員室にて。私は朝から、とある書類と向き合って頭を悩ませていた。
それは毎年やってくる難問。人気ヒーローは避けて通れないメディアの手。そう――。
「あぁ、ヒーロー名鑑か」
ひょこっと横からデスクを覗いてきたのは、無気力な顔したイレイザーヘッド。ひどい顰めっ面をしてるから何かと思ったら、なんだ、そんな事か、くだらん、と言わんばかりの呆れ顔に思わず唇が尖る。
「イレイザーは、書かないんですもんね」
「アングラだからね」
そう、私が向き合ってるのは毎年発売されるヒーロー名鑑のプロフィールアンケート。ビルボードチャート上位に名を連ねるヒーローはもちろん、メディアにそこまで出ていなくても地方で根強い人気のヒーローだって載る。私だって載る。イレイザーは絶対応じないけど。そのアンケート内容がサクサク書けなくて悩むのだ。
「長所と短所って難しくないですか? どこも短所に思える……短所だけ大量に書いてたら引かれる……」
しかも去年も一昨年も同じ短所じゃあ、苦手を自覚してるくせに克服できないみたいに思われないだろうか。とか。考えちゃうわけで。
「いーじゃねぇの! その短所丸ごと受け入れてくれるファンがいたらマジの愛ってコトじゃね?」
通りがかったマイクさんがイレイザーの肩に腕を回して、話に加わってきた。なァ? と同意を求められてるのに、イレイザーったら完全にスルーしながら、肩に置かれた手を払いのけた。
「そんな包容力ある人いたら出会いたいです
![](http://img.mobilerz.net/img/i/12316.gif)
マイクさんは、払いのけられたのに気に留めず笑顔のまま、手書きのプロフィールをぺらりと私の机に置いた。
「長所、トーク力。短所、金曜の夜は恋人に寂しい思いをさせちま」
「絡み方がうざい、やかましい」
「書き加えんじゃねぇ!」
そこにすかさずイレイザーがペンを構えたものだから、マイクさんは素早く紙を逃して大袈裟に焦ったモーションをする。朝から面白い二人。私にもこんなハッピーな同期がいたらいいのに。
「そんなに悩むことかね」
まぁガンバレよ! と頭をぽんと撫でてマイクさんが去っていく。そういう接触がドキッとさせてファンの心を掴むんだなぁ。
イレイザーは、私の机に置かれた空欄ばかりのプロフィールに視線を落とし、低くて耳に心地いい声でぽつりと呟いた。優しさを孕んだその声は、言葉と裏腹に私に寄り添って解決策を思案してくれているような気がする。マイクさんに撫でられてポジティブが移ったのかもしれない。
「うーん。あ、イレイザーは、もし書くなら何て書きます?」
「俺は……」
何気ない質問に、イレイザーの顔は無表情のまま固まった。考えているのか考えていないのか、ともかく沈黙の数秒。そして徐々に眉間に皺が寄っていく。
「ほらぁ、出てこないじゃないですか! ヒーロー名鑑に限らず、書く機会あるかもですし、考えておいた方がいいですよ」
ほらほらほらね。ぱっと出てこないもんなのよ。長所でまさか『敵の個性を消せる』なんて書くわけにもいかないし、短所で『ドライアイ』なんて弱点を晒すわけにもいかないし。性格の問題になってくると、自慢とか卑屈とか色々。
「べつに、俺はいい」
そうだ。私たちはそこそこ同じ仕事をする時間が長い。何しろイレイザーが担任、私が副担任としてクラスを持っているから。じゃあ、イレイザーに探して貰えばいいじゃない!
「私も一緒にイレイザーの長所と短所考えますから、だから……」
彼の顔は、面倒な予感に歪む。負けじと上目遣いと困り眉で、全力のお願い。
「だから、私の……教えてください」
と、いうわけで、なんだかんだ甘いイレイザーは、迷える子羊である私に救いの手を差し伸べることを了承してくれた。今日一緒に行動するにあたり、お互い観察しあう。気付いた長所と短所を書き留めて、放課後見せ合うことになったのだ。
なのにどうして。
今日に限って、私はどんくさいミスばかりしてしまうんだろう。
イレイザーに見られているという意識があったから、ちょっと見栄を張って無理をしてしまったのかも。そのせいで空回りしてたら元も子もないってのに。
実践形式の授業で生徒と手合わせしていたら、勢い余って監督していたイレイザーの方に攻撃を飛ばして、評価用のタブレット端末を木っ端微塵にしてしまったし。
座学の補佐ではペンを忘れてイレイザーに貸してもらったし。
ペンを返す時お礼にコーヒーを淹れて持っていったら、なんだかめっちゃ味が薄くて「わざとか」と睨まれた。
そんな時に、休憩にのんきに生徒たちとお菓子を食べて談笑しているところを目撃されてしまった。「イレイザーもいりまふか?」なんてモグモグしながら聞いたのは更に良くなかった。貰ってくれなかったし。反省もしなけりゃ落ち込みもしない能天気だと思われたに違いない。
長所を見つけてもらうどころか、短所を連続コンボで見せつけてしまった。イレイザーもきっと、私が長所短所欄を埋められなくて悩むのも頷けると納得したことだろう。観察してイレイザーからの意見が欲しいと頼んだのは私だけれど、完全に裏目に出た。まだバレてなかったかもしれないドジも晒して、私の評価を下げただけになっちゃったもの。
一方、イレイザーはすごい。ステキなところばかり発見した。
生徒に対して誠実で、ハッキリと叱る時は叱る、厳しい優しさの愛の鞭。傷つけることや関係悪化を気にして、あえて厳しく切り込めない私の甘さを思い知った。生徒も緊張感を持って授業に臨むし、だからこそ短期間でこれだけみんなを成長させたのだと思う。
でも、どんくさい私の失敗を、呆れ顔とため息だけで見逃してくれる、見守りスキルもあるんだもの。自分で尻拭いをするならば余計に注意することはしない、そのメリハリのついた対応にはリスペクトしかない。
鬼と言われるような厳しい面も尊敬しているけれど、それに加えて、猫舌なのかふーふー慎重にうどんを冷ましている姿にキュンとしたし、こっそり野良猫におやつをあげてる姿も目撃してしまった。このギャップが人としての魅力なんだ。脱帽感服雨霰。
あぁ。だからこそ、私の評価を聞きたくない。
俺が探しても短所しかなかった、なんてため息を吐かれるのかと思うと気が重い。せめて、どういった短所を記入すれば、ドン引きされず卑屈とか思われず無難かだけでもアドバイスをもらおう。
そう覚悟を決めて、私はイレイザーヘッドのデスクに足を向けた。
「――あの、どうでしたか、私の、観察結果……」
パソコンに向かってキーボードを叩いていた手を止めて、イレイザーはくるりと椅子をこちらに向けた。
少しばかり苛立ちの見える表情に、緊張が高まる。
「今朝、短所しかない、って話をしていたが」
「してましたね。今日も今日とて、失態を重ねてしまって……」
格好悪いところばかりで、短所が書ききれないほどに溢れかえっているに決まってる。ほら、目の前でイレイザーは捕縛布に口元を埋めて、それでもはっきりわかるくらいふーっと長く息を吐いた。そして。
「……謙虚すぎるな」
出てきたのは、短所でも小言でも改善点でもなく。
「え?」
「特に、ひとまわりも違う世代の懐に入るコミュニケーションスキルは学ぶことが多かったよ」
そう言って、ぺらり。彼のデスクの上で表に返されたメモ。長所、という見出しを丸で囲ったその下に、いくつかの箇条書きがある。冷え切った教室を和ませる、リラックスさせて生徒の最大限を引き出す、雑談から生徒のメンタルや背景についてそれとなく聞き出す、誰にでも同じように接する、笑顔が多い、愛嬌がある、など。私がペンを忘れたのも、テストの返却で「たるんでる」と一喝入って冷えた空気を、あえて和ませるためにわざと言ったと思ってる? いやいや、どんだけ前向きに捉えたら、そんなポジティブな誤解が生まれるの。
「えっと、短所は?」
長所の倍くらい別紙で出てくるんじゃないかと恐る恐る聞けば、イレイザーはゆるく首を振って眉を上げた。
「これといって、書くほどの短所は見つからなかった」
「うそでしょ」
その目はドライアイでさらに節穴なの? それとも本気で言ってるの?
疑問、混乱、でも、かぁっと顔が赤くなる。イレイザーは私の不出来な部分を全部肯定してくれてるってことが、純粋に嬉しすぎる。
「俺のほうこそ、厳しいばかりで長所なんて見つからなかったんじゃないか?」
「いえ、全然、長所ばかりで……」
バインダーに挟んで一日持ち歩いたメモは、上下半分ずつ、長所、短所、とスペースを確保していた。けれど書き込みされたのは上半分だけ。
生徒への愛、どこでも寝られる合理的な睡眠術、迫力のある声も、猫の餌を持ち歩いているかわいさも、ふっと見せる目が慈愛に満ちているところも。素敵なところばかりで。
「俺が短所かと思った部分が、どうしてこっち側に書いてあるんだ」
イレイザーは訝しげにメモを眺め、首をかしげる。
その後ろから、マイクさんがひょこっと顔を出した。
「それ……愛じゃね?」
ぼそっと呟かれたその一言。短所丸ごと受け入れてくれるファンがいたらマジの愛。今朝聞いた言葉が頭の中をぐるぐるする。いつものハイテンションでちゃかしてくれたらよかったのに、マイクさんは、真剣味のあるロートーンで、イレイザーの肩を叩いた。
「とりあえずさァ、おまえら、今日二人で飲み行けよ?」
心なしか、イレイザーの頬が赤くなっている気がして、変にドキドキしてしまう。
短所を受け入れてくれるような、包容力ある人いたら出会いたい、と言った朝の私の願いは叶ったわけだけど。いや、ここから恋愛に発展するかなんてわからない。イレイザーが底抜けに優しく甘いだけの可能性もあるわけで。
なにはともあれ。
「結局アンケート埋まってないです!」
「……飲み行ってゆっくり考えようか」
私の悩みもトキメキも、今夜に持ち越しになりそうです。
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