2021クリスマス

 雪。イルミネーション。サンタクロース。プレゼント。ひどく浮かれた街。
 クリスマスなんてものにワクワクする年齢ではない。サンタが親だったことなんてとっくの昔に気づいたってのに、この歳になってクリスマスに何を期待すればいいの。一年で十二回やってくる二十五日のうちの一回。ただそれだけ。
 恋人と過ごす日? そんなわけないじゃない。世界のプロヒーローが季節のイベントでみんな恋人と過ごしてたら、平和は一瞬で崩壊よ。バカみたい。だから私だって、恋人がいても尚一人で過ごすクリスマスであることに、何の疑問も不満も感傷も無いの。
 一昨年までは、そう思っていた。

 消太は十二月に入ってすぐに、小さなクリスマスツリーを買ってきた。何の相談も無しに「これが一番可愛いと思った」とかって、突然ツリーを持って帰宅したその姿に吹き出してしまった。だってあの顔で、真剣に選んできたのかと思うと。失礼ながら。
 それから、消太はネットでプレゼントを検索しては、私にこれはどうかと提案してくるようになった。積み木、ラトル、歯固め、手袋、ブーツ、耳のついた帽子などなど。普段から子どもに甘い消太が、私に怒られずにおもちゃ等を買い与えられる事に、顔には出さないけどワクワクしてるみたいだ。
 そう。私たちはサンタになった。
 プレゼントを楽しみにする子どもを卒業してからというもの、クリスマスの楽しみ方をすっかり忘れていたのに。どうでもいい、ただの二十五日だったのに。子供が産まれて私たちがサンタになると、途端に、素晴らしい日にしてあげたくなって、張り切ってアレコレ考えている。
 浮ついて騒がしい街をバカにしてたのに、この前まで電気の無駄遣いだったはずのイルミネーションを「綺麗だな」「可愛いトナカイだね」と子どもに見せて、部屋ではクリスマスソングをかけて。「サンタさん何くれるかな?」と幸せな嘘に満ちた質問をする。
 まだこの子は何も言葉を知らないのに。記憶になんて残らないだろうに。
 イブの夜、消太は自分で選んだプレゼントを、ベビーベッドの中ですやすやと眠る子どもの枕元に置いて微笑んだ。柔らかく繊細な髪をふんわりと撫でる手が、とろんと細められる瞳が、あまりに愛に溢れている。
「クリスマス、こんなに楽しいと思うだなんてね」
「本当だな」
 赤いサンタの帽子を被せた我が子を写真に収めようと真剣な顔をしてカメラを構える消太を思い出して、勝手に口角が上がる。消太がこんなにイベントを気にするようになるなんて。その変化が面白くて愛しくて仕方ない。
 消太はその大きな手で、ベビーの桃のような頬をさらりと撫でると、「さてと」と屈めていた身体を起こした。
「行かなきゃな」
「サンタさんは忙しいね」
 夜のパトロールはこれからなのだ。その前に。
「消太、あのね、プレゼントがあるよ」
「俺に?」
 片眉を上げたその顔は、しまった子どもの物しか考えてなかった、といった所だろう。私も子ども分しか考えてなかったよ。
「サンタさんは消太なんだけどね」
「どういう意味だ?」
「これ」
 ぺらりと見せる、小さな紙。白黒の画像。真ん中の白い小さな丸。見覚えのあるだろうそれに、消太は、あ、と目を見張り固まった。
「二人目」
 はっと夢から覚めたように私に向けられた瞳。はい、と手を広げると、消太も腕を伸ばしてきた。逞しい胸の中に私を包み込んで、存在を確かめるように、身体を労わるように、その手がゆっくり背中を撫でている。首筋に当たる唇が、すぅっと冷たい空気を集めて、ふうっと大きな熱を吐き出した。
「嬉しいよ……」
「ふふ」
 その言葉の中に閉じ込められなかった喜びが、熱い吐息と腕の力に現れる。広い背中に回した手で、ぽんぽん、と肩甲骨を叩けば、出発の時間を思い出した腕は力を抜いた。
「おまえたちの静かな聖夜を守るよ」
 その視線はきっとまた二人の愛の結晶に注がれている。
 きっと年々飾りが増えたり、料理が増えたり、華やかになってゆくことだろう。クリスマスの楽しみ方をようやく覚えた私たちは、伸び代だらけの未来に想いを馳せる。

 その日、イレイザーヘッドが小さく鼻歌でクリスマスソングを口ずさむ姿が見られ、ヒーロー仲間は彼が個性事故にあったのだと思い心配の声をかけたとか。


メリークリスマス!

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