渦(シリアス)

夜中にわしの部屋を訪ねてきたそいつは会うなり抱きついてきた。
否、わしが抱きしめられたと言った方が正しいのか。とにかく深夜0時に男が男を抱きしめているという状況がここに出来上がってしまったのだ。

「こ、こらっどうしたのじゃ天化」

「…」

何も応えない。代わりに腕の力が少しきつくなったような気がする。

「人が来るであろう!離さんか!」

と小声で騒いでみたが、見回りの兵も数時間に一回しか来ない。人の通る気配もない。ここには二人しかいないような錯覚に陥る。


「…一体どうしたのじゃ」

「…」

…。

諦めてされるがままになった。

何分か時が過ぎた後、天化がゆっくり体を離した。

「わりい。眠れなかったからスースの顔が見たくなっちった。もう寝てたさ?」

「いや、まだ寝てなかったがの」

「そっか。じゃ俺っちも部屋に戻るさ。おやすみ」

「…天化、ちょっと上がっていかんか?」

「スース、無理するこたねえさ。あんま長居すると襲っちまいそうだし。じゃっ!」



行ってしまった…。
いつも飄々としてるくせにたまに子供じみた行動をとる。

…。

この日の出来事は以後ずっと太公望の心に、影を落とすことになる。


体を離すとき一瞬見えた彼の顔は

ひどく思い詰めた表情をしていたのだ。





2011/08/28
仙界大戦後くらいの話です。不安定な天化。

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